【吉澤嘉代子】夢中になれるものを見
つけるのは すごく素敵なことだなと
思います
すでにインディーズ時代から絶賛の声を集めてきた特別な才能が、満を持してメジャーデビュー。オシャレで可愛く、それでいて切なく胸に染みるラブリーポップス集『変身少女』を引っ提げて、吉澤嘉代子の新たなページが今ここに開かれる。
取材:宮本英夫
とびきりポップでカラフル。素晴らしいです!
最初に“ラブリーポップス一直線”というテーマを決めたんですけど、前作でかなりバリエーションのある選曲を心掛けたので、今回はもっと振り切れたものを作りたいと思っていて。その中で一番武器になる“ラブリーポップス”の部分を押し出した、濃厚な一枚にしたいと思って曲を選びました。
いわゆる昔のアメリカンポップスやオールディーズとか、そういうのは好きだった?
大学生の頃から今も同じディレクターさんが4年間やってくれてるんですけど、その人と初めて会った時に“メロディーが大瀧詠一っぽいよね”と言われたんですよ。私は大瀧さんを知らなくて、聴いてみたら、すごく素敵だなぁと思って。それから松本隆さんの歌詞が大好きになって、かなり影響されたと思います。
もともと好きだったのはどんな音楽なのですか?
子供の頃には井上陽水さんを聴いてました。父が井上陽水さんのモノマネを、30年間ずっとやっているので。
すごいお父さんだなぁ。
地域ののど自慢に出たりして、いつも車の中にカツラとサングラスを用意していて(笑)。車の中では井上陽水さんの曲か、陽水さんのモノマネをする父の曲か、どっちかしか流れてない(笑)。最初は“またか”と思ってたんですけど、大人になったら大好きになって、影響は一番大きいかなと思います。
そういう昔の音楽を素直に聴ける素養があった?
そうですね。吉田拓郎さんとか、ユーミンさんとか。
もっと前の歌謡曲は好きですか? 50年代や60年代の歌謡曲というか、日本のポップスの原点のような…。
あ、雪村いづみさんがすごく好きです。それもディレクターさんに教えてもらって知ったんですけど、すごくカッコ良いなと思います。なので、ヒーカップ唱法(声をひっくり返す)を私もやりたくて、今回いっぱいやっちゃいました。
今、いろいろつながった気がする。なるほど。
勝手に憧れてるだけですけど。
「ラブラブ」にビートルズのフレーズがちょっと出てくるでしょう。ああいうのも、すごく面白かった。
オマージュがいっぱいあるんです。ミュージシャンの方にも楽しんで参加してもらえて、すごく嬉しいです。アレンジについては、私が言うこともありますけど、ほぼアレンジャーさんとディレクターさんに委ねてます。自分の中から生まれたものが、アレンジャーさんの手によって違うものになって、歌を入れることによってみんなのものになって、お客さんのもとに届くのはすごく幸せなことだと思いますね。
アルバムタイトルの“変身少女”というのは?
たぶん70年代だと思うんですけど、“魔法少女”の代わりに “変身少女”という言葉が使われていたことを知って、それをもとに付けました。
例えばステージに上がる時とか、吉澤さん自身も変身している?
はい。曲の中で変身してます。1曲ごとに主人公や物語があって、ライヴではそれを体現できるようにと思ってるんですけど。曲を作ってる時も、この主人公はどういう人なのか?を書き切りたいなと思っていて。
「美少女」の主人公はどういう子?
「美少女」は中学生ですね。ニキビが気になる年頃で、内にこもった女の子の歌なんですけど。ちょっとオタクっぽい女の子というイメージなので、電子音を入れてもらいました。その子が憧れる理想の自分が「美少女」なんです。夢中になれるものを見つけた理想の自分が「美少女」なので、“美少女”と“変身少女”は同じ意味なんです、私にとって。
“美少女”と“変身少女”の話が出たところで、“魔女”についても訊きますね。吉澤さんと言えば、“魔女”というワードは切り離せないものになってますけど。
魔女は子供の頃からの大事なモチーフなんです。子供の頃に魔女のおばあさんにさらわれる夢を見て、すごく怖かったんですけど、あのままさらわれていたら私も魔女になっていたかもしれないと思って。その頃ずっと学校に行ってない時だったので、自分の世界がものすごく強烈に出来上がっていて、妄想世界の自分と、現実世界の自分を行き来することで自分を保っていたんですけど。それは私の中では黒歴史で、ずっと封印していた時代だったんですけど、大人になって大学も卒業して、その頃の自分がすごく愛おしいものに感じられるようになったので、初めて世の中に出す音源を“魔女図鑑”と名付けたんです。今聴いてくださってるみなさんには、吉澤嘉代子と魔女はつながっているので、メジャーデビューする時になかったことにはしたくないと思って、魔法少女にも通じる“変身少女”をタイトルにしました。
吉澤さんの歌ってファンタジーとか、可愛いとか、そういう第一印象もあるんだけど、そういう深いところを踏まえてるから、グッとくるんですよ。これを聴いて勇気付けられる少年少女はたくさんいると思う。
そうであったら嬉しいです。
誰かに勇気をあげたいとか、そういう気持ちはありますか? 歌手として。
ありますね。特に今回の「美少女」という曲は、私が自分で歌を作る前の自分でもあるんですけど、夢中になれるものを見つけることって、すごく素敵なことだなと思っていて。《恋がしたい》というのは恋愛じゃなくても、お仕事でも趣味でも、何か今までの過去が報われるような、このために今までがあったんだと思えるような、夢中になれるものを見つけたいという曲なので。それがメッセージになるかは分からないですけど、そういう気持ちはありますね。
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