【Poet-type.M】“夜しかない街の物
語”を通して謳う“追悼の夏”

門田匡陽のソロプロジェクト、Poet-type.Mが1年をかけて取り組む4部作の第二弾『A Place, Dark&Dark -ダイヤモンドは傷つかない-』(通称『夏盤』)が完成。作品に込めた想いとともに門田が自分の中にある夏のイメージを語る。
取材:山口智男

今回、初めての合宿レコーディングだったそうですね。

リズムだけ高崎で録ってきました。ドラムの音をいい環境で録りたくて。その条件に合うスタジオが高崎のTAGOSTUDIOだったんです。ドラムのダイナミクスは欲しいと常々思っていました。それでレーベルのスタッフが見つけてきた高崎のスタジオに行って、『夏盤』と『秋盤』のベーシックを録ってきました。

なぜ、今回は楢原英介さんにサウンド・プロデュースを手伝ってもらおうと?

この2年間、Poet-type.Mはメンバーが流動的だったけど、楢やんだけ初めてのライヴから常に一緒なんです。かれこれ1年半ぐらいやってきて、楢やんはやっと巡り合えたパートナーという気がします。僕が望んでいるPoet-type.M像がちょっと先まで見えている人っていうのかな。ギターはもちろん、バイオリンもピアノも上手いし、楢やんとデモを作る段階からやってみたら、僕もそろそろ一段階上がれるかもって思いがありました。それで一回、サウンドプロデュースを一緒にやってみようということになったんです。ただ、プロデューサーとしてはすごく厳しかった。もっと望まないといけないんだと思いましたね。楢やん曰く、僕は他人にも自分にも甘いそうです(笑)。

今回の『夏盤』は『春盤』の延長上で、さらに躍動感が加わったという印象があります。それは“夏=躍動感”というテーマがあったからだと思ったのですが、レコーディングの環境が変わったということも大きいようですね。

躍動感は楢やんの功績が大きい。ただ、サウンドを夏らしくしようという考えは楢やんにも僕にもなかったんですよ。なぜかと言うと、夏は僕にとって追悼の季節なんです。夏だからって、僕は仲間と海に行ったり、フェスに行ったりしてはしゃぐタイプじゃない(笑)。子供の頃、いつも夏をどう過ごしていたかと言うと、僕はボーイスカウトをやっていたので、灯籠流しとか隅田川の花火大会の警備とか関東大震災で亡くなった方々の慰霊堂の清掃とかそういったことに1カ月を費やしてたんですよ。下町に生まれると、夏って追悼のイベントが多くて。花火大会も江戸の大火の被害者の追悼として始まったものなんですよ。家族が夏に亡くなることも多かったし。だから、夏は完全に追悼の季節。1曲目の「バネのいかれたベッドの上で(I Don’t Wanna Grow Up)」と最後に入っている「ダイヤモンドは傷つかない(In Memory Of Louis)」は『春盤』の「唱えよ、春 静か(XIII)」の続きになっていて、2曲とも『春盤』で旅立った“XIII”という女の子の歌なんです。「バネの…」の“僕”は「ダイヤモンド…」で転落死してしまった“ルイ”なんです。その流れが僕の中の夏のイメージ。ジャケットの花火も追悼の花火なんです。楽しいものではない。これは“XIII”がふと見上げた夜空なんですよ。

では、『夏盤』の音楽性やサウンドメイキングはどんなことを意識したのですか?

最初、僕は1曲目の「バネの…」みたいな音像がもっと出るのかなと考えていました。チェンバーロックの要素が入った今のUSインディーの、みんなで賑やかに演奏する感じをもう少し押し出そうと考えてたんですけど、そうなったのは「バネの…」とトロピカルな感じの「瞳は野性、星はペット(Nursery Rhymes ep2)」の2曲だけでしたね。「その自慰が終わったなら(Modern Ghost)」と「窮屈、退屈、卑屈(A-halo)」は完全に楢やんの得意分野なのでバリバリのニューウェイブになりました。そのどちらかを1曲目にしていたら、『夏盤』も『春盤』と同じ’80’sニューウェイブかと思われたかもしれないけど、「バネの…」を1曲目に持ってきたことで『春盤』と差別化できたと思います。

『夏盤』のリリースイベントを7月5日に前回同様、アコースティックバージョンでやりますね。

『春盤』の時は春のなぁなぁさをお酒を飲みながら酔っ払いの雰囲気で表現しましたけど、今回は追悼の夏というテーマもあるので、もうちょっと趣向を凝らして、クーラーの効いた夏をみんなに感じてもらいたいと考えています。夏の暑さではなく、夏の寒さをね(笑)。

10月にはPoet-type.MとBURGER NUDSが出演する『festival M.O.N-美学の勝利-』が控えていますが、7月1日には出演バンドがもう1組発表されるそうですね。

“美学の勝利”というタイトルが物語っている通り、自分たちが考えている正しさや自分たちの正義を言い切りたいと思っています。だからと言って、世間一般の価値観に反抗する気はないんです。『春盤』『夏盤』ともに音楽業界に巣食う気持ち悪い共有感覚を仮想敵としていますけど、今の音楽シーンで正しいとされている価値観が全て気に食わないというわけではなく、そういう雨雲を感じながら常に生きてきたのは15年前から変わらないし、BURGER NUDSを始めた時からずっと言い続けていることなんです。僕にとっての音楽って圧倒的にひとりなんです。音楽を聴いてる時、新しい曲ができた時。音楽を聴いて幸せを感じる時は共有よりも孤独なんです。ライヴの楽しみ方は“共有”だけじゃない。もっと自由でいい。そんな僕なりのフェスティバルなんです。お祭りなんです。そういう価値観で15年生きてこられた…つまり、それを面白いと思って、僕にリリースさせてくれる人や、それを買ってくれる人がいたことに対する祝祭ですね。
『A Place, Dark & Dark -ダイヤモンドは傷つかない-』
    • 『A Place, Dark & Dark -ダイヤモンドは傷つかない-』
    • PtM-1031
    • 2015.07.01
    • 1620円
Poet-type.M プロフィール

ポエトタイプドットエム:2014年に再結成した3ピースロックバンドBURGER NUDSのメンバーであり、現在活動休止中のGood Dog Happy Menの門田匡陽のソロプロジェクト。13年10月2日に初のフルアルバム『White White White』をリリース。15年1月31日に独演会『A Place, Dark & Dark -prologue-』を開催し、その独演会を皮切りに1年を通して“夜しかない街”の物語を春夏秋冬に分け、音楽で綴っている。16年4月17日には『A Place, Dark & Dark』最終話となる独演会『God Bless, Dark & Dark』の開催が決定している。Poet-type.M オフィシャルHP

OKMusic編集部

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