【Poet-type.M】美しいものの翻訳の
道程は上級者コース
門田匡陽のソロプロジェクトであるPoet-type.Mが、1stフルアルバム『White White White』を完成させた。バンドという存在まるごとでファンタジーを追い掛けてきた彼が、今、美しいもので埋め尽くした音楽を生み出した――そこに至るまでを語る。
取材:高橋美穂
Poet-type.Mを始動するにあたって、コンセプトはあったのですか?
コンセプトはひとつだけですね。音楽は美しいものの翻訳というか、美しい言葉、場面、匂いだったり、何でもいいんだけど、その翻訳なんだろうなって思ったんです。それ以外をやらないようにしようって。それに気付いてから、この名前で音楽を始めた感じかな。
それはBURGER NUDSやGood Dog Happy Menといった経験を重ねてきて見付けた、究極のコンセプト?
そうですね。BURGER NUDSやGood Dog Happy Menの時から、地続きなことを歌っているとも思うんですよ。ただ、“美しいものの翻訳”以外のものもいっぱい歌っていたと思って。今の状況に対する苛立ちとか、周りのミュージシャンを見ていて気持ち悪いと思う違和感を感じたこととか。そういうのって、すごく重力が強いんですよ。だから、どっかでそういう自分とさよならしなきゃいけないって、ずーっと思っていましたね。
それって負のエネルギーというか。
そうですね。2011年に出した門田匡陽名義のソロ作は、ものすごくそれで作った気がしていて。意識的ではなかったけれど、“Nobody Knows My Name”っていうタイトルだったし。
もうこれから自分の音楽に負の要素は入れない!っていう決意がPoet-type.Mには表れているのですか?
んー…その気持ちを否定するわけではないけれど、プッシュするような音楽を生み出すことはないかな。特に震災以降そう思いましたね。
震災を経て自分は変わったと思います?
僕自身は震災以前も以降も変わらないんですけど、変わったのは音楽だと思うんですよ。あと、ミュージシャンかな。そっからパラドックスに陥った気がしてね。この間、宮崎駿さんがいいことを言っていたけれど“世界がギシギシ音を立てて変化していく中で、ファンタジーが作りづらくなってきた”って。まさに、今、音楽でもそれを言えますね。
芸術の世界だから、ファンタジーを描けるんですもんね。
“Poet-type.M”は、めちゃめちゃファンタジーな名前だと思っていて。“Poet”っていうのは詩人で、“Type.M”は品番のイメージなんですよ。“ゼンマイ仕掛けの詩人”っていう意味で。
あと気になるのは、門田さんはバンドというかたちを愛してきたじゃないですか。それがソロとなると、気持ちの在りようが変わったところがあるのですか?
やっぱりね、僕はバンドのメンバーを、ミュージシャンとして優れているからっていうだけで考えたくはないんですよ。必然的に集まったメンバーでやるのがバンドだって、中学生の時からのファンタジーとして思っているから。BURGER NUDSやGoodDog Happy Menは12歳の時からみんな知っていて、音楽以外のことを共有した仲だからバンドがやれたと思っているんです。このメンツ以外でバンドを組むことは、今も考えられないです。よくGood Dogの時に言っていたのは、みんなの演奏が好きなわけじゃないんですよ、4人とも。(伊藤)大地は俺の歌が好きなわけじゃないし、俺もニラ(韮沢雄希)のベースが好きなわけじゃないし(笑)。ただ、この4人で毎日遊んでいられるからいいよねって。そこがバンドって大事だと思うんですよね。
今作にも元Good Dogの仲間たちが集結していますけれど、これも音色より存在として必要だったからですか?
そうですね。そこは、Good Dogの時と違わなかったです。誰も気を使ってないし(笑)。
(笑)。彼ら以外にもたくさんの参加メンバーがいますけど、最後の「誇りの響き 光の中へ(White White White)」は、門田さんひとりで演奏してるじゃないですか。
最後にこの曲を入れようと思った時って、実はレコーディングは終わっていたんですよ。やっぱりバンドではないっていうのもあるし、8曲で作った世界に句読点を付けたかったんですね。それはひとりでやらないと、ケジメが付かないっていう。
言葉も音も全てがやさしく響いてきますけど、これは門田さんの今の心境を表していたりするのでしょうか?
うん…正直、心の中は今も混沌としていますね。すごく不安でしょうがないし。句読点を付けられたとは思うけれど、僕の物語はこれから始まるわけで。美しいものの翻訳をやるって決めた以上、道程は上級者コースなんですよね。Good Dogの時は“楽しいね、この楽しさをそのまま音にしよう”ってやっていたんですけど、美しいものってファジーじゃないですか。そのへんを歩いてて、いきなり美しい気持ちになったりするから。これはどうすれば音になるだろう?って自分の引き出しをひっちゃかめっちゃか空けてみるんだけど、見付からない時は全然見付からないし、見付かったら一瞬だし。
なるほどね。
レコーディングの時も、すごく緊張していました。死神に鎌かなんかを首に突き付けられているような。でも、そのゾクゾク感は楽しかったんですよね。今まで、そういう楽しさはなかったから。さっきまでの話だと、すごくストイックだったと思われそうだけど、楽しかったんですよ。
紆余曲折ありつつも、門田さんって音楽を手放すっていう方向には絶対にいかないですよね。
ないですね。最初に音楽をやる時から分かっていたんです。音楽って茶道とか“道”が付くものと同じで、何十年やっても極められないものだっていうことを。僕は音楽っていう字の、一番最初の横文字くらいしか分かっていないと思います。
まだ!?(笑)
はい(笑)。だから、他のことをやれないですね。
アーティスト
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