Rhythmic Toy Worldのメジャー1作目
『SHOT』が"ザ・リズミック"な快作に
なったワケを内田&磯村に訊いた

2009年のバンド結成以来、主にライブハウスを主戦場にして活動を続けてきたRhythmic Toy Worldが通算4枚目のアルバム『SHOT』でメジャーデビューを果たした。アグレッシブなバンドサウンドにのせて、仲間との絆や、理想と現実のあいだでもがく葛藤を、飾らないストレートな言葉で届けるリズミックの音楽は、すでにインディーズシーンでは多くの熱いファンを集めている。そんな彼らがメジャー一発目にリリースする今作『SHOT』は、このタイミングで初めて出会うリスナーに向けては、これまでバンドが大切にしてきたものが何なのかをありのままに伝える自己紹介盤であると同時に、これまで彼らを応援してきたリスナーに対しては、その絆を深めながら、これからも共に生きていこうと強く約束を交わすような1枚だ。新たなフィールドに立つ今だからこそ、バンドの王道を突き詰めた今作について、メンバーを代表して内田直孝(Vo/Gt)と磯村貴宏(Dr)に話を聞いた。
――年明けにTSUTAYA O-EASTのツアーファイナルでメジャーデビューを発表しましたけど、お客さんの歓声がすごかったですよね。「おめでとう!」って。
磯村:でも、僕は感動してる場合じゃなかったんですよ。次にやる「さなぎ」のカウントを入れなきゃいけなかったから、すごく緊張してました(笑)。
内田:4人がステージ上で向き合ってたから、歓声は背中で感じる状態だったんです。その歓声もなんとなく期待はしてたものの、それ以上で。グッとくるものがありましたね。
――変な話ですけど、リズミックってインディーズ時代から赤坂ブリッツでワンマンも成功させてたし、「Teamぶっちぎり」っていう事務所があって、自分たちの地盤も整えてきたから、正直インディーズのままやっていくような気もしてたんですよ。
内田:ああ、なるほど。
――バンドとしては、いつかメジャーデビューするっていう意識はあったんですか?
磯村:あんまり意識してなかったんですけど、2年ぐらい前から(メジャーの)お話はあったんですよね。でも、そのタイミングでCMのタイアップもあったりして、「まだまだインディーズでできるんじゃないか?」っていうところがあったので。
内田:僕らがバンドをはじめて、最初に(プロデューサーの川原)祥太さんと出会ったときに、どういう活動をしていきたいかっていう話をしたんですよ。そのときに「僕はメジャーは嫌いです」って言ったんです。当時は今よりもメジャーとインディーズの垣根も大きかったから、インディーズからメジャーに看板が変わるだけで、バンドもスゴくなるみたいな感覚に違和感があったんですよね。デパ地下の総菜とスーパーの総菜があったとして、スーパーの総菜のほうが美味しいこともあるじゃん、みたいな(笑)。だから、僕たちはメジャーにいかないバンドをやろうぜっていうのが始まりだったんですよ。でも、本当に良い人と出会えたときには、(メジャーに)いくことも考えようっていう話をしてたんです。
――じゃあ単純に、その出会いが今のタイミングだったということですね。
内田:そう。ビクターの方たちに出会って、一緒にご飯を食べに行ったりするなかで、なんとなくフィーリングで「一緒にやったら面白いだろうな」っていうのがあったんです。いつか僕らがでっかいステージに出たときに、いまのチームのみんなには袖で見てほしいけど、この人たちにも見てほしいなと思ったんですよ。それ以外に理由はいらなかったというか。
――昔抱いてたようなメジャーとインディーズの垣根みたいなものが、今はもう崩れてきてるっていうのも大きかったのかもしれないですね。
内田:だからこそ、そこまで抵抗がなかったっていうのもあるのかもしれないですね。今はバーンって(メジャーの)看板をつけられる感じじゃなくて、ひとつの選択肢として、選んだ道の先にメジャーがある、みたいな感じで受け取ってもらいやすくなってるので。
Rhythmic Toy World・内田直孝 撮影=風間大洋
――そんなリズミックのメジャーデビューアルバムとなる『SHOT』ですけども。今回はシンプルにバンドの自己紹介盤になったんじゃないかなと思います。
内田:ザ・リズミックトイワールドですよね。それを、このタイミングで作れるかどうかがバンドにとって大事だと思ってたんですよ。勝負のときに、どれだけ気負わない作品を出せるかっていうのは、ちょっとかっこつけて言うと、ミュージシャンとして見せ所だと思うんですよ。いままでたくさん曲を作ってきて、この先もずっと曲を作り続けていくわけじゃないですか。そうなると、やっぱりフルスイングしても、球が当たらないときもあるわけですよ。どれだけすごい人でも三振するときがあるし。でも、今回みたいに自分たちが本当に伝えたいと思ったときに、ちゃんと「Rhythmic Toy Worldはこういうバンドなんだ」って言うことができる作品ができるっていうのは、自分で言うことじゃないかもしれないけど……「持ってるな」って思いましたよね(笑)。
――わかります。今回のアルバムを聴いて、リズミックって勝負強いバンドだなって思ったんですよ。ここぞというときにビシッと決めてくる(笑)。
磯村:前作の『TALENT』のときから、制作意欲がずっと続いてたっていうのもあって、どんどん内田が良いメロディーを作ってくるんです。そこに僕らがコードとかアレンジをつけていくっていう作業も、いつもより選択肢が多くて、すごく楽しかったんですよね。そのなかで厳選された13曲が入ってるので、今回は本当に最高傑作というか。『TALENT』は初のセルフプロデュース作品だったけど、今回はまた祥太さんと一緒にやったから、それで、より作品を強いものにすることができたんだと思いますね。
――いま、磯村くんも言ってたけど、今回、内田くんのメロディーがすごく良いじゃないですか。メロディーメイカーとしての精度が確実にレベルアップしてると思うんです。
内田:ありがとうございます。
――そのあたり、自分のなかでは何か意識が変わってるんですか?
内田:うーん……もしかしたら、そんなことで変わるの?って思われるかもしれないんですけど、今回は自分が人からどう見られてるか?っていうことに、すごく向き合ったんですよね。それは自分だけで向き合ったというよりも、祥太さんに見てもらいながら、ですけど。結局、自分らしい、自分らしくないみたいなことって、僕自身の判断じゃないので。
――周りが決めることですよね。
内田:だからステージの上で、僕が話してる内容、書いてる歌、歌ってる声から、何かを受け取るのは相手だから、自分が伝えたいとおりに相手に思われてなかったら、意味がないんですよ。それで、ライブのMCひとつとっても、祥太さんが「なんでその言葉を選んだの?」って聞いてくるんです。僕はこういうふうに伝えるつもりで話したって答えると、「それはわかるけど、その場にいた全員がそれを受け止めてると思ってる?」「自分の見た目とか考えてる?」みたいなことを言われるわけですよ。
――内田くんは髭も生えてて、一見怖い感じもするからね(笑)。
内田:そう! ふてぶてしく見えるんですよね・・・。
磯村:(笑)。
内田:でも、それ直すとか隠すんじゃなくて、ふてぶてしく見えちゃう人間がどういう言葉を使えば、ちゃんと想いが伝わるかを考えろって言われたんですよ。僕のことをわかってる人はわかってくれるけど、見た目だけで判断する人にとっては鼻につくことがあるんだよって。だからって、「僕はふてぶてしくないです」ってやるのは気持ち悪いから、なるべくありのままでっていうところを日常からやってたんです。そのなかで祥太さんに「これはお前っぽい」「これはお前っぽくない」みたいなことを判断してもらったんです。
――どうして、そこまで自分と向き合おうとしたんですか?
内田:やっぱり内田直孝っていう人間が作る歌を、ひとりでも多くの人に聴いてもらいたいからなんです。どれだけ良い音楽を作っても聴いてもらわないと、存在しないのと同じだから。それは悔しいし、悲しい。そのためにできることって何だろう?と思ったときに、自分と向き合ってみたら、いろいろ変わったんです。いままでは自分個人がかっこいいと思う曲を作ってきたけど、Rhythmic Toy Worldっていう場所で歌ってる自分が一番かっこよく歌える曲って何だろう?と思ったときに、歌詞の方向性とか言葉の選び方も変わってきたんですよ、自然に。だから技術が上がったとか、スキルがついたとかではなくて、今は自分がどうすれば、少しでも多くRhythmic Toy Worldの曲を聴いてくれる人が増えるのか?っていうところに、すごくピントが合ってるんですよね。
Rhythmic Toy World・磯村貴宏 撮影=風間大洋
――それでメロディもメッセージも、今のRhythmic Toy Worldとして鳴らす意味をちゃんと持った、研ぎ澄まされたものになったんですね。
内田:うん。いま自分たちのことを「すげえ好き」って言ってくれてる人たちが、「これだよ! これ、これ!」って言ってくれるものを、ひたすら当て続けることが、僕がRhythmic Toy Worldでボーカルをやらせてもらってる以上、いちばん大切なことだって、心から理解できたんです。
磯村:今回は内田が作ってきた曲が、すごく良かったからこそ、昔の曲も入れようって思えたんですよ。再録曲のチョイスには全部意味がありますからね。
――ええ。リズミックがライブで大切にしてる曲はたくさんあるけど、あえて「さなぎ」と「ライブハウス」を入れてるところが、すごく良いなと思いました。
内田:これは、もともと最初に祥太さんが「さなぎ」を入れようって言いだしたんです。そのとき、僕的には、まずメジャーデビューアルバムに再録曲を入れていいのかの判断もついてなくて。でも、「さなぎ」は自分たち的には始まりの曲なんですよね。7年ぐらい前に新宿の小さなライブハウスに出てたときに作った曲なんですけど、この曲をライブでやりだしてから、目に見えて動員が増えてきたんですよ。毎回、ひとりかふたりの予約で、しかも、ずっと同じ子が来てくれてるだけだったんですけど……(笑)。
――いまもその子は来てくれてるの?
内田:こないだの(下北沢)GARDENは来てましたね。僕がダイブをして後ろに行ったときにいて、「来てくれてるんだね」って言いました。で、「さなぎ」はそういう曲だから、自分たちの人生を賭けた大勝負っていうときに、もう一度歌いたいなと思ったんです。
磯村:「さなぎ」も「ライブハウス」も録り直してるんですけど、アレンジは当時のままなんですよ。そこにいまの成長してる自分たちが出せればいいなと思ったんです。
内田:まあ、「メジャーデビューします」っていうときなのに、「まだお前たちは「さなぎ」なのか」っていうのもあると思うんですけどね。俺たちは一生「さなぎ」っていうか、どういう蝶々になるのかわからないっていうところに、無限の可能性があると思うんですよ。僕は自分では空を飛べないことは受け入れたんです。みんなが空を飛ばしてくれるから、自分で飛ぶことだけが全てじゃない。それが、このバンドを9年やって気づけたことだったので。だから、たとえメジャーデビューであろうとも、堂々と「さなぎ」を歌う。その姿が聴いてくれる人へのエールになればいいなと思ったんです。
磯村:「さなぎ」は21歳の内田直孝が歌ってた歌詞だけど、今の内田が歌うと、より説得力があるんですよね。言ってることは一緒じゃないですか。「失敗しても大丈夫だよ」みたいなことだから。でも、お兄ちゃんになった内田が歌うと全然違う。そういうふうにRhythmic Toy Worldって、お客さんのお兄ちゃんみたいなバンドでいたいって思うんです。
Rhythmic Toy World・内田直孝 / 磯村貴宏 撮影=風間大洋
――なるほど。もう1曲の再録曲「ライブハウス」のほうも、リズミックのライブでは欠かせない曲ですよね。
磯村:「ライブハウス」は、お客さん伝いで徐々に広がっていったんですよね。
内田:もともとは「輝きだす」のカップリングですからね。カップリング曲をやり続けるって珍しいじゃないですか。あの曲はバケモノなんですよ(笑)。
――そもそも歌詞が<最高で最強な最上級>って、パンチがありすぎですし(笑)。
内田:ドラゴンボールZかよっていうね(笑)。すごいパワーの曲なんですよ。だから、今のカップリングに入ってるだけの状態だと、「ライブハウス」っていう曲が完全な状態じゃないというか。みんなに知られるアルバムっていう場所に入れてあげることで、この曲が本当に作りたかった景色に連れて行ってあげられるんじゃないかなと思うんですよね。
――あとはメジャーデビューのタイミングでこの曲を入れることで、自分たちの出身地はライブハウスなんだっていうのをちゃんと示せる曲でもありますよね。
磯村:そうですね。リズミックのライブってこうだよっていうのが伝わればと思います。
――新曲についても何曲か話を聞ければと思いますけど。まず、「青く赤く」について。これ、リズミック的にはけっこう事件ですよ。内田くんがラブソングを書いたって。
内田:4年ぶりのラブソングです。
――過去にやったインタビューで、内田くんの名言があって。「僕はラブソングを書かないことが、ラブソングなんです」っていう。
磯村:それ、かっこいいですよねえ(笑)。
――それが今回はストレートに“愛してる”って歌ってます。
内田:やっぱり言わないとっていうことですね。
磯村:しかも、いざ言うとなると、ここまで直球になっちゃうっていう(笑)。
――どうして今回はラブソングを書いたんですか?
内田:正直に言うと、どこか頭のなかに、この作品がたくさんの人に届くんじゃないかっていう確信があったんですよね。だったら、みんなに共感してもらえるようなラブソングを書いてみたいなと思ったんです。それを祥太さんに言ったら、「書かなきゃいけないって思ってるなら、絶対に書かないほうがいい」って言われたんですよ。でも、今なら書きたいし、良いのが書ける気がしますって言ったら、「じゃあ、書いてみて」って言ってくれたんです。僕の場合、歌詞は全部フィクションでいきたいから、何曲もラブソングを書いてたら、いつかネタが尽きちゃうけど。4年に1回ぐらいしか書かないぶん、ちゃんと僕がラブソングを書く意味が出せたんじゃないかなと思いますね。
Rhythmic Toy World・内田直孝 / 磯村貴宏 撮影=風間大洋
――ラストソングには「リバナ」っていう、お母さんへの感謝をつづった曲もありますが。
内田:母、ヤスエですね。
――(笑)。
内田:(メジャーデビューを発表した)EASTにヤスエが来てくれて、みんなで(「いろはにほへと」のときに名前を)叫んだんですけど。そのときに、すごく感動して泣いてたみたいで。それを一緒に来てた姉から聞いて、自分が家を出たときのこととかを思い出しちゃったんです。ずっと迷惑と心配をかけまくって。でも、今は応援もしてくれてるし、自分の晴れ舞台を見て、涙を流してくれるんだって思うと、自分が音楽をやれてることに改めて誇りを持てたというか。それで、よくよく考えたら自分のお母さんに「ありがとう」を伝える曲を書いてねえなと思ったんですよね。それで、書くなら今な気がするっていうか。それも「いつか親に対して書こう」だと、熱量が違うなと思って、EASTのライブが終わってすぐに書いた曲なんです。
――これ、メンバー的にもグッときたんじゃないですか?
磯村:この曲の歌詞が送られてきたときは、「本当にそうだよな」って思いましたね。この前、先行視聴会をやったんですけど、祥太さんがサプライズで、僕らの子供時代とお母さんが映ってる写真を重ねた映像を作ってくれたんですよ。あれは、もう危なかったね。
内田:僕は泣きました。「リバナ」って、母の日に贈る花っぽい名前にしたかったんですよ。僕が住んでた(三重県の)名張市をひっくり返して「リバナ」なんですけど。こういう花の名前がありそうじゃないですか。それに、名張の地名ってみんな花の名前が入ってるんです。僕が住んでたところが、桔梗が丘っていうところで、町のマークが桔梗なんですよね。で、友だちの住んでたところが、すずらん台とか百合ヶ丘、梅が丘とかで、全部花がマークになってる町なので。自分の故郷に思いをのせて書いたこの花が、その町に咲くというか。そういうイメージがいいなと思ってつけたタイトルなんです。
――なるほど。今回のアルバムはメジャーデビューのタイミングだからこそ入るべき曲、もっと言うと、今を逃すと入らなかったような曲が集まったアルバムかもしれないですね。
内田:そうですね。今回のアルバムの大きなメッセージとしては、聴いた人に「そのままでいい」っていうことに気づいてほしいんです。「さなぎ」でも言ってることなんですけど、完璧じゃないことが、どれだけ素敵なことかっていうのを伝えたいなって。
――自分たちが、そういうバンドだからこそ。
内田:うん。アルバムを聴いて、そういうことを感じてもらったうえで、ライブにも来てもらいたいんですよね。やっぱりライブって、新しい自分と出会える場所でもあると思うので。そういう場所で、「あ、自分はこのままでいいじゃん」って感じてほしいです。
――今後、リズミックワールドはメジャーフィールドで戦っていくことになりますけど、どんな展望を抱いていますか?
内田:言っても、僕らの活動はもう10年目とかが見えてくてるわけじゃないですか。これまでの1年1年にはすごくたくさんの意味があったし、それを積み重ねてきたからこそ、いまは「メジャーデビュー」っていうパワーのある言葉に対して、一切負ける気がしないんです。全部ぶっとばす覚悟と自信がある。もちろんメジャーにいくことで気持ちの部分ではすごく気合いが入ってるんですけど、これから聴いてくれるお客さんも、ずっと聴いてくれてるお客さんも置いていかずに、メジャーだから何をするっていうよりも、リズミックがバンドとして何をしたいかっていうことをずっと大事にしていきたいです。

取材・文=秦理絵 撮影=風間大洋
Rhythmic Toy World・内田直孝 / 磯村貴宏 撮影=風間大洋

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