鬼邪高校全日制に通う轟洋介くんが少
し大人になっていたこと~ 映画『Hi
GH&LOW THE WORST X』を見て:ロマ
ン優光連載221

『HiGH&LOW THE WORST X』2022年9月9日公開。大ヒット上映中 (C)2022 「HiGH&LOW THE WORST」製作委員会 (C)髙橋ヒロシ(秋田書店) HI-AX

ロマン優光のさよなら、くまさん
連載第221回 鬼邪高校全日制に通う轟洋介くんが少し大人になっていたこと~ 映画『HiGH&LOW THE WORST X』を見て 先日、ハイローシリーズ最新作 『HiGH&LOW THE WORST X』を見に行ってきたのですが、非常に良かったです。
 LDHが製作する不良バトルアクション・ハイローシリーズがどんなものであるか、どのような変化を遂げてきたかについては、本連載の過去記事
(・極私的『HiGH&LOW』の楽しみ:ロマン優光連載65 https://bucchinews.com/mobile/subcul/5888.html
・鬼邪高校全日制に通う轟洋介くんのこと~ 映画『HiGH&LOW THE WORST』 を見て~:ロマン優光連載146
https://bucchinews.com/subcul/6550.html
を参考にしていただけるとありがたいですが、おそろしく簡単にまとめると、3次元化された不良漫画です。不良漫画を実写映画化とかではなく、3次元で提示された不良漫画そのもの、それがハイローシリーズです。
 不良漫画界のエースの一人である高橋ヒロシ先生の代表作・『クローズ』シリーズとのコラボ作品であり、映画としては二作目にあたる本作。前作 『HiGH&LOW THE WORST』以上にヒロシ色が強く、初期ハイローに比べるとストーリーや台詞や演出などドラマ部分の破天荒さやめちゃくちゃさはほぼ影を潜めています。超人バトルと不可解な出来事と発言の連続だったオリジナル・ハイローに比べると、登場人物の強さや起こる出来事もヒロシ的な常識の範疇におさまりがちで、従来のハイローファンの中には寂しさを感じる人もいるようです。こころなしか、辻と芝マンのテレパシー描写も少なかったような気もします。
 初期のハイローシリーズのめちゃくちゃさは、作り手がよくわからないまま初期衝動で突っ走った結果として生まれたものであり、それは確かに従来の映画のルールを大きくはみ出した魅力的なものでした。
 演奏技術もあまりなく、曲の作り方も録音方法もよくわからず、やる気にまかせて造り上げたパンクバンドの1stアルバム。それが今まで聴いたことないくらいめちゃくちゃで最高なサウンドで溢れている。初期ハイローの魅力はこれと同じです。ただ、人間というのは同じことを続けていくと学習してしまう生き物です。初期衝動だけだったからこそ成立した奇跡を繰り返すことは出来ません。だんだん、ちゃんとしていくのは仕方がないことです。意図的にかっての自己を模倣しても同じようにはならないし、逆に鼻についてしまう場合も多いわけで。
 かっての奇妙さは影を潜めつつも、凄まじい集団バトル、横に並んで行軍してくる様子、不良たちの生き生きとして描写といった元からキャッチーな部分はそのままに、シナリオやドラマ部分の演出は丁寧さを増し、いい意味でわかりやすさが出てきたし、これはこれでいいんだと自分は思ってます。
 本来ハイローは、HIROさんが『クローズ』シリーズを映画化したかったものの諸事情で実現化できなかったことから、自前で『クローズ』のような作品をつくろうとして生まれたという経緯があり、本作の主人公・ 花岡楓士雄たちが通う鬼邪高校は『クローズ』の舞台となる鈴蘭高校の影響が非常に強い存在です。本家・鈴蘭が登場するにあたり、二者の差別化をどうするのかというのが気になるところ。定時の村山さんにしろ、全日の楓士雄にしろ、なんだかんだ愛されるリーダーがいて一本化(定時と全日は別もんなんで、そこはまとまらないですが)されている校風の鬼邪高。それに対して、鈴蘭最強の男・ラオウの派閥は人数的には最小派閥で他の派閥の連中が平気でラオウ派に突っかかっていくという描写をわかりやすく入れることで鈴蘭の本気のめんどくささを表現し、両者の違いを簡潔に見せていて上手いなと思いました。こういうところが今のハイローの良さなんだと思います。
 一応「作品」解説みたいなものを書いてみましたが、個人的には登場人物とバトルがかっこよかったので、それだけで別にいいのです。というか、そういう話じゃなくて、どっかの平行世界で実際に生きているかのように生き生きと魅力的な連中の話がしたいだけなのです。というわけで、ここから先の話はネタバレに繋がる可能性があるので、それが嫌な人は読まないでください。
 ラオウをはじめ、鈴蘭がかっこよくて安心した。特にマーシー。
 看護士さんに従順なところをはじめ、きよしが全編に渡りかわいい。
 ジャム男が「殴った」ではなく「人を叩いた」というのが人柄の良さをうかがわせる。
 冷飯を食わされ続けていた司にようやく見せ場が。
 今回、楓士雄はチャリはパクらなかったが、マーシーのアイデアをパクっていた。
 サボテンの全てがゲスで何のいいところもなく小悪党としての矜持を見せつけていて、非常に良かった。
 須嵜が切ない。雌雄が決した後、何があっても天外井のことを決して裏切らない人間が存在することを天外井に証明するために、たった一人で勝ち目のない勝負に挑む須嵜が切ない(勝負はついたのだから別に帰ってもいいのに須嵜の気持ちを受け止めるために対マンをうける楓士雄は本当に成長したと思う )。道を間違えた天下井に対して最後まで怒鳴ったりせずに敬語であり続け、友達からやり直そうと訴える須嵜が切ない。とにかく須嵜が切ない。
 風神・雷神と辻・芝マンのタッグ屋同士のバトルが見たかったし、轟戦も見たかった。
 色々とあるわけですが、なんといっても轟でしょう。
 まず、轟の成長ぶり。あの対人コミュニケーション能力ゼロだった轟が趣味を通じて友人ができたり、仲間のことを思うようになった成長ぶりには胸が熱くなりますね。
 あとね。轟が全くかわっていないところ。あの流れで楓士雄に頭を下げられたらわかりそうなもんなのに、自分がもういらない子になってしまったと思ってしまう空気の読めなさ。すごく轟です。
 あの場面のいいところは他にもあります。ワナだから行くな、戦略を考えろ的なことをいう轟ですが、具体的なアイデアは全く出てきません。それに比べて、轟にちゃんと考えろと言われていた楓士雄ですが、 佐智雄からの手紙(あれは何かあったら助けてくれが本題ではなく、何かあったら頼れというのをさりげなく恩を売らない形で言ってあげてるのでは。さっちーは気を使える男) があったとはいえ、適切な行動をとっているんですよね。楓士雄の方が実は賢く、轟は眼鏡をかけてるから賢そうに見えるだけの人だというのが伝わってきて、非常に良い轟です。
 かっての轟のファイトスタイルの特徴としては格ゲーの拳法のような動きがあったのですが、今回は見ることができません。そこに寂しさを感じた人は多いことでしょう。
 しかし、心配はいりません。あれには理由があるのです。
 かっての轟は他人の気持ちなど考えることもなく、ひたすらゲームを見ながら体を鍛え不良を叩きのめすという自己完結した生活を送っていました。しかし、村山さん、辻・芝マン、 楓士雄たちとの出合いによって仲間というものに目覚めていった轟。他人の心にも想いを寄せるようになっています。今回の騒動のきっかけの一つに、轟が不良狩り時代に風神・雷神を無慈悲に叩きのめしてしまったこともあり、そういう過去の自分に後悔があるのは間違いありません。
 その結果、自分より確実に弱い相手には自然と全力をぶつけることができなくなった、ようするに格ゲームーブを使うことができない体質になってしまったのではないでしょうか。だから、ファイトスタイルが変わってしまったのです。
 しかし、心配はいりません。今回登場した人物の中で唯一オリジナル・ハイロー、しかも琥珀さんクラスの力をもつ男がいます。鈴蘭のラオウです。完全に規格外であるラオウ相手ならリミッターを外した戦いができるはずなのです! 多分、そう! しかし、過去の轟のファイトで考えると、琥珀さんクラスには勝てる可能性は少なく、何とも複雑な気持ちに……。しかし、轟が轟らしければ自分は何でもいいのです。
『HiGH&LOW THE WORST X』と轟は本当に最高だし、とにかく須嵜が切ないので見た方がいいと思います。
(隔週金曜連載)

映画『HiGH&LOW THE WORST X』大ヒット上映中
(c)2022 「HiGH&LOW THE WORST」製作委員会 
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【ロマン優光:プロフィール】
ろまんゆうこう…ロマンポルシェ。のディレイ担当。「プンクボイ」名義で、ハードコア活動も行っており、『蠅の王、ソドムの市、その他全て』(Less Than TV)が絶賛発売中。代表的な著書として、『日本人の99.9%はバカ』『間違ったサブカルで「マウンティング」してくるすべてのクズどもに』(コアマガジン刊)『音楽家残酷物語』(ひよこ書房刊)などがある。現在は、里咲りさに夢中とのこと。twitter:@punkuboizz
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