【BEAT CRUSADERS】今までの中で一番
リスナーに近い アルバムなんじゃな
いかな

L→R ケイタイモ(Key&Cho)、カトウタロウ(Gu&Vo&Cho)、ヒダカトオル(Gu&Vo)、クボタマサヒコ(Ba&Vo&Cho)、マシータ(Dr&Cho)

BEAT CRUSADERS がニューアルバム『popdod』を完成させた。CD デビュー10 周年、ヒダカトオル生誕40 周年という節目である今年。ここぞとばかり(!?) に素の音楽衝動がみなぎるアルバムを作り上げた真意とは?ヒダカとケイタイモに迫る!
文:高橋美穂

今までもビークルはPOPを掲げてきたと思うのですが、今作は特にPOPだと思ったんですよ。というのも、いろいろなジャンルの要素が崩されずにそのまま入ってるのに、ビークルって思えるような楽曲が揃ってるというか。

ヒダカ

確かに!

POPパンクから沖縄民謡から、ファンキーなものも、シューゲイザーなものもありつつ。それがPOPでつながれているこのアルバムから、ビークルのPOPの主張を感じたんですね。

ヒダカ

いわゆるサイドインフォメーションが削ぎ落とされてる感じは自分たちでもしてて。アルバムタイトルが決まる前にジャケットのデザインが進んだのも初めてだし…時間がなかったっていうのもあるけど(笑)。ただ単に俺が“黄色がいい”ってクボタさんに言って、クボタさんがそれをそのままデザイナーに伝えたので。レコーディングも、思い付いたらすぐ録ってたしね。

ケイタイモ

だから、前作よりコンセプチュアルじゃないというか。

ヒダカ

今まではコンセプトありきだったのが、そういうのがない…だから、今までの中で一番リスナーに近いアルバムなんじゃないかな。作る時は特にリスナーとの距離感を考えるわけじゃないけど…仲間に良いって思ってもらえるかを優先してるから。

なぜ、コンセプトがない方向性になったのですか?

ヒダカ

もともと『popdod』を作る動機が、去年『EPopMAKING ~Popとの遭遇~』のツアーを回ってて、後半で先輩バンドをゲストに呼んだんですけど、それがすごく楽しくて。そしたらクボタさんが“来年もこういうツアーに出るためにアルバムを作る”っていきなり言い出したんです。そん時に、バンドの平均値であるマシータが言ったのは、体力的にもキツいからもうちょっと考えようよって。“平均値がそう言ってる、じゃあやろう!”と(笑)。で、ひねくれた俺が“普通ならやらないんだ、じゃあやろう!”と思って作ったのがこのアルバムですね(笑)。

なるほど(笑)。じゃあ、アルバムを作りたい以前にツアーがやりたかったのですね。

ヒダカ

そうそう。そういう意味では、ライヴ感もあるアルバムだろうし。去年、AC/DCとDMC(デトロイト・メタル・シティ)のトリヴュートを録ってた時に、たまたまプリプロがてら作ったら本チャンになっちゃったのが「CHINESE JET SET」なんですよ。そこで、思い付きで録ってもいつもの俺らっぽくなるし、面白い曲になるんだって思って。それに作業の段取りも慣れてきて早くなったし、“結構いけるんじゃねえ?”ってトライしてみたら、案の定地獄のようなレコーディングになったと(笑)。

ケイタイモ

ちょうどアルバムを出そうってクボタが言い出した時は、まだツアー中でね。函館の寒い田舎を車で走ってて。それで、どうせだったらバンドも(CDデビューして)10周年だし、ヒダカトオルも40歳になるし…

ヒダカ

俺の誕生日の6月5日にリリースしようと。

ケイタイモ

そんでどんくらい日にちがあるんだろうって思ったら…

ヒダカ

3ヶ月!

ケイタイモ

ウワオ!って(笑)。

え? そっから曲を作って?

ヒダカ

うん。2曲くらいはあったけど。よく間に合ったなぁって…天才だと思う、自分で(笑)。

それは天才です(笑)。そんなに準備期間がないレコーディングって、今まで…

ヒダカ

初めてです。

ケイタイモ

だから、合宿に入ったりしましたよ。

ヒダカ

そうそう。(マキシマム・ザ・)ホルモンチームがいつも合宿してるところを使わせてもらって。楽しかったよね?

ケイタイモ

いい、いいって聞いてたんで。

ヒダカ

曲のことよりも、そこのケータリングのお姉ちゃんと仲良くなったり。コックさんがもともと何処かのホテルのシェフをやってた人だから、ものすごくメシが美味かったり。

ケイタイモ

ホルモンから、そのへんの情報は入ってたからね。

ヒダカ

そういうことしか覚えてないっていう(笑)。

えぇぇ!? でも、その合宿のおかげで作業は円滑に進んだんですよね?

ヒダカ

うん。ホルモンをいつも録ってるヤスくんってエンジニアが録ってくれたんだけど、ヤスくんは作業をしてて深夜になると髭がどんどん伸びてくるっていう情報も入ってたから、そればっかり見てて(笑)。

ケイタイモ

“ほんとだぁ!”って。でも、俺らメジャー行く前に、クボタのレーベルから出したシングル(「GIRL FRIDAY」)は合宿で録ったんで、あの頃のノリがまた戻ってきたっていうか。スタジオの上に寝るところがあるんで、レコーディングもそこまで時間を気にしなくていいし、あの環境はすごく新鮮で楽しかったですね。

あぁ、何か分かる気がしますね。だからこそ、素の自分たちが詰め込まれたものになったのかもしれない?

ヒダカ

うん、そうかもしれない。多分、ビート・クルセイダース史上初めて自分の声も嫌じゃなかったんですね。自分の声って嫌でしょ? テープ起こしとかする時。

嫌ですね。

ヒダカ

俺もそういう気持ちでCD聴いてて、今までは。だけど、自分の声質に合う曲を自然に作れるようになったんだなぁと思って。今までも曲に一致はしてたんだけど、照れだったり恥ずかしさが残ってたから。今回はそういうのがない。そういう開き直りが、このアルバムはデカいんじゃないかなと。

CDデビュー10周年でそう思えたわけですね。

ヒダカ

やっと。10年掛かっちゃった(苦笑)。

だけど、私がこのアルバムから感じたものってキラキラ感だったんですよね。

ヒダカ

俺たち自身が前向きなんだろうなって、今まで以上に。

ケイタイモ

だって、年をとるに従ってBPM上がってますからね。

ヒダカ

「SHOOTING STAR」なんてBPM210だったかな。それで面白いのは、bonobosと対バンで北海道ツアー回った時に、bonobos側もうちに触発されてBPMが速い曲を作ってきたんですよ。それはね、彼らのベスト盤の『Pastrama』に入ってる「Someway」って新曲で、BPM200くらいだったかな? だからこっちも負けねぇって言って210(笑)。だから、次にbonobosが220を作ってきたら、うちらは230になる(笑)。

永遠に競り続けるっていう(笑)。

ヒダカ

そうそう。そういう単純な発想の曲作りを久々にやったし。前はもうちょっと頭でっかちなところがあったけど。

ケイタイモ

それはやっぱり、前のツアーで先輩バンドとかと回った影響が大きいと思いますね。

ヒダカ

そもそもみんな音楽で食おうと思ってない…かと言って食えてないのかっていうとそんなこともないし。そのさじ加減が絶妙で、俺たちも影響を受けたというか。まずはやりたいことをちゃんとやるっていう。そんでてめぇでケツは持ってりゃいいじゃねえかって、吉村さん(ブラッドサースティ・ブッチャーズ)や増子さん(怒髪天)、あっちゃん(ニューロティカ)、直子さん(少年ナイフ)、加藤さん(ザ・コレクターズ)にケツを叩かれたような感じはしてて。多分、俺たち以上に先輩たちがキラキラしてたところに憧れたんだろうねぇ…こっちも先輩たちを10年以上そういう目で見てきたし。

そういう思いの象徴として、吉村さんをゲストギタリストに迎えたところも?

ヒダカ

そうそうそう。参加してもらった「SUMMEREND」も相当最初の方にできた曲で。一緒にツアーした、あの感じをすぐに真空パックしたかったんだなぁって。

ケイタイモ

あの曲も吉村さんありき的なところだからね。

でも、いろんなところがCDデビュー10周年、ヒダカさん生誕40周年に相応しいアルバムだと思います。

ヒダカ

ね。20周年、50周年の時はどうなっちゃうんだろう(笑)。や、辞めてるでしょ、流石に(笑)。

ケイタイモ

お面とか変えないとね!(笑)

ヒダカ

そろそろこのへんにシワを入れるとかね(笑)。まぁ、先輩バンドが辞めない限りは、俺も辞めないようにはね。負けないようにしないと。

ちなみにアルバムタイトルの“popdod”の由来は?

ヒダカ

同じレーベルのアクアラングと知り合いになって、外国の人とメールしてると分かるんだけど、大文字を使わないんですよ、若い人は特に。日本の中学校英語って、文頭は必ず大文字って教育されるんだけど、あえて全部小文字にするのがクールらしくて。だから、俺も今回歌詞カード全部小文字にしようと思って。で、タイトルは必ず“pop”を付けるから、まず小文字でpopって書いてみたの。そんで、家で寝そべりながら考えてたら、突然popが逆さのdodに見えて、これだと思って“popdod”に…それだけで(笑)。後付けの説明としては、カツアゲされた時に、小銭がないか確かめられるから、逆立ちしろって言われるでしょ? その時に、“小銭はないけどpopは出てきました”みたいな…イメージはそういう感じ(笑)。カツアゲしてもヒダカトオルは“pop”しか出てこないよ、っていうね。

ところでふと今お話を聞いてて思ったのですが、英語力もあって、海外の感覚も取り入れてるってところで、海外進出は考えないのですか?

ヒダカ

全っ然。興味なくはないけど、我々は日本のバンドだから…Jポッパーですから。こないだ電気グルーヴが『J-POP』ってアルバム出したけど、絶対意味があるだろうと思って卓球さんに聞いたら“俺たち20年くらいやってるから、J-POPのど真ん中にいたいじゃん?”って素直に言ってて、あぁそうなんだなって。まぁ、卓球さんは海外でDJやったりしてるからこそ、そう言えると思うけど、その言い様がカッコいいと思って。だから、俺たちもJ-POPでありたいっていうね。全然やりたいんだけどね。こっちから“海外でやりたい”ってがしがし言うよりは、向こうから聴いてみたいって思われるようになりたいですよね。それが一番正しいやり方である気がするし。少年ナイフみたいな在り方も憧れるけど…アメリカに行くと未だにホールクラスを満杯にするしね。だけど、日本のリスナーを置いてけぼりにはしたくなくて。日本でも聴いてもらいたいし、聴かせるべきところはまだまだあると思うし。

ケイタイモ

まぁ、お面はだいぶ認知されてきてますよね。親戚や友人もなぜか増えたなぁと(笑)。

ヒダカ

実家の近所の焼き鳥屋で“サインしてくれ”って言われたしね(笑)。うちの親には平井堅のサインもらってきてくれって言われましたけど(笑)。

あと今回は、昨年の『BOYZ OF SUMMER 2007』の模様が収められたDVDと、ラストラム時代の生産完了音源が付いたアニヴァーサリーパッケージも発売されますよね。

ヒダカ

ヒダカトオル生誕40周年を祝って、お土産的なものを作りたいなってことで、(誕生日の)6月5日に引っ掛けて、6000セット、5000円で作ろうと(笑)。『BOYZ OF SUMMER 2007』は俺らのライヴがまるまると、最後のいろんな出演者とのセッションが入ってますね。

ケイタイモ

MCもノーカットで入ってますので。

ヒダカ

タロウとケイタイモのMCが本当にくだらないですが、ちゃんと飛ばせるようになってるんで(笑)。しのっぴ(アスパラガス)とズィ?レイ(YOUR SONG IS GOOD)はとにかく面白いです(笑)。ラストラム時代の音源は…今聴くとしょっぼいんだ、音が(苦笑)。でも、そのしょぼさがいいっていうか…やっと一巡してそこに辿り着けたかな。3、4年前だったらまだ恥ずかしかったと思うけど、『popdod』作った今、自分の過去と対峙しても堂々としてていいんだって思えて…。それも先輩の影響なんだろうな。増子さんがよく言いますけど“小さくまとまんじゃねぇ”と、そういうことですね!

じゃあ、ツアーでも懐かしい曲はやりますか?

ヒダカ

はい。

おぉ! ツアーを目的にしてただけあって、がっつりツアーも長い感じですか?

ヒダカ

はい。今んとこ、夏フェス前に20本と、夏フェスに6、7本出て、秋に20本ぐらいやります。

対バンも幅広いですね。プリングミンとか竹内電気とか若手もいつつ、ルードボーンズやスカイメイツといった以前スプリットを出した方々も。

ヒダカ

そうですね。久々に「DIGGIN' IN THE STREET」(ルードボーンズとの共作曲)もやりたいし。わりとヒダカトオル・アーカイヴな1年になるんじゃないですかね。誰もうれしくないと思うけど(笑)。まぁ、俺がうれしければいいや! あとは、今年も去年みたいにトーク・クルセイダースっていうアコライヴとルーツ紹介みたいなイベントもやろうと思ってるし、美術館やアート的なホールでアコライヴをするアート・クルセイダースっていうのも計画してて…略してアークルね(笑)。アート・ガーファンクルみたいでしょ? ちょいちょい新しいこともやっていくんで、ぜひお楽しみに!

『popdod』

  • 『popdod』
    【通常盤】
    DFCL-1477

  • 『popdod』
    【初回生産限定盤(CD + DVD)】
    DFCL-1475 〜 6

  • 『popdod』
    【完全生産限定盤アニヴァーサリーパ ッケージ(CD + DVD + CD×3)】
    DFCL-1470 〜 4

BEAT CRUSADERS

結成当初は、hidaka(vo&g)と岩原幸夫の2人組のユニットだった“ビークル”ことBEAT CRUSADERS。岩原が脱退後、hidaka(vo&g)、thai(key&vo)、umu(b&vo)、araki(dr&vo)の4人で活動をスタート。メンバー全員、公の場では張りぼてチックなお面をあてがって登場し、決して素顔を見せない(ライヴは例外)。下ネタコール(ここでは書けない言葉だが…)は、彼らのライヴではお決まり。

そんな彼らは99年、<LASTRUM>より1stシングル「NEVER POP ENOUGH e.p.」でシーンに現れ、パンク/メロコア/スカコアを全てぶち込んで作り上げたパワー・ポップを展開。ラウドなギターが鳴り響くなか、センチメンタルなメロディが押し寄せる楽曲は、ウィーザーのようなバンド像を彷彿させ、耳の肥えた洋楽リスナーにも高い支持を得た。また同年のコンピ盤『特撮狂』で「秘密戦隊ゴレンジャー」をカヴァーするなど茶目っ気もたっぷりだ。以降、スタジオ・ワークと共に精力的なライヴ活動を展開し、01年にアメリカ西海岸ツアー、02年にはオーストラリア・ツアーも行なっている。4枚のアルバムを発表し、ミュージシャン/リスナーからアツい支持を獲得していたビークルだが、03年8月をもってhidaka以外のメンバーが脱退することに。

だが心機一転、同年末にレーベルを<CAPTAIN HOUSE>に移し、ヒダカトオル(vo&g)、クボタマサヒコ(ba)、カトウタロウ(g)、マシータ(dr)、ケイタイモ(key)の5人編成となって活動を再スタート。04年6月にはメジャー・レーベル<DefSTAR RECORDS>へ移籍し、大人気バンド漫画をアニメ化した『BECK』の音楽監修を担当するなど、仮面の下に隠した才能が大爆発した。が、シングル8枚、オリジナル・アルバム3枚、ミニ・アルバム4枚をリリースした後、10年6月6日午前6時6分6秒、オフィシャル・サイト上で9月4日を以って解散ならぬ「散開」することを発表。現状5人で演れることは、ほぼ演り切ったからとのこと。今後はそれぞれ音楽に勤しんでいくようなので、個々の活動に期待したい。

アーティスト