【BRAHMAN】
“BRAHMANでなくても良い曲”を
写真左より時計回り、MAKOTO(Ba)、RONZI (Dr)、KOHKI(Gu)、TOSHI-LOW(Vo)
怒りに満ちた「不倶戴天」から7カ月、両A面シングル「今夜 / ナミノウタゲ」にあったのは大きなやさしさだった。「今夜」には細美武士、「ナミノウタゲ」にはハナレグミがコーラス参加して色を添える。BRAHMANの深化は止まらない。TOSHI-LOW(Vo)が語る!
これは本当に良い曲です、2曲とも。
やった。
BRAHMANでなくても良い曲。変な言い方ですけど。
(笑)。いや、でもね、それでいいと思う。初めてだよ。
あ。失言したかもしれない。
いやいや。要は俺たち、いつも“BRAHMANっぽくていいね”っていう感じじゃん。“癖があるけどそこがいいね”みたいな。それの逆を言われたから。初めてだよ、そういう褒め言葉を言われたの。やった。
思ったことを素直に言っちゃいました。良い曲として始まって、良い曲として終わる。そこが本当にすごいと思ったし、グッときたところなので。
これでグッときてくれなかったら、俺たちも終わりだなっていう作品なんで(笑)。一般的に“良い曲”ってあるじゃない。肌触りで。自分でもそう思ってるし。
「今夜」はどんなふうに作った曲ですか?
映画の主題歌にしたいと言われた時に、実はほとんどできていて。『あゝ、荒野』の映画だと聞いた瞬間に、これはもうぴったりだなと。
原作を知っていた?
寺山修司がすごい好きだったから。『あゝ、荒野』は読んだことなかったけど、天井桟敷とか、『ポケットに名言を』とか、短編集がすごい好きだったから嬉しいなぁと思って。
コーラスが細美武士さんですね。
細美武士の歌なんで、これは。
ん? どういうこと?
「PLACEBO」という歌があって、自分がガキの頃のダチで、拒食症で死んじゃった奴の話なんだけど。その曲に細美武士がコーラスを付けて歌ってくれたことがあって、それを聴いたRONZIが“10年経って曲が完成した”って言ったの。そういうことがあって、いつかあの曲の続きを書きたいと思ってたんだよね。それでできたのがこの曲。
あぁ、そんなことが。
で、細美武士と飲みに行った時に、奴がぶっ潰れて、ひどいことになって。それを見た時に“あいつが生きてたら、こんな感じなのかな”って、ふと思って。普通は飲みに行って潰れられたら嫌なんだけど、とても心地良いというか、物語の続きを見ている気がした。という歌。
《宝箱》っていう歌詞がとても好きです。とても良い言葉。
一生使えない言葉だと思ってたんだけどね。でも、自分がその時に置いてきてしまったものや、捨ててきてしまったもの、そういうものが後悔として生きていく中で、浮かんでは消えていく中で、“今日のひと晩は本当に楽しかったな”という、その楽しさの裏側には、なくしてしまった切なさがすごくある。それで“終わってほしくない”という歌詞になるんだけど。
《ああ今夜 終わらないで》。ここもすごく良い。
いつか終わってしまうことも、もちろん分かっている上で、でも同じ後悔はしたくない。今はガキの頃とは違って大事なものは分かってるつもりでいるので、そういうものが伝わるといいなとは思う。
もう1曲、「ナミノウタゲ」については?
ちょうど冬だったかな。朝7時ぐらいに石巻の漁師の奴から電話がかかってきたんだけど、ワーワー泣いてるから“どうした?”って言ったら、“夢に長男が出てきた”って。そいつは長男と奥さんが津波で流されたんだけど、長男が部活で剣道を練習してるのを体育館の後ろで見てたんだって、夢の話をするの。で、練習が終わったら俺のところに来て、言われたんだよって。“父ちゃん。死にたくなかった”って。どうすればいい?って、朝7時に。
……。
その夢に何か意味があって、たぶん。一生忘れないその夢をどういうかたちで覚えておかなきゃいけないのか。そのことに対するアンサーソングだよね。
《君を夢に見た》という歌詞は、そういう意味だったのか。
その時はありきたりのことしか言えなくて、“お前も一生懸命生きろって意味じゃないの”ぐらいしか言えなかったんだけど。俺はそれを彼にどう伝えるのか。亡くなった長男に、生きてる者として何を伝えればいいのか。それを書かなきゃいけないと思って書いた曲。その電話をもらった日は1日やられちゃって…でも、それも作品として昇華したいなと思った。俺らはそういう生き物だから。人の喜びも悲しみも音楽にして。特に俺は嫌なものを食って、ひねり出す作風なんで。
感情がすごく透明になってる歌だと思いますよ。
それを悲しいこととしたくなかったんだよ。震災があって、悲しくてお涙ちょうだいじゃない。この6年間で泣くだけ泣いたんで、みんな。そこで“みんなひとつに”でも“頑張ろう”でもない、そういう歌を作りたかったんだよね。
話を聞いて、さらに確信を深めました。これは本当に、良いシングルです。
歌詞のことを説明するとか、今まであんまりないんだけど、今回に関しては逆に素直にしゃべっていいかなと思っていて。結局、その情景って俺のものだから人の想像力を奪いたくないんだよね。“これは俺の歌だ”と思ってる人に対して。でも、今回はそれを説明しても、ちゃんと自分のものになってくれるんじゃないかな?という、そのぐらいの力があると思うので、曲自体に。俺が心配する必要はないから、今回は全部しゃべっちゃおうと思ってる。
取材:宮本英夫
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