【ねごと】今のねごとが表現したいモ
ードが“クールだけれど熱い”
L→R 澤村小夜子(Dr)、藤咲 佑(Ba)、蒼山幸子(Vo&Key)、沙田瑞紀(Gu)
約2年振りとなる4枚目のフルアルバム『ETERNALBEAT』のテーマは、なんと“踊れるアルバム”。タイトルが示す通り、持ち味であるスペーシーな浮遊感にビートという魂が吹き込まれていて、先入観を粉々に打ち砕くダンサブルでクールな音世界がある。そんな本作について蒼山幸子(Vo&Key)に訊いた。
取材:清水素子
ダンサブルで軽快な素晴らしいアルバムですね。その自信がアーティスト写真の凛とした表情にも表れているように感じます。
ありがとうございます。確かに今回の『ETERNALBEAT』は、聴いてすぐに“ねごと変わったな”って感じてもらえると思うんですよ。制作にあたり、まずキーワードとしてあったのが“踊れるアルバム”ということで、今のねごとが表現したいモードが“クールだけれど熱い”なんですね。そこから今回はダンスビートに振り切ろうと決めていたので、今までになくコンセプチュアルな作品になりました。
結果、幻想的で美しいサウンドスケープがどんどん広がって、前作の「アシンメトリe.p.」でも参加していたBOOM BOOM SATELLITESの中野雅之さん、ROVOの益子樹さんプロデュースによる新曲も本当にビートが心地良かったです。
実は「アシンメトリe.p.」の反響がすごく大きくて、今までねごとを知らなかった層の人たちが、新たに聴いてくれるようになったんですよ。「シグナル」はリズムや瑞紀のコーラスも重たくて、中野さんのアイデアで逆にサビのリズムを抜いたところ、すごくドラマチックな曲になったのがすごいなぁと。「cross motion」はバンド感のある曲で、益子さんのスタジオで“いっせーのせ!”で録ったから、すごく躍動感やグルーブ感が出ましたね。
ノリの良さが前面に出た作品ですよね。蒼山さんの歌声もビートに乗って、より滑らかに耳に飛び込んできますよ。
今回、自分の声とマッチするメロディーラインやテンポを軸に作りたいという意向があったんですよ。そこもメロディーとしての華やかさを優先していたこれまでと比べると変わった点で、そのせいか今までより声のトーンが低くなってます。あと、今回は踊れるビートを最優先したので、ドラムとベースが打ち込みの曲もあったりするんですよ。それでベースの佑は、ずっとシンセベースを練習してました。
おかげでクールな印象が強く打ち出されて、表題曲である1曲目も浮遊感たっぷりの4つ打ちのダンスチューンですが、何より《「うそだ」》という歌詞での幕開けがインパクト大。
最近、歌詞を書くモードもすごく変わってきていて、架空の登場人物の気持ちではなく、とにかく今、自分がリアルに感じていることを言葉にしたいんです。そしたら自然に“うそだ”が出てきちゃったんですよ(笑)。あと、この曲はアルバムの顔になる曲にしたかったので、《回すミラーボール》とか《私たちだけのミュージック》というようなフレーズも入れてみて。実はバンドのことを書くのも初めてなんですよね。
つまりは、それだけ赤裸々にリアルな心情を書けるようになったと。
そうですね。ただ、やっぱり私は美しいものが書きたいから苦しいままの気持ちでは書けなくて、その苦しみを越えて消化できた時にやっと言葉にできるんです。おかげで自分たちが書いた曲に救われるみたいな感覚を、今回、初めて味わうことができたんですよ。歌詞を書いた時の決意だったり、自分の真ん中にある気持ちが、自分の曲で呼び起こされるっていう、そこも今までと全然違いますね。ただ、もちろん明るいことだけ書いてもつまらないし、どこかに陰りがあるのが物事の本質だと思うから、両面あるような曲を書きたいとは考えています。
そういった視点が聴き心地をいっそう神秘的で味わい深いものにしていますよね。リアルと言いつつ日記にように書き連ねるのではなく、瞬間の想いを時に遠回しな表現も交えてぶつけているから、ねごとのリリックは解釈の幅が広いんですよ。例えば《愛してる》というフレーズが登場する「mellow」でも、一概にラブソングとは言い切れない。
そこは目指していたところですね。幅広い人に聴いてもらえるものであるために、普遍的なものを書きたいという気持ちは強いから、特定の状況に限定して聴かれないよう、リアルと普遍性のバランスにはすごく気を付けてます。
一方でギターの沙田さんとドラムの澤村さんが作詞を手掛けている曲は、各自の個性が濃厚に表れているなぁと。
瑞紀はわりとクールな感じの曲を書くことが多いんですけど、今回の「君の夢」は危ういドリーミーさがありますね。小夜子が書いた「Ribbon」は普段おっとり系の歌詞が多い彼女にしてはシリアスで、でも曲はホットで盛り上がれる。ラストの「凛夜」はそのふたりの共作で、いろいろ過ぎ去ったあとに花が咲いてるような雰囲気があったので、この曲で締め括りたいねと最初から決めてました。
しっとりしつつもイントロにはビートの入った曲で、だから“踊れるアルバム”ではあるけれど、ただ単純に盛り上がってパーティー!っていう感じじゃないんですよね。
そこはすごく伝えたいところで、あくまでも“ねごと流”のダンスチューンを届けたかったんですよ。ただカラッと明るいだけではなく、どこか泣けるものでありたいし、切なさみたいなものは大事にしているので、何か胸に染みるものを受け取ってもらいたい。今まで踏み込まなかった領域に踏み込んだアルバムだから、たぶんツアーでは観せ方も変わっていくと思うんです。例えば私以外の場所にキーボードやPCがあるとか、そういう新しい挑戦でこれまでねごとを知らなかった人たちにもアピールしていきたいですね。アルバム発売日の2月1日にはクラブ的な会場でFC限定ライヴを行なうので、そこで映像とか照明も活かしながらアルバムの世界観を試しつつ、今のモードに合うアーティストさんを呼んでの自主企画とかも、今年はやってみたいです。“ねごと”っていう名前もフワフワしてるし、ガールズバンドだし…っていう先入観は捨てて、とにかく1回聴いてみてほしいんですよ。きっと予想と違うものが、たくさんあるはずだから。
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