【Qaijff】“ポップバンド”として勝
負する!
Qaijffが1st EP『snow traveler』を完成させた。プログレッシブなアレンジが持ち味に挙げられる彼らだが、今作で意欲的に取り組んだポイントはおそらくそこではない。サウンド以外の面にやや比重を置いて、話を訊いてみた。
取材:田山雄士
タイトル曲の「snow traveler」を内田さんが“私”目線で書いてることに、まずびっくりしました。
森
内田のロマンチストな部分はメンバーも分かってるけど、Qaijffになかったタイプの曲ですしね。これをやる!と決断するまでは3人ですごく話し合いました。性別を感じさせたくないから、“僕”で歌ってきたわけだし。幸宏は“逆に、とことんやってみてもいいんじゃない?”みたいに言ってくれたり。
三輪
これだけ具体的な失恋の曲ならね。デモの段階で良くなる確信もあったから、内田にギリギリまで悩んでもらって。
内田
リリースする上で、僕は季節感も大切にしたいんです。12月に出せることになったので、冬へ向かうような曲を作ってみたくて。何度も書き直しましたね。
ライヴでやってた「universe」がリード曲かと思いきや。
三輪
リードも悩みました。3曲録ってから決めた感じだよね?
森
ライヴでは「universe」がリードになり得ると思って演奏してた。そこから“リード曲どうする?”ってなったんですけど、3人とも“「snow traveler」のサビメロがすごくいい!”って。それがたぶん大きかったんですよね。だけど、「good morning」も新鮮なバラードだし、気持ち的にはトリプルA面!
内田
絶対の自信がある、違うタイプの3曲。最後の「good morning」で春の訪れもイメージしてもらえたら。
「universe」の歌詞にあるように、3曲ともポップミュージックの可能性に臆さずチャレンジした印象です。
内田
例えば、「なごり雪」っていう名曲があるじゃないですか。あれを作ったのは伊勢正三さんだけど、僕はイルカさんが歌うほうが好きなんです。イルカさんが語り手になって、男の失恋物語を伝えてくれる感じ。それってポップミュージックにしかできないことのような気がして、すごく憧れますね。
「snow traveler」は、まさに女性目線の曲を提供したような小気味良さがありました。
内田
森 彩乃というヴォーカリストゆえに挑戦できるメロディーなんです。サビだってキャッチーだけど、歌いやすくはない。森だからこそ、うまく仕上がった曲かなと。
最初のサビの《白い空は少し私を綺麗に見せるかな》のライン。濁点がなくて、《綺麗》って言葉があって、冬の表現として素敵だし、スーッと聴ける感じで良かったです。
森
すごい! 濁点ない!! 意識してないよね?
内田
だけど、嬉しい。その1行は何回も書き直したんです。
三輪
俺は《未来から今を見渡したら 限りなく滑稽な日々だ》って歌詞が好き。ここに全てが集約されてる気がして。
森
いろんな見方があるんだね。でも、歌う私としても、最近は曲にスーッと入り込める。自分なりの表現とか、どう聴かせたいとか、想像したものがすぐできるようになってます。
内田
語り手のように森が物語を伝えてくれるスタイルをバンドでやるのって、突き詰めていったら面白い気がしてるんです。アレンジで魅せるバンドはいっぱいいるけど、歌詞の多様性がある人たちはそんなにいないし。
書き直したと言えば、「universe」もライヴとは変わりましたよね?
森
豪快なピアノリフもなくて、もっと静かだった(笑)。
内田
“ポップミュージック”っていう希望的ワードに対して、いろんなアプローチが浮かんでいった感じかな。
世の中の憂鬱を踏まえつつ、《ユーモアが世界を変える》とかズバッと強く出るのがいいなって。
内田
直後にツーバスが登場しますけど(笑)。
三輪
これも初の試みですね。まさにユーモアを表現したくて、ツーバスが欲しくなった。カッコ良さは考えてない!
森
遊び心だよね。
三輪
そう。ツーバスの音が脳内に聴こえたからさ(笑)。
“universe”だから完全に隕石のイメージでした。『ファイナルファンタジー』のメテオみたいな。
内田
わははは! なるほど、そういう受け取り方もあるんだ。
森
でも、《ブラックホールに吸い込まれて》のところなんかは、その画を思い浮かべて歌って弾いてます。《時空が歪むほどの》のフニャ~っとなるシンセの音色も。
「good morning」はどうやってできた曲ですか?
森
私は考えに考えて答えを出したいタイプなんですけど、だからこそなのかな。心を許してる人に、根拠もなく“大丈夫だよ”と言ってもらうことに救われることが多くて。そういう存在の曲になればいいなと思って作りました。
三輪
ボブ・マーリー的だね。
内田
深イイ話。
先の2曲とはガラッと変わって大胆に抜きましたね。
内田
曲に合わせて超ソフトタッチでベース弾いてるんです。このテンポで弱く一定って、すごく難しかった。
森
全員、ソフトだよね。
三輪
抑止力に挑戦した感じ(笑)。
森
これまでもスローな曲はあったんですけど、最終的に激しくなるのが多かったもんね。今回はそうしたくなくて、歌もエモーショナルにならないようにしました。
内田
デモの初期段階で感動しちゃったんですよ。そんな経験なかったので、加えすぎないほうがいいって思いましたね。
根拠のないやさしさじゃないけど、「snow traveler」の《遠く離れた街の君》、「universe」の《まだ見ぬ未来》、「good morning」の《そばにいられない時》は、物理的な距離を超越したい想いが出てますよね。
内田
確かに。もし死んだら人と人の距離ってどんな感じだろうとか、距離すらないのかとか、よく考えるんです。
死は不意に考えますよ、やっぱり。だから、ユーモアが欲しい。揚げ足取りに走りがちな風潮だと、なおさら。
森
うんうん。音楽で最高に救われたい時もあれば、もっと気軽に感じたい時もある。私たちの曲もそうやって、なるべく自由に聴いてもらえたら嬉しいですね。
アーティスト
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