鈴木聖美「TAXI」で考える・・・「別
れた男女に友情は残るのか?」

彼女のデビューは34歳と遅かったが、ファーストアルバムの「Woman」は60万枚を超える大ヒットを記録し、収録曲である「ロンリーチャップリン」はカラオケでのデュエットソングの定番となっている。
今回とりあげる「TAXI」は、女性の繊細な心理がしっとりと描写されたナンバーで、カラオケの定番曲としても長年愛されている。




雨降る土曜の夜。ふと別れた彼に逢いたくなって、ジョージの店へ。彼はいつも土曜の夜、あの店にいたから。つらいことがあると、別れた彼にすがりたくなってしまう時がある。タクシーに乗りこみ向かう。




店の入り口のドア。ガラス越しに彼がいるのが見えた。背中を見ただけで、心がときめいてしまった。制御できない。ドアを開けて平常心で挨拶するまで、素の顔を見られたくない。

・・・と、ジョージの店を舞台にした物語が展開されていくわけだが、今回問題にしたいのはサビの部分だ。




歌詞ではそう歌われているが、はたして別れた男女間に友情は成立するのだろうか?
”想い出を燃やし尽くしたら”とあるが、一度は好きだった相手に、恋愛感情が完全に無くなることなんてあるのだろうか。現に、サビ以前の歌詞をみる限り、この女性は男性の背中を見ただけで、心がときめいてしまっている。このときめきは”友情”ではないだろう。ここでいう”友情”は、別れた男性との関係を夢見る女性側の表現で、女性側の甘やかな期待が混じっていることは否めない。

もちろん、世間には色々な男女の形があり、完全に友情関係に戻る男女もいるのかもしれないが、別れた男女間の友情は、ほぼ「ない」か、どちらかが寄りを戻したがっているとみていいだろう。

鈴木聖美はもともとバンド活動をしており、20歳の頃から数々のコンテストで優勝しているが、プロの誘いを「女の幸せは結婚」と、一度断っている。その後、結婚して二児をもうけたあと離婚、仕事をしながら弟のライブでアマチュアとして歌っていたところ人気がでて、作曲家の井上大輔が「TAXI」を書き下ろしてくれた、という経緯がある。そんな紆余曲折を経てきた彼女が歌うからこそ、この曲のサビには深みがでる。

「幸せ」になることこそが、すべての女性の望みだが、「TAXI」のような恋は、幸せになるのが難しいのかもしれない。

TEXT:遠井瞳

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