横山健が語る、2014年に表現活動を行う意味「俺は色んなことを考えるための入り口になりたい」
(参考:横山健と俺の11年半ーーPIZZA OF DEATH元名物社員がつづる「疾風勁草」番外編)
・「今40半ばで、自分の考えを世に知ってもらうことが大事に思えてきた」
一一『横山健〜疾風勁草編〜』をご覧になって、何を感じましたか。
横山:まずね、映画でもDVDでもいいけど、自分のことを人に撮ってもらって、それが一本の映像作品になるってちょっと凄いことでしょ? だから最初は恥ずかしくて、嬉しくて、あんまし内容がどうっていうのは考えられなかった(笑)。でも3〜4日前に改めて見直して、やっと……あぁ、なかなか濃いぃ映画だな、と思ったかな。
一一いち個人の生き方や考え方がリアルに伝わる内容ですからね。対になるものとして、書籍「随感随筆編」も今年5月に出ています。
横山:うん。もともと映画とはまったく別の話から始まったけど、でも、自分の中ではすごく繋がってる。音楽があって、その音楽をやる人がどういう人間なのか、すごく立体的に見せてくれる可能性が文章や映像にはあって。はっきり言って、そのへんの若いミュージシャンに文章書かせてもそんなに意味はないと思う。でもやっぱり、一応は20年近く最前線でやってきた人間で、今40半ばで、自分はこういうつもりでやってますよ、っていうのを世の中の人に知ってもらうことが大事に思えてきたのかな。
一一音楽家は音楽だけやっていればいい、では終わらない。映像でも文章でも使えるものを使って、どんどん発信していくのが今の健さんですよね。
横山:そこは俺も自覚してる。というのも「音楽だけやってりゃいいの」って思ってた時期は確かにあって。たとえば20代でハイ・スタンダードやってた時は、バンドの存在そのものが刺激的だったし「別に俺たち取材なんか受けなくたって、アルバムとライヴだけで世の中に訴えかけられるぜ」っていう思いがあった。でも横山健ひとりで動き出すと、届き方が全然足りない(笑)。だからハイ・スタンダードっていうのは、ほんとに時代の欲求とも合わさった奇跡のバランスのバンドだった。そういうところに身を置かない限りは、話すこと、書くこと、他の作業も全部使ってもっと伝えていく必要があるなって。それは経験を重ねていくとさらに実感しちゃうかな。
一一なるほど。あと今回のDVD化に際して、久しぶりの新曲がプラスされていますね。
横山:うん。やっぱり映画が完成した最終地点からどんどん時間は経っていくでしょ。そしたらアップデートした自分、DVD化する直前までの自分も現在も入れたくなる。だったら新曲を入れればいいんだって思いついて。あとは直前のインタビューね。実は特典映像で7月の段階のインタビューを撮ってもらっていて。そういうものを入れることで、映画のあとの自分っていうものもパッケージの中に入れ込めたので。
一一新曲「Stop The World」は、かなり意外なアプローチでした。
横山:でしょう? 自分でも思う。この曲自体は去年からあったの。今Ken Bandはライヴしながら曲作って、次のアルバムに向かってるんだけど、新しい曲ができていくにつれて、他とのトーンが違いすぎるなって扱いに困り始めてた曲。たぶんアルバムの一曲としては異質になっちゃうけど、でも、一曲だけ抜き出してこういうカタチで聴かせたら絶対映えると思ったから。
・「僕たちが音を鳴らしてるすぐ隣には、問題がいつでも転がってる」
一一まさに映画を見終えた後の気分に相応しい壮大な曲で。でも同時に今の日本の情勢も入ってる。
横山:もちろん。作ったのは去年の夏だけど、この歌詞を書き始めた時にはすでに集団的自衛権の議論も始まってたし、パレスチナの紛争もあったし。そういう中で自分なりに考えて書いたもので。
一一こういうメッセージを届けることに迷いは何もないですよね。『Best Wishes』以降の健さんは、自分のことよりも、まずはリスナーのため、もっというと日本国民や未来の子どもたちのために動いているように見えます。
横山:そうだと思う。たとえば集団的自衛権って、あれは誰かにとっては良いもので、誰かにとっては悪いもので。僕はどっちとは言わない。個人的に考えはあるけども、とにかく「それについて考えることが必要なんじゃないか」って言ってるの。考えること、知ることが必要。なぜならそれがあなたたちの生活に直結してるから。しかも集団的自衛権に関して言えば「これで死ぬのはあんたじゃなくて、あんたの子供かもしれないよ?」って。そういうことをステージでも毎回訴えてるのね。「今日はライヴだから楽しんで、いろんな気持ちを発散させてくれればいい。でも帰ったら調べてみて。考えてみて」って。教育的って言うとおこがましいけれども、やっぱり僕たちが音を鳴らしてるすぐ隣には、そういう問題がいつでも転がってる。その事実をすごく訴えたくなってる。これは自分に子供ができたことが大きいかもしれないし、あと見ればわかるとおり、もうピチピチの若手じゃないわけで(笑)。もう自分はいいから、次の世代へ、っていう気持ちが出てきたのかなぁ。そこまで謙虚な意味じゃなく、ただ人間の本能としてね。
一一そこで「考えてくれ」というのが健さんらしい。たとえばスラングのKOさんなら「ダメだろ、を言うのが俺のやり方だ」と断言して、あえて極論のNOをぶつけるんですよ。でも健さんは「否」ではなく「考えろ」。
横山:だって考えない人……考えたくない人がいっぱいいるわけで。俺、みんな馬鹿じゃないと思うの。だけど、なんとなく考えたくないのが今の日本だと思ってる。「俺がやんなくても、なんとかなるんじゃねぇか」「今は黙っておいて、もっといい世の中になったらそれ享受しようかなぁ」みたいな人がいっぱいいて。彼らにNOって言っても、やっぱ馬鹿じゃないから「いやNOって言うのはおかしいだろ」って議論が出てきてしまう。それが俺は嫌なの。もちろんKOちゃんのスタンスは絶対間違ってないと思うし、あの人はああいう人なの。話してると考えてることは一緒だなと思うし。でも俺は、そのもっと前の入り口でありたい。いろんなことを考え始めるための入り口というか。
一一押し付けたくない?
横山:うん。「考えてくれ」っていうのは押し付けるけど(笑)。でもそうだね。俺が自分に課している役割は、まず入り口になること。答えを出すんじゃなくて、質問であること、というか。
一一入り口って、引き受ける覚悟がいりますよね。誰でも簡単に入ってくるし、いらない馬鹿だっていっぱい来てしまう(笑)。
横山:そうそう。あとタチ悪いのは「考えろって言ったから考えたけど、あんたがやっぱおかしいよ」って言わるとか(笑)。もちろん映画では「考えた結果、横山健とはまったく意見が合わないって思う奴がいても全然いい」って言ってるけど……そんなのの相手全部できるか、って正直思うじゃない(笑)。でもさ、それこそ今の日本の社会構造を見てると考えたくない人の気持ちもわかるのね。みんな余裕ないもんね。だから言い続けるっていうところもあるかな。その中でもちゃんと考えないと。「じゃないと負けるのあなただよ? 死ぬのはあなたの子供だよ?」っていうことはちゃんと言っておきたい。
一一映画は最後、背中に新しい刺青を入れるシーンで終わりますよね。
横山:うん。実はまだ最後まで進んでないんだけど(笑)。
一一「みんなにとってのお地蔵様になりたい」っていう発言がすごく印象的で。実際、去年以降のピザオブデスでそこを有限実行されてると思うんですよ。より裾野を広げて、みんなを受け入れていく。音楽やパンクに携わるみんなを守ろうとしていく、というか。
横山:……言われてみると、確かに、って思うけど。それは意識的にそうした部分もあるし、単純な楽しさもあるかな。いろんな人と関われること、知り合いが増えるのって嬉しいことじゃない? あとは『FOUR』の時にいろんなところで言ってたけど、アルバムが売れない、音楽が必要とされない、じゃあミュージシャンはどうやって食っていくかって、ほんと深刻な問題でしょう。CDの売上だけで食えるのは本当にごく一部、でもバンドを続けたいなら一緒に考えていこうよ、って。これは言葉が格好良くなっちゃうけど、みんなを守る、助けるっていうことは、やっぱり考えてるかな。
一一今はパンク/ハードコア/ラウド系オルタナティブも含めて、突破口がなかなか見えない時代ですよね。結果が出ないし、シーンがここからさらに大きくなる気配がない、というか。
横山:そうだと思う。見てて可哀想になることも多い。でも、そういうバンドたちには先輩として「だったら頭使ってやってかなきゃダメだぞ」ってちゃんと言っていきたい。もちろん自分の音楽を信じていくなら本当に信じて行けばいいと思うし、ちょっと人の気を引こうとして別なことをやるんだったら本気で頭使って格好よく見せていかなきゃいけないし。「とにかく10年後、20年後も音楽鳴らしていたいと思うなら、今が頭の使い時だ」って、それは俺、どこでも言って回ってる。どういうバンドであっても、友達になったらちゃんと話すしね。少なくともバンドやってる奴らには、みんな頑張ってもらいたいから。(後半に続く)
(取材・文=石井恵梨子)