【かりゆし58】心境の変化もたっぷり
詰まったベスト盤
L→R 宮平直樹(Gu)、前川真悟(Vo&Ba)、中村洋貴(Dr)、新屋行裕(Gu)
2016年2月22日で、デビュー10周年を迎えるかりゆし58。その記念日にリリースするベストアルバム『とぅしびぃ、かりゆし』は、ファン投票を基にしたセルフカバーあり、代表曲のオリジナル音源あり、新曲もありという充実の2枚組!
取材:田山雄士
まずは、洋貴さんの話を少し聞かせてください(※ドラマーの中村洋貴はフォーカルジストニアの症状があり、2015年12月に休養を発表)。
前川
“活動を止めないでほしい”という洋貴の後押しで、ベスト盤が無事に出来上がり、ツアーに向けても動き出せてます。この間、ファンクラブに入ってくださってる方を沖縄旅行にご招待してね、洋貴から直接みなさんに挨拶させてもらって、ライヴもやったんですよ。ドラムはサポートの田代浩一さんが叩いてくれたんですけど、洋貴もステージでコーラスしたり、今までよりむっちゃMCしてたりして(笑)。その時、“初めて外から観て、いいバンドだなと思ったよ”みたいなことをふっと言ってくれたんです。それで事実を受け止められた感じはありますね。
ベスト盤の制作はどうでしたか?
前川
過去の音源や演奏、歌詞と向き合えて良かったです。いい部分も稚拙な部分も全部が愛おしくなっていって、原曲を超えるとかじゃない気持ちになれた。恋の歌を書かなくなってきてる自分にも気付いたりするし。
「恋人よ」なんて、MV含めて初々しくていいですよね。
宮平
素敵!
前川
本当にそう! あれは俺の高校の同級生が撮ってくれたんですけど、縁なもんで新曲「嗚呼、人生が二度あれば」のMVも10年越しに頼ませてもらって。
いい話ですね。では、新曲3曲について。「初恋夜道」はつまり、恋の歌を久しぶりに書いてみようと?
前川
そうですね。今はもう思春期ほどには、女の人に対する謎が多くない。だから、何だろう…あの頃、何の迷いもなくラブソングを書けてた自分に、100パーセント片思いするように書くというか。スタジオでメンバーと喋りながらね、どこでどんなふうに手をつないだかとか、フラれた時は死にたくもなったとか、ハートの敏感さを探すみたいな書き方は初めてでした。テンポもあえて歌い回しが追い付かないくらいの速さにして。
宮平
歌詞、2週間くらいかかってますから(笑)。
ここにきての初期らしさ、ファンも嬉しいと思いますよ。女の子バンドにカバーしてほしい気もしました。
前川
あー、いいですね。俺の曲、意外と女性に合うんですよ。
次は「アイアムを」。イントロがカッコ良いですね。
新屋
ありがとうございます! バンジョーギターを隠し味として使ってます。
前川
隠しじゃなくて、モロに出とるわ(笑)。洋貴は休養に入る直前までドラムを叩いてたんですけど(過去曲セルフカバーのうち7曲は中村のテイク)、自分たちの作品に想いを再注入できる時に、たぶん一番身体が動かなかったはずで。でも、あいつがその状況で逃げずにやった演奏はものすごく生々しくて、覚悟を感じたんですね。さっき、過去が愛おしく思えた話をしたじゃないですか。そう変われる中で、洋貴の必死なグルーブも愛おしくなった瞬間があって、そんな気持ちから「アイアムを」の原型ができました。
「嗚呼、人生が二度あれば」はどうですか?
前川
洋貴が聴いた時のこととかいろいろ考えた末に、“10年前に戻れたらバンドやってたと思うか?”っていうテーマに行き着きまして。最終的には分からなかったし、今の道が他と比べてどう良いのかも説明できないんですけど、さんざん悩んで生まれた歌詞になってます。微かに見える希望というか。こういう曲が生まれただけでも、人生が1回なことに意味があるんじゃないかと思うくらいの。
宮平
自分が好きなところは、やっぱり最後の《人生が二度あれば 命がこんなに輝きはしないだろう》。メンバーですごく話し合って出てきた感覚なので、思い入れが強い曲ですね。
この前、TBSの『オトナの!』っていう番組でスガ シカオさんと怒髪天の増子直純さんが出てる回があったんですけど、そこで“青春の歌というのは、真っ只中の人よりも、それを終えた人こそ深いものが書ける”“渦中にいる人に、若い時には書けないフレーズでその大切さを伝えられる”みたいな話をしてて、かりゆし58の新曲を聴いてても、本当にどれもそうだなぁと思いました。
前川
嬉しいです。青春を尊んでないと、美しいととらえてないと書けないことがきっとありますよね。そうやって想いを馳せられる年代が書くほうが確かに素敵かもしれない。沖縄を出てみて海の美しさが分かったりするように、少し離れて見えるものなのかな。
そして、中島美嘉さんに楽曲提供した「愛の歌」(TBSドラマ『表参道高校合唱部!』オリジナルソング)をセルフカバーしているわけですが。
前川
ドラマのためでありつつ、いろんな人生模様を音楽でクリアーにしていく話だったので、バンドもそうなんだろうなと想像しながら作ったんです。10年目を思い描いた当初に書いたのが「愛の歌」で、迎えてみて具体的な景色を踏まえたのが「嗚呼、人生が二度あれば」。余談ですけど、僕がこれをドラマに向けて書いてる時に、BEGINの(島袋)優さんは桐谷健太さんの扮する浦島太郎が歌う「海の声」をauのCM用に作ってて、ふたりで“締め切りヤバい!”って焦ってました(笑)。
知名定男さんアレンジの「かりゆしの風」も感慨深いのでは?
前川
三線を取り入れることをずっと避けてきたんですよ。沖縄のバンドだからこそ、簡単に扱えなかったんです。でも、この節目で前に進みたくて、思い切って定男さんにお願いしました。
新屋
三線は家にあるし、大好きなんですけどね。移動中にトラックでこっそり練習したり(笑)。
前川
笛とか箏とか賑やかで、ワールドミュージックみたいですよね。気に入ってます。
バンドの変化も伝わる10周年記念盤になりましたね。
新屋
正直、10年の実感はないんですよ。僕は今年35歳だけど、それもよく分からない不思議な気持ちで。
宮平
振り返るともちろんいろんなことがあったけど、最近は先のほうがずっと長い気がしてます。
前川
悠久な感じがあって、独りよがりじゃない。沖縄で生まれ育った人間がやる音楽のいいところにちょっとは足を突っ込めたのかな、10年にして。まだまだこれからですよ!
アーティスト
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