【和楽器バンド インタビュー】
『I vs I』はいわゆる
“抜いている楽曲”というのがない
L→R 蜷川べに(津軽三味線)、山葵(Dr)、神永大輔(尺八)、鈴華ゆう子(Vo)、町屋(Gu&Vo)、亜沙(Ba)、いぶくろ聖志(箏)、黒流(和太鼓)
和楽器バンドが3年振りとなるオリジナルアルバム『I vs I』を完成させた。“戦い”をテーマにした同作は全13曲(ボーナストラック含む)中8曲がタイアップ曲という成り立ちでいながら破綻することなく、世界観の深さや起伏に富んだ構成が光る良質なアルバムに仕上がっている。バンドの楽曲制作において中枢を担っている町屋(Gu&Vo)に、そんな同作について語ってもらった。
最後はきれいで明るく終わる
アルバムにしたかった
『I vs I』はタイアップ曲が8曲ある状態からスタートということで、いつもの制作とは少し違っていたかと思います。
違っていましたね。今回はアルバムの構想を立てるのが難しかったです。和楽器バンドにオファーが来るタイアップは戦国系の“戦い”がテーマというものが多くて、アニメ『範馬刃牙』野人戦争編(『I vs I』収録曲「The Beast」がOPテーマ)は戦国系ではないけど、やっぱり戦いを描いたアニメなんですよね。それで、“戦い”をテーマにしたアルバムにすることにしたけど、「Starlight」(TVドラマ『イチケイのカラス』主題歌)みたいに戦っていないものもあるし、最後はきれいで明るく終わるアルバムにしたい想いがあって。なので、前半のドロドロした戦いから明るいラストにどうつなげていくかを考えました。
それが奏功して、流れが絶妙なアルバムに仕上がっています。今作のタイアップ曲に関しては、タイアップ曲でいながら和楽器バンドの個性が発揮されていることやバリエーションに富んでいることなどが印象的です。
我々の場合は“和楽器バンドらしいものを”というオーダーが来ることが多いので、タイアップでも自分たちらしさが薄まることはないんです。ただ、全てがそういうわけではなくて、例えば「Starlight」はシングルでリリースした時は打ち込みとかシンセの音が大きくて、和楽器はもうちょっと引っ込めていたんです。それをアルバムバージョンにする際に、作品にフィットするように逆にシンセの音を下げて和楽器の音を持ち上げました。だから、「Starlight (I vs I ver.)」は和楽器バンドらしいものになっているし、シングルを聴いている人はまったく違う曲のように感じると思いますね。そういった工夫はしています。
「Starlight (I vs I ver.)」はR&Bなどに通じるテイストと和感を巧みにブレンドしていて驚きました。もうひとつ、前作の『ボカロ三昧2』(2022年8月発表のアルバム)と今作はバンドとしてのアプローチが大きく異なっていますね。
今作はタイアップ曲で勢いを求められるものがとても多くて、それに応えた結果こういう作品になりました。ロックバンドの初期の頃というのはBPMが速いものを詰め込みがちで、和楽器バンドもそうだったんですよ。そういうところから始まって、だんだんミドルの割合が増えてきて…という感じになってきているけど、今回は今の自分たちのモードみたいなものではなくて、“和楽器バンドが求められるもの”が色濃く出ていますね。そうすると、テンポが速くて激しいものになるというか。そういう中で、今の和楽器バンドのサウンドで1stとか2nd、3rdくらいまでの勢いのあるものを表現したという感じです。
求められたスタイルに徹することができるのもさすがです。では、今作の中でも特に印象の強い曲を挙げるとしたら?
工夫したという意味では「そして、まほろば」ですね。基本的にヴォーカルの鈴華ゆう子のデモはピアノの弾き語りで、自分たちの過去曲のこういう雰囲気のアレンジにしたいというオーダーが来るんです。「そして、まほろば」もそういう流れで作っていったんですけど、この曲は普通に作ると「宛名のない手紙」(2020年10月発表のアルバム『TOKYO SINGING』収録曲)とか「砂漠の子守唄」(2018年4月発表のアルバム『オトノエ』収録曲)と似た系統の曲になってしまうから同じアプローチで攻めても仕方ないというところで、サビのメロディーがすごくストレートに単音が伸びるので、メロディーの流れだけを聴いた時に、これはずっと4/4拍子に留めておく必要がないと思ったんです。僕はヴォーカルをメインで聴いているのですが、メロディーとリズムで音楽はかたちになるじゃないですか。そのリズムとメロディーの抑揚がどっち側に行きたいかとなった時に、AメロとBメロのメロディーは4/4拍子なんですよ。でも、サビはもっと大らかに聴かせたいというところで、6/8拍子…それも“疑似6/8拍子”にしました。
この曲のサビでリズムが変わるアレンジは本当に秀逸です。今おっしゃった“疑似6/8拍子”というのは?
4/4拍子の中で、付点音符で疑似的に6/8拍子するという手法です。だから、サビの後半でまた4/4拍子に戻っても違和感がないんです。
す、すごい…。疑似6/8拍子ということは、リズム隊のおふたりはすぐに理解されましたか?
しました。しかも、アレンジを渡したのがレコーディング当日だったんです(笑)。
それは本当にすごいです! さらに、この曲は間奏でワルツに移行しますよね。
4/4拍子と6/8拍子を繰り返して終わるのは、ちょっとダレると思って。せっかくアルバムの中でこういうポジションのものがあるなら、もう盛大にいろんな展開を作ってドラマチックに進行していきたいと。この曲のサビの終わりは静かに言葉を置いていく感じで、そこで軽い感じの世界観に持っていけるとなった時に、ワルツがいいなと思ったんですよね。そこからどうドラマチックに戻していくかというところで4/4拍子に戻して、ちょっとジェントっぽいセクションを入れ込むことにしました。
ストーリー性のある展開に、深く惹き込まれました。ワルツやジェントといったことも当日伝えたのでしょうか?
はい(笑)。ジェントのところのダッタ・タッタッタというリズムは、ドラムの山葵はめっちゃ苦戦していました。キックを踏むのが結構大変だったみたいです。この曲の前々日に別の曲のレコーディングをしたんですけど、リズムが決まっていない場所があって。山葵に“適当にリズムを叩いてくれたら、それに合わせてバッキングを作るよ”と言ったら、彼がダッタ・タッタッタというパターンをやろうとしたんですよ。15~20分くらい練習して“これ難しいので別のにします”ということになったけど、これは使えると思って。それで、山葵が諦めたフレーズを、翌々日に持っていったという(笑)。
き、厳しい…(笑)。そういう状況で要望に応えた山葵さんはさすがです。それに、和楽器バンドでレコーディングされる時は事前に細かいところまで決め込むようなイメージがありますが、そうではないんですね。
違いますね。全部決めてしまうと個人個人の個性が出づらくなってしまうじゃないですか。僕は少なからず音楽に関しては化学反応を求めるほうではなくて、わりとかっちり作っていくタイプではありますが、化学反応が起きうる余地は残しておくんです、必ず。そういう柔らかい部分を活かすようにしています。
アーティスト
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