【中島卓偉】自分にとってのリアル・
1stアルバム
デビュー15周年を迎えた中島卓偉が作り上げた新作は、彼の原点とも言える“BEAT&LOOSE”(ファンクラブの名前)をテーマにした、ロックアルバム『BEAT&LOOSE』。モノラルを意識した、ダイレクトに響くサウンドは、まさに彼にしか作れない一枚だと言えるだろう。
取材:大庭利恵
今回のアルバムは、最初から15周年というテーマに向かって制作をしていったのですか?
10周年の時に初めてベストアルバムを出したんですね。21歳の時から10年間走り続けてきた音をまとめることで、やっとひと区切り付いたなという印象があったので、以前から30歳を越えたらやろうと思ってたアコースティックを始めたんです。アコギのアルバムを2枚リリースして、35歳になる今年、そこでようやく、もう一度ロックかなという気持ちになった感じですかね。
アコギをやったことによって、それまで自分が好きで聴いていたロックに対するリスペクトが変わったという意味?
俺の好きな洋楽のアーティストとかね、口裏を合わせたわけじゃないはずなのに、10年以上続けていくとアコギのアルバムを全員作るんですよ。で、10年やってみて分かったんですけど、それって音楽をやってると案外自然な流れなんです。なので、決してアコースティックだから、バラードが増えたとか、落ち着いたというわけではなく、表現するという意味で。エレキもモノラルっぽいミックス、コンプはキツめにかける。15年、音楽をやってきた今、自分が好きなものを改めてやってみたら、どうなるかみたいなことですね。
確かに、誰もがアコースティックをやると落ち着いたと思いがちですもんね。
日本の音楽シーン、マーケティングを意識して発言すると、日本ってもともとロックがあった国じゃないから、昭和の時代に“エレキを弾いたら不良だ。アコギを弾いたらフォーキーなものだ”っていうイメージが根付いてるんですよね。うちの母親も、俺が家でアコギを弾いてると“丸くなったわね”って言いますからね(笑)。アコギでも激しい曲は、いっぱいあるのにね。
すでにライヴでやられてる曲もあるわけですけど、今の中島卓偉のこういう部分を聴かせたいと思って作ったものを含めて、どういう方向性だったんですか。
基本的に、1枚アルバムを作るために50曲ぐらい書くんですよ。でも、詞にすごく時間がかかるんで、結局は詞が書けたのが15曲だけだった、っていうことなんだけど(笑)。まぁ、20代にやってきたものを焼き直したようなものにはしたくなかったですね。細かい部分で言えば、メロは5つの音符に対して、5つの言葉をハメるわけですよね。でも、6つの言葉のほうが意味が強くなることもあるのに、それを5つの言葉でなくてはいけないというこだわりをなくせたんですよ。だったら、メロを変えればいいじゃないかって。大きな部分で言えば、30代、濃くやりたいんですよね。何年続けられるか分からないですけど、30代の時に書いた曲がのちのち40代、50代になった時、ライブなどで自分の中心となっていてほしいという
一曲一曲が濃いじゃないですか。
確かに、そうですね。「誰もわかってくれない」じゃ、“死んじまえよ”って言ってますからね(笑)。でも、これも20代のほうがいけそうな歌詞ですけど、30代になってからのほうがしっくりきたんですよね。あとは「高円寺」ですかね。“リアル”という部分で描く歌詞は、すごく人に伝わるんだなということを実感してるので。
“サイトウダイスケ”というレポーターや記者を入れることで、歌の中に演出を加える手法も面白かったです。
そうですね。短篇小説のような内容を、いかに歌として届けるかという部分で演出というのを思い付いた時は、自分でもいけると思いましたね。20代の頃は、曲の良さを聴いてくれ、メロディーラインを聴いてくれってことを言ってきましたけど、30歳を越えてからは、詞のほうが重要ですね。人間って裏表がないほうが愛されるじゃないですか。でも、裏表があってもいいと思うんですよ。人に見せられない部分。それが人間臭ささだと思うし。今回のアルバムでは、そういう部分をえぐれたんじゃないかなと思いますね。
モノラル風のミックスにしたことも、ロック感は強く出てますしね。“わざとらしさ”がないのが、すごいと思います。
あぁ、なるほど。俺ね、これをリアル・1stアルバムにしたかったんですよ。自分が好きなサウンドで作れば、もっとブラックミュージックに通用するものも入れるだろうし、ブリティッシュに寄せたと思う。でも、1stアルバムってどんなバンドも良い意味で質感がずっと同じじゃないですか。35歳の中島卓偉がまっさらな気持ちで作ったロックな音と言葉。そういうシンプルな感じで聴いてもらえたらと思ってますね。
アーティスト
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