アシッドジャズを全世界に浸透させたジャミロクワイのデビュー盤『ジャミロクワイ』
80年代中頃から90年代初頭にかけて、イギリスからアシッドジャズのグループやシンガーが大量に登場してきたが、それは無機質なユーロビートに代表されるディスコ音楽への異議申し立てのようなものであった。特に音楽マニアと呼ばれる人たちにとって、ディスコ音楽はすでに聴くに耐えないものになりつつあった。ディスコに大量に投入されるユーロビートは踊るために特化した曲ばかりで、聴く作業には向かなかった。音楽に敏感な感性をもつ若者は60年代や70年代の古い音源だけれども、踊って良し、聴いて良しという音楽を発掘し続けていた。そこに新しい意味を見出した若者たちは増加し続け、ディスコとは感覚の違う新たな「箱=クラブ」を作り出すようになる。そこでは、特に人力演奏が中心のレア・グルーブ(1)に人気が集まり、そういったサウンドに新しい感覚を加味したグループやシンガーが次々に登場する。インコグニート、ブラン・ニュー・ヘヴィーズ、オマー、ガリアーノなど、アメリカのファンクやソウルに影響を受けたアシッドジャズ系のアーティストには大きな注目が集まった。そして、93年にジャミロクワイが本作でデビューすると一挙に世界中にアシッドジャズ旋風が巻き起こったのである…という話も、もう20年以上も前のことだ。しかし、3月には7年振りのアルバムリリースが決まっているし、5月には来日公演も予定されているので、今回は大ヒットした彼らのデビュー盤『ジャミロクワイ(原題:Emergency On Planet Earth)』を取り上げる。