【秦 基博】その時、あなたならどう
しますか? 秦 基博が現代社会に問
いかける!
「水彩の月」が好評だった秦 基博が放つ新曲「Q & A」は、前回のミディアムバラードから一転し、熱いバンドサウンドを聴かせている。また、カップリングには話題のCM曲も収録。中身がギュッと詰まったシングルになった。
取材:榑林史章
「Q & A」は映画『天空の蜂』の主題歌で、「ひまわりの約束」「水彩の月」に続いて、3作連続で映画主題歌ですね。
それぞれまったく違ったテイストの映画だし、僕としては連続とかいう感覚はあまりないんですが。ただ曲ごとにどう自分の想いを込めるか、それによってどんな化学反応が起きるかを考えるだけです。今回の『天空の蜂』は日本映画の中でも群を抜くスケールの大きさで、内容もとてもシリアスで社会性の強いものなので、そこに対してどういう曲調が合うかを考えた時、スピード感があってアグレッシブな曲がいいなとひらめきました。だからと言って、テンポで速くするのではなく、言葉の詰め込み方や言葉の持っているグルーブ感でスピード感を生み出せたらと思って作ったのが、この曲です。歌詞は実際に映画を観させていただいて書いていきました。
サウンドはアコギとエレキがせめぎ合っていて、歌詞でも善と悪がせめぎ合っている感覚がありますね。
映画の内容もそういうものなんです。いろんな新技術を生み出すことに善も悪もないのですが、それが人の役に立つものになるか、凶器になるかは使う人次第。物語には江口洋介さん演じるビッグビーという最新鋭ヘリの設計者と、本木雅弘さん演じる原発の技術者という、ふたりが出てくるのですが、ふたりの運命もどっちがどっちに転ぶか、実は紙一重だったという描かれ方をしています。じゃあ、ふたりの運命を分けたものは何だったのか? 歌詞の最初でも問いかけをしているのですが、実は答えはもう決まっているんです。なのに、そうならないこともあるという矛盾を誰もが抱えているわけで、この曲ではそういうことを歌っています。それで最後にまた、《あなたはどうしますか?》という問いかけでこの歌は終わっていて。
その問いかけに、ドキッとさせられました。
サビの中で《それは愛だ》とひとつの答えを出しているのですが…愛も憎しみも、人との関わりの中で生まれ、愛を求めれば同時に憎しみの感情も生んでしまうことがある。でも、それが人間としての根源的なあり方だとも思うんです。その上で問いかけることで、聴き手の感情を揺さぶることができたらと。何かのきっかけになったらいいなと思いました。いざという時に僕は愛を選びたいし、そうできる人間になりたいと思いますね。
バックトラックは西川進さんのエレキギターが肝になっていますね。
西川さんとは、「鱗(うろこ)」(07年6月発表の2ndシングル)の時が最初で、「青い蝶」(07年9月発表の3rdシングル)とかデビュー初期によく弾いていただいていたんです。今回は間奏でエレキギターが暴れるイメージがあったので、これはもう西川さんしかいないなと。でも、これだけエレキが鳴っているのに、やっぱりアコギが中心にいるというのが、自分らしいサウンドなんだなと改めて思いますね。
アコギは秦さんご自身で弾かれているんですよね?
はい。ギブソンのJ-45で、ナローネックという細いネックのものを使っています。弦と弦の幅が狭くて、その分エッジ感やスピード感が強く出るので、こういう楽曲にはすごく向いています。あと、歌に関してはミックスの段階で、オケのエッジ感に負けないような声の処理を行なっていますね。
カップリングのアコギでしっとりと聴かせる「恋はやさし野辺の花よ」は、CMソングとして流れていますね。
最初は僕の名前がクレジットされずに流れていたんですけど、わりとすぐにバレていたみたいです(笑)。依頼時にこの楽曲をと指定があったのですが、僕はこの曲のことを知らなくて。もともと大正時代のオペラの曲らしいですけど。CMは女性の髪がふわっとなびいて、その瞬間恋におちるみたいなもので、一瞬の心象風景をスローモーションで描いているような映像なんです。その透明感みたいなものが映像に満ちあふれていたので、そこに寄り添えるような音像がいいなと思ったのがひとつ。あと、歌詞やメロディーが極限まで削ぎ落とされたシンプルな作りだったので、それを活かして弾き語りだなと思いました。
そして、3曲目には2012年にリリースしたシングル曲「Dear Mr. Tomorrow」を、ストリングスの四重奏でリアレンジしてセルフカバーしたものが収録されているという。
9月5日に『世界遺産劇場 -縄文あおもり 三内丸山遺跡-』という野外ライヴを行なうのですが、その時に弦楽カルテットと共演するセクションがあるので、そのライヴを感じさせるものがいいなと思って。それで、「Q & A」とのバランスや弦カルと共演することを踏まえて、アルバム『Signed POP』に収録されていた「Dear Mr. Tomorrow」がいいんじゃないかと。例えば、ステージから見える景色は、縄文時代から変わらずにあるものなんだと思うと、それだけで感動的な気持ちになりますし。そんな縄文時代の遺跡で、現代社会だからこそ生まれる言葉が並んでいる曲を歌うことの面白さが、きっとあると思います。
もともとは、都会の片隅で鳴っているような、寂しげな感じの曲でしたね。しかも、“答え”という“Q & A”にも通じる歌詞が出てくるのもポイントかと。
そうなんです。「Q & A」は問いを投げかけているのに対して、「Dear Mr. Tomorrow」では“答えは胸の奥にずっとある”と歌っています。秦 基博という同じひとりの人間が、“答え”というものに対して違った側面から歌っている。それだけでも、ひとつのストーリーとしてアリなんじゃないかなと思います。「Dear Mr. Tomorrow」を聴いてからまた「Q & A」に戻った時、違った感じ方をしてもらえたらうれしいですね。
アーティスト
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