永遠にして一瞬の「こどなの階段」を
昇る季節
タイトルにも使われている「こどな」という不思議な言葉の正体は、「おとな」と「こども」の中間。歌っている当時の南波志帆本人がまさに体感していた世界だ。
10代も後半に差し掛かり、様々な経験をする時代。いつまでも子供ではいられない。はじめてのくちづけをしたり、張り裂けるような恋の痛みを知ったり。甘酸っぱい雫の滴る今この瞬間から大人に近づいてしまう。興味はあってもそれは怖いもの見たさにも似ていて、本当に近づいていくには覚悟が足りない。それならばいっそ気付かずにいたかった。ジレンマを抱え、もどかしい気持ちが見え隠れする。
駆け抜けていく季節がまるで写真のようにひとつずつ見えてくる歌詞だ。季節が過ぎるごとに階段を一段ずつ昇って「こどもでいたい」から「早くおとなになりたい」へと変わる心の動きが隠れている。
歌う本人は高校生の時「青春ごっこ」をしていたという。友だちと一緒に何気ない瞬間を写真に撮ったりしていたそうだ。誰だって本当はちゃんと分かっている。制服に袖を通す時間には終わりがあるということ。過ぎた風景は戻ってこないこと。それでも、この瞬間の永遠を願う気持ちと未来への希望を一緒に抱えて足を踏み出す。
「ティーンネイジャーのわたしよ、さようなら。
こどなの階段を昇りきって今、晴れてわたしは大人になります。」
南波志帆は成人を機に更新したブログにこう記していた。10代で打ち立てた「日本武道館でライブができるシンガーになる」という目標はまだ達成されていない。今まではこどなであるがゆえの揺らぎや迷いがあったはずだ。だが、それにもさよなら。ここから先には一層の決意が求められている。そのことを充分に分かっているからこそのブログの言葉だ。
こどなでいる季節だけではない、人生そのものだって階段だと言える。わたしたちも昇り続けている階段を、彼女もまたひとつずつ昇っているのだ。
TEXT:asta
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