【BUMP OF CHICKEN】
取材:竹内美保
何を歌うべきか、何をしたいのか
それをずっと探していた
『orbital period』という素晴らしく充実したアルバムは、おそらく余力を残さない状態で作りきった作品だったと思います。そうだとすれば、次の作品に向かう時はゼロからのスタートとなりますから、時間が必要であることは当然のことだったと考えられますけど。
藤原
はい。もう、おっしゃる通りです。何もなかったんです。僕は曲を作るのに時間がかかるんですけれど、何に時間がかかるかと言ったら、“何を歌うか”ということで。“こういう音を出してみたい”“こういうアンサンブルをみんなでやりたい”というのは、僕に限らずメンバー全員それぞれ“枯れない湧き水”みたいにどんどん出てくるんですけれど。“何を自分は歌いたいのか。何を歌うべきなのか”…歌詞に関しては、全然上手くいかなくて。“ひとりの人間が本当に言いたいことなんて、突き詰めて考えればそんなに多くの種類はない”ってよく思うんですけれど、だからこそアルバムを作った直後は“もう何も歌いたいことはない”みたいな感じになっていますし。もちろん、ちょっとずつ時間が経過していけば、“こんなことも歌える”というものも出てくるんでしょうけど。でも、それも突き詰めて考えてみると、根源的な部分は最初から今まで同じことを歌ってきているんですよね。だから…やっぱり時間はかかりますよね(苦笑)。日々世の中のニーズを考えながらやっていく人たちもたくさんいると思うんですけれど、僕らはそういうタイプではないので。ニーズがあるとすれば、“自分たちが何をしたいのか”っていうニーズですよね…それを探していたのかな、ずっと。
では、それが見つけられたきっかけでもある、“何を歌いたいか”“何をしたいか”というところで、「R.I.P.」が誕生した背景を教えていただけますか?
藤原
スタジオでギターを持って、あぐらをかいて、そこで詞とメロディーとコードが同時に出てきました。まっさらな状態の中で。で、僕は普段は自分の家でメロディーに関しても、コードに関しても、歌詞に関しても、何回も推敲して、添削して、すごく作り込んでデモテープを完成させるんですけれど、今回はそのスタジオで、瞬発力でその日のうちにおおまかなところまで作り上げてしまったんです。その推敲や添削の作業をしていない分、もしかしたら他の曲と比べたら、リスナーの人が入り込める間口が狭いかもしれないし、違和感を感じる曲になっているかもしれません。
でも、藤原さんの歌い出しの声、歌声がしっかりとした入口になっていると思います。
藤原
あー! そうであれば良かったです。“何を書こうとしたか”って言ったら、もう“聴いたまんまでとらえてください”としか言えないので。
メンバーの皆さんは「R.I.P.」という楽曲をどう感じて、どう受け止められたのでしょうか?
升
この曲ができたのは、実は新しい曲をいろいろハイペースで聴かせてもらっていた時期なんです。で、もう単純に“すごく良いな!”と思って。詞は自分の感覚としてすごくフラッシュバックするものがあったし、アレンジに関してはすごくスピード感があるので、こういう曲を自分のフィルターを通して表現できる喜びを感じていましたね。
増川
いつもそうなんですけれど、自分をこんなに重ねることができる歌って他に知らないし、そういう喜びが感じられるのはうれしいことです。で、今回も僕自身が実際に経験したことに重なったり、メンバー共通のところもあるし、逆にそうではない部分もあったり…そういう“知っている記憶”を思い出すことができる中で、いろんな感情が沸き起こってくるような歌でした。
先程の藤原さんのお話ですと、曲自体の完成のさせ方が今までとは違う行程だったようですけれど、レコーディングではどういうところに一番心を配られました? BUMP OF CHICKENの楽曲制作は、常にかなりの繊細さを必要とする作業だと思うのですが。
直井
意外に、そんなに細かくはないんです。だから、そこはもう楽しんでいいというか。藤原が作ってくるデモの段階でかなりしっかりとした構成と明確な意志が一本あるので、それを僕らはそれぞれ自分のパートに置き換えていく作業をしっかりやればいい。最終的な色付けはギターだと思うので、そこではちょっとした繊細な作業はあるのかもしれないですけれど。ひたすら“ようやくレコーディングできる!”っていう楽しさだけでやっているので、ベーシックな部分では結構動物的にプレイしていましたね。もう、ガシガシ!と(笑)。
でも、この曲ってリズムがそうとう複雑じゃないですか。パターンもかなり変化に富んでいるし。そういう意味では、決して楽しさだけでプレイしていたわけではないのでは?、とも思いますけれど。
升
技術的なハードルっていうのは僕にとっては大きかったので、そういう部分ではもちろんありますけれど。僕が一番気を配らなければいけなかったのは、逆にそういうところにとらわれすぎないで表現するというところなんです。技術的にちょっと引っかかるところがあると、僕の中で方向がズレちゃったりするので…そういうところは、その“動物的に”という部分にすごく助けられた感はあります。メンバーからも、そういう助言をもらっていたし。
藤原
ギターに関しても“良いか悪いか”だけで判断することが多かったので、録りはすごく早かったんです。ただ、ひとつ覚えているのは…またギターを買ったんです(笑)。レスポールで、それもすっごく古いヤツを。
ヴィンテージですか?
藤原
はい。ギタリストの趣味としてはシングルコイルのほうが好きなので、ステージでもずっとレスポール・スペシャルを使っているんですけれど、今回、初めてハムバッキングの、本物のヴィンテージのレスポールをゲットしまして。それがレコーディングで大活躍したんです。曲自体がそういうフレーズや音色を呼んでいたので、歪ませてみたり、間奏の変拍子のところでゴリゴリ鳴らしてみたり。うれしかったし、すごく楽しかったですね、それが。ただ、歌に関しては全然サウンドのテンションには寄っていないです。これだけの速いBPMで16のノリが入っていようが、大きく、そして整然と歌うことを心掛けていました。
確かにスッと入ってきますし、心の深いところへの浸透度がすごく高い歌だと感じました。先程お話した、“入口”ということも含めて。ただ、すごくいろいろなことを考えさせられますし、感じられる歌詞だとも思います。
藤原
そうですか?
“こういうメッセージなんだ”というひと言では括れないと言いますか。“R.I.P”が何に対しての思いなのかというところで思いを巡らせたり。皆さんがおっしゃっていた“記憶”についても考えましたし、“永遠はないからこそ今が愛おしい”と投げかけられている気もしましたし。
藤原
“なんで「R.I.P.」なのか”ということは、言わないでおこうかなと思っています。人それぞれが感じる“R.I.P.”を想像していただければ。物に対しての“R.I.P”でもいいし、記憶に対してでも、何に対してでもいいですから、それは。
ひとつだけ強く感じたのは…歌詞に登場する“尻尾の生えた 内緒の友達”が、「ガラスのブルース」の“ガラスの眼をした猫”の姿に重なったのですが。星になった猫のあの姿に。
藤原
ええっと…まぁ、そうですね。取っ掛かりは、同じ猫です。その通りです。はい。
“メリークリスマス”って歌うことは
こんなに楽しいことだったんだ
そして、両A面となるもう1曲の「Merry Christmas」は珍しくシーズンズ・ソングですが。ケルト系サウンド、アイリッシュ・トラッドはBUMP OF CHICKENの作品ではときどき取り入れられていますけれど、クリスマスソングとの融合は斬新ですよね。
藤原
これは、ものすごくいなたいイメージで書いていたんですけれど。俺、なんて言ってたっけ?
直井
ハードロックのバラード。ハチロクの…。
藤原
そう。ハードロックの8分の6のバラードみたいなのあるじゃないですか。あの、イヤらしい感じの(笑)。アコギを弾いて歌いながらこの曲を書いていた時、“そんな感じなのかな”ってなんとなく思っていたんですけど、間奏は空けておいたんです。ただ単にコードが弾かれているんじゃなく、何かフレーズが入るんだろうなって自分では思いながら。で、レコーディングブースに入って弾いた一発目が、その間奏のフレーズだったんです。だから、最初からそのアイリッシュ系のフレーズがあったわけではないし、アイリッシュなのって間奏だけなんです。でも、そのフレーズがあることで、そこで使った楽器がその後にも残ったりすることで、全体的にアイリッシュのムードが漂う曲にはなりましたね。
増川
昔からケルトの要素が好きなのは知っていましたけれど、俺はクリスマスを題材とした曲ができた、そのこと自体がもう驚きでした。あまりそういうものはやりたがらないだろうな、と思っていたので(一同笑)。でも、クリスマスの曲って素晴らしいものがたくさんありますけれど、この曲はやっぱり自分にとって一番合うクリスマスソングだなって。自分にとって、細かいところまで救われるようなクリスマスソングなので。
藤原
この曲は実は、僕らのプロデューサーからリクエストがあったので書いた作品なんです。最初は抵抗もあったし、幸せ感があふれるものが書ける気も到底しなかったんですけれど、“クリスマスにちなんでいれば、クリスマスソングのはずだ”と思って(笑)。身近な人の期待には応えたかったし、普段の俺のものの見方で書けばいいじゃないかと思いまして。歌詞の内容に関しては、この曲も個人個人でとらえてほしいんですけれど。個人的には“メリークリスマス”って歌うことの気持ち良さといったら、こんなに楽しいことだったんだって自分で歌ってみて改めて思いました(笑)。増川くんも言ったようにクリスマスの曲で代表的なものっていっぱいあるし、僕も好きな曲ってたくさんあるんですけれど。“メリークリスマス”って歌うことの気持ち良さは、こうして自分で書いて歌ってみないと分からないことでしたね。
でも、この曲はクリスマスシーズンじゃなくても聴ける音楽ですよね。季節に関係なく。
升
そうですね。
直井
「スノースマイル」も夏フェスでバコーン!とやったりするとすごく気持ち良いんですよ。その時の響き方といったら!…みたいな。だから、「Merry Christmas」も夏の時期とかにバコーン!とやって“こいつらバカだなー”って思われる(笑)。でも、俺ら的には曲に差別はないし、いつも4人が“やりたいね”っていうこの気持ちが大事だと思うので。そういう時にやれない曲があるバンドではないと思ってますし。
では、最後に今回の作品の発表後の展望をうかがえますか? 升さんのお話からすると、すでに何曲か作品はできているようでしたので。お話いただける範囲で、ぜひ。
藤原
あの、展望の話が出ることがイヤじゃないです(笑)。その“イヤじゃないな”って思えることが答えになればいいなって。曲が何曲か上がっているのは本当だし、自分たちもいいモードになっているのは確かですから。
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