【WEAVER】
ピアノとシンセサイザーの幸福な融合
無限に広がる可能性を示す最新作
L→R 河邉 徹(Dr&Cho)、奥野翔太(Ba&Cho)、杉本雄治(Piano&Vo)
秋と冬の季節感を反映しつつ、クラブミュージック的な要素を取り入れたEP『A/W』。5月にリリースしたEP『S/S』に続き、さまざまな新境地を切り開いている今作についてメンバーに語ってもらった。
シンセサイザーの音色を盛り込んだダンスミュージック的なアプローチが、かなり発揮されていますね。
杉本
はい。ここ2~3年、シンセの入ったダンスミュージックも自分たちの武器にできたらいいなと思うようになっているんです。ギターがいるバンドはクラブミュージック的なものに振り切れない部分もあると思うんですけど、僕たちの編成はそういうものに近付きながらさまざまな可能性を追求できるのかなと感じています。
河邉
特に「Another World」と「だから僕は僕を手放す」はエレクトロなサウンドの要素が入った、新しいWEAVERを感じていただける曲だと思います。
奥野
NYLON JAPANさんにお願いしたジャケットのビジュアル面や衣装もそうですけど、いろいろ新しい表現をすることができました。僕たちの音楽はライヴでも視覚的な部分を大切にしているので、WEAVERのそういう要素をより洗練してかたちにできたEPです。
「Another World」はダンサブルなサウンドと強いメッセージ性が融合しているのが印象的でした。
河邉
このEPのタイトルの“A/W”が頭文字となる言葉を探す中で見つけたのが“Another World”だったんです。特に学生はそうですけど、自分が属している世界が全てになってしまうところがあると思うんですね。でも、手を伸ばした先には全然違う世界が広がっているし、そこでも生きていくことができるんだよということを描きました。
「だから僕は僕を手放す」もクラブミュージック的ですが、どことなくラテンの香りもありますね。
杉本
はい。そういう要素をシンセサウンドに近付けることをやっています。ちょうど良いバランスを探るのは難しかったんですけど、面白い仕上がりにすることができました。
奥野
リズムのメリハリを付けるために、3人で時間をかけてアレンジを考えていきました。ベースに関して言えばイントロとサビのリズムは似ているんですけど、ちょっと違うものにしていたりします。細かなさじ加減で独特なグルーブを出すことができた曲ですね。
改めて活動を振り返る質問になりますけど、WEAVERがクラブミュージック的な要素を取り入れるようになった背景というのは?
杉本
僕らはギターサウンドに対する憧れもあるんですけど、ピアノバンドでそういう方向に寄せていくと、ギターの二番煎じ的なものになっていくんですよね。そうではないものを探しながら辿り着いたのがシンセだったんです。それはちょっと前に僕たちがロンドンに留学をして、The 1975とか、クリーン・バンディットとかの音楽に触れたのが大きいですね。イギリスにはクラブミュージック的な音作りをしているバンドが多くて、そういうものを自分たちとしても追求する中で必然的にシンセを取り入れるようになりました。
こういう新しさも追求しつつ、「Photographs」のような生音中心の曲も生み出すのが、今のWEAVERですね。
杉本
はい。「Photographs」はJALのウェブCMのテーマソングですけど、「こっちを向いてよ」のようなピアノの音色が美しいものが欲しいというリクエストをいただいたんです。今まで培ってきたサウンドを存分に出したものになっています。
奥野
とても温かい気持ちになることができる曲ですね。聴きながらすごく物語や登場人物をイメージしやすいものになっていると思います。
旅行をしている親子の姿が浮かぶ歌詞ですけど、この子供は母親のお腹の中にいる頃に、その場所に行ったことがあるみたいですね。
河邉
CMの絵コンテや映像を観せていただいたんですけど、親子の関係を描いたものだったので、そこからイメージを膨らませました。僕がアルバムで昔の写真を見て、“ここ、行ったことない”って言ったら、母が“一緒に行ってたよ。お腹の中にいたんだよ”って教えてくれたことがあったんです。そういう僕の体験も反映しました。歌詞は短い言葉で、できるだけ深く関係性とか情景を描くことが必要ですけど、それが最初の5行で描けたなと思っています。
My Little Loverの「Hello, Again~昔からある場所~」のカバーもとても気持ち良い仕上がりですね。
杉本
ありがとうございます。スタッフさんと“あの曲、いいよね”って度々話していたんです。ライヴの打ち上げで“カバー、何やる?”って相談した時に、河邉がこの曲を挙げて“それだ!”って。その場にいた全員の意見が一致しました。
奥野
エレクトロな音色を入れたアレンジをしたかったんですけど、まずはがむしゃらにループを作って、他のフレーズも考えながら組み立てていく作り方でした。原曲の良さを大切にしながらも、今のWEAVERがやる意味もしっかり追求したアレンジになっていると思います。
「心の中まで(Jazztronik Remix)」は新鮮でした。
杉本
リミックスは初めてなんです。ライヴで自分たちの楽曲をリアレンジすることはよくやっているんですけど、最近のWEAVERがクラブミュージックの要素を取り入れている流れの中で、リミックスをお願いするアイデアが出て。Jazztronikさんならピアノを活かしてくださるんじゃないかなと思って僕が提案して実現したんですけど、今後の自分たちにつながりそうなインスピレーションもいただけました。
いろんな可能性が広がったEPですね。
杉本
はい。今作と前作はコンセプチュアルなEPですけど、自由にいろいろ考えながら実験することができました。いろんな面を良いバランスで表現したものになったと思います。シンセサウンドのWEAVERとピアノサウンドのWEAVERという両方を、今後も良いバランスでやっていきたいです。
取材:田中 大
アーティスト
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