ピンク・フロイドの『おせっかい』は
大作と小品が同居した初期の傑作
狂気の天才シド・バレット
約1年間のブランクの後にソロ活動をスタートし、70年にリリースした『帽子が笑う…不気味に(原題:The Madcap Laughs)』は、ピンク・フロイドやソフト・マシーンの面々をバックに、シドらしい奇妙なサイケデリックロックを披露している。このソロ作を聴くと彼がピンク・フロイドでやりたかったこと(プログレ的なサウンドを持ったアシッドフォークロック)がよく分かる。後にピンク・フロイドを背負って立つロジャー・ウォーターズは、シドの才能への憧れと反発を感じており、そのコンプレックスは逆に長い間彼の創作の助けとなった。
初期のピンク・フロイド
大作主義者としてのピンク・フロイド
続いてリリースしたのが、初期の代表作『原子心母』(‘70)である。この作品も24分におよぶタイトルトラックを収録しているだけに大作主義は継続しているのだが、B面に収録された3曲が小品ながら美しく儚げなメロディーを奏でていて、ピンク・フロイドの“ドラマチックでありながら牧歌的なサウンド”が聴ける最初のアルバムである。ヒプノシス制作の独創的なジャケット(草原で乳牛が振り返っている)は彼らの音楽性を巧みに表現していると思う。ストリングスや合唱団などの他、現代音楽の作曲家であるロン・ギーシンがゲスト参加しているためにこの作品も前作同様、プログレというよりは実験音楽的で、全英1位になったのは驚きだ。
本作『おせっかい』について
何と言っても、本作には前2作に見られた派手めのゲストはおらず、メンバー4人だけで作り上げているだけに、ハンドメイドのプログレサウンドになっており、彼らの“ドラマチックでありながら牧歌的なサウンド”を創造するにはもってこいの編成だと思う。続く「A Pillow Of Winds」「Fearless」「San Tropez」の3曲は小品ながら彼らのメロディーメイカーぶりが分かるし、2分ほどの「Seamus」では唯一のゲスト犬を交えて(吠えてるだけ…w)ユーモラスなブルースを演奏している。よく考えてみると、本作はシドが脱退した後でメンバー4人だけで力を合わせて作った最初のアルバムと言っても良いのではないか。これまでのアルバム制作を通して培った技術や精神的なつながりなども含め、その集大成として収録されたラストの23分におよぶ大作「Echoes」は名曲であり名演奏となった。
グループとしてのまとまり、楽曲の仕上がり、演奏の充実度など、どれをとっても、本作はこれまでのアルバムには見られない高い完成度になっている。そして、このアルバムでの試みを、より高みへと向かわせたのが彼らの一世一代の傑作として知られる『狂気』(‘73)なのだが、決して『おせっかい』も負けてはいないと僕は思う。テクニック至上主義でないだけ華はないかもしれないが、長い間聴き続けられるのがピンク・フロイドの音楽である。
もし、ピンク・フロイドのアルバムを聴いたことがないのなら『おせっかい』か『狂気』のどちらかをまずは聴いてください。どちらも彼らのエッセンスが詰まっているだけに、伝わる何かがきっとあると思う♪
TEXT:河崎直人
アーティスト
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