【奥華子】心の中の叫びっていう意味
では、どんどん叫んでいる気がする
「初恋」がロングセールスを記録する中、大型タイアップのニューシングル「ガラスの花」がリリースされる。さらに、その2週間後には5枚目のオリジナルアルバムの発表も控えている。そんな待望の2作品について話を訊いた。
取材:石田博嗣
ニューシングルの「ガラスの花」はPSPソフト『テイルズ オブ ファンタジア なりきりダンジョンX』のテーマソングなのですが、ゲームありきで作った曲になるのですか?
そうなんですよ。最初にあらすじを読ませてもらって、物語の内容に添ったものを作らせていただいた感じですね。私自身、実はゲームをあまりやらないので、ゲームに物語や奥深い背景があることに感動しました(笑)。時代が現代ではないので、それこそ“電話”っていう言葉が歌詞に入ってはいけない…普段、自分が作っている曲って、そういう名称を入れているから、それを使わずに歌詞を書かないといけなかったのは難しかったですね。
楽曲からは包容力のような温かさと、芯の強さを感じましたよ。
ただ単純に“戦う”っていうんじゃなくて、“大切なものを守るために戦う”っていう…悲しみを知っているから他人にやさしくできるっていうような、人間的な深さも物語から感じたので、おっしゃられたような温かさも出たのかもしれないですね。
ピアノとストリングスが軸になっている曲だけに、途中にギターソロがあったのは意外だったのですが。
始めはピアノがメインで静かに入っていくんですけど、途中にディストーションギターを入れてもらったりして、激しくしたというか。最初に弾き語りで作って、そこに音を足していくんですけど、こんなに派手になるとは思ってなかったですね。何回も先方とやり取りして…それこそ“ここから戦う場面になるのでシンバルを入れよう”とか。きっと普通にこの楽曲のCDを作るんだったら、こういう発想はなかったんですけど、ゲームの主題歌ということで、もっと派手に、もっと盛り上げたいと思って、そういうものに挑戦できました。
そして、同シングルの2週間後にはニューアルバム『うたかた』が発表されるのですが、作る前にテーマみたいなものはあったのですか?
テーマとかまったく考えてなかったですね。毎回そうなんですけど、出来上がったものを集めて、最終的に“あっ、こういう感じだな”って思ってタイトルを付けているんですよ。なので、出来上がった曲を入れていったという(笑)。あとは、ライヴでずっと歌っていたCD未収録の曲を入れたりしてます。10年ぐらい前に作った曲なのですが、今の奥 華子が昔の曲を歌うのも面白いかなって。
なるほど。実は、今回のアルバムを聴いてすごく切ない気持ちになったんですよ。曲の主人公たちは心に傷を持っていて、恋人同士であってもそれを補うためにその人と一緒にいたりして、傷がいつまでも癒えないでいるというか。だから、そういうものがテーマにあったのかなと思って。
確かに、全部そうだ! ハッピーな曲がない(笑)。それは意識してなかったですね。でも、私も最終的に集まった曲を聴いて、上辺だけの幸せっていうか、“今が幸せだったらいい”っていうことよりも、“本当は何を思っているの?”って思っているような曲が多いって思ったんですよ。『うたかた』っていう曲の中で“本当の私”と“偽りの私”って言っているように、付き合っていても、友達同士でも二面性があるというか。そういう曲が多いと思って、タイトルも“うたかた”にしたんです。
「うたかた」はアルバムを象徴している曲だと思いました。この曲のアレンジも「ガラスの花」のように後半のバンドサウンドが説得力を高めていますよね。
今回、バンドで録った曲が多いんですけど、これは出会いだと思いますね。アレンジャーもミュージシャンも今までの方とは違ってて、『初恋』の時にお願いした人とずっとやっているんですけど、すごく生々しいサウンドになったと思います。打ち込みのドラムよりも実際に叩いてもらうことが多かったり、みんなで一発録りでやったり、テンポ感もクリックを聴かずにその時の空気で録ってたりしたので、そういう生々しさが出たのかなって思いますね。
「初恋」の時にすごく振りきったものが作れて、その流れのまま「ガラスの花」を経て、今作の制作に入ったという感じですかね。歌に関しても前までは一歩下がったところで歌っている印象があったのが、「初恋」や「うたかた」は感情移入しないまでも、自然に歌っている感じがしました。
なるほど。確かに、『初恋』は自分の中でも大きくて、歌詞の部分でも“これ、ストーカー?”って思うぐらいまで振りきれたし、歌の部分にしてもそこまで感情を抑えてないんですよ。ファンの方にもすごく好評で、“奥 華子らしいね”って言われて“ああ、そうだな”って思ったり。そんな『初恋』があっての、今回のアルバムっていう感じはありますね。だから、内側に入っているっていうか、心の中の叫びっていう意味では、どんどん叫んでいる気がします。
前作の『BIRTHDAY』の時に自分が歌う理由が見えて、いろんな意味で自由になったとおっしゃっていましたが、そこで自由になったからこそ自分の内側も出せるようになったという感じですか?
『BIRTHDAY』の時は前向きな自分で、聴いてくれる人がいるから頑張れるっていう感じだったんですけど、今回は他人がどうのって考える余裕がないぐらい、自分の内面を歌っている曲が多いですね。それは、やっぱり『BIRTHDAY』があったからそうなったと思います。『BIRTHDAY』は今までの中で一番明るいアルバムだったんですけど、『うたかた』は一番暗いかもしれない(笑)
特に「トランプ」のふたりが悲しい…
悲しいですよね(笑)。ほんとは『ガラスの花』のカップリングだけって思ってたんですど、周りのスタッフが“いいよね、アルバムに入れたいよね”ってことでアルバムに入れることになったんですよ。だから、意識はしてなかったんですけど、その頃から“偽りではない、本当のこと”みたいなことがテーマになっていたのかもしれない。一緒にいても寂しさを感じるっていうか。今回、無意識のうちにそういう曲を書いてますね。
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