ポップ・ミュージックを変えるena m
ori。弱さをさらけ出すことで、寄り
添える強さに| Newave Japan #55

「​​私は自分自身の意見や見解に関しては、あまりシェアしないタイプでした。たくさんの情報にアクセスできる時代の中、なぜ社会で役に立つことができないと感じたのか理解できませんでした。世界を変えるために私に何ができるかは、常に私にとっての疑問です。この曲は、自分の無知に対する欲求不満を表現するために創りました。他の方にも共感してもらえると嬉しいです。」
新曲「Oh, Bleeding Hearts?」の発表とともに、コメントを寄せたena moriは自分の内なる感情と向き合い、それを音楽を通してさらけ出している。彼女のポップ・ミュージックには一つ一つの言葉、その表現にも力強さと重みがあり、聴くものを捉えて離さない。率直に綴られた歌詞、クセになるサウンドで独自のポップを作りげ、リスナーに明るく寄り添う彼女だが、その裏側にはフィリピンと日本をルーツに持つ彼女の孤独や寂しさが色濃く滲んでいる。
2019年にフィリピン・マニラ拠点のレーベル〈OFFSHORE MUSIC〉に所属しているena moriは、今年の<ゴールデン・インディー・ミュージック・アワード>のアジア・ソングライター賞にRina Sawayama、Rich Brian(リッチ・ブライアン)とともにノミネートされ、ポップ・ミュージックを変える新気鋭アーティストとして、活躍の幅を広げている。今回は取材ではルーツをまとめたプレイリストを元に、これまで影響を受けたアーティストを紐解きながら、彼女の人生を辿った。

自分だけの音楽じゃなくて、みんなの音楽にしたい

ー今回、enaさんに制作していただいた「ルーツとなるプレイリスト」を軸にお話をお伺いしたいと思います。選曲された楽曲はエレクトロポップ・アーティストが多く、enaさんの音楽性と共鳴しているように感じたのですが、ポップ・ミュージックの制作を始めたきっかけはありますか?
元々6歳の頃からクラシックピアノを習っていて、コンクール出たり真剣にやっていた時期があったんですけど、その時に息抜きになるのがポップスだったんです。10歳ぐらいの時からポップスや洋楽を聴き始めて、「こんなサウンドがあるんだ」って驚きました。それで、ポップスを作ってみたいな思って、作り始めたのがきっかけです。
ーこのプレイリストの中で、10歳の頃から聴いていた楽曲はありますか?
たまたま聴いていたCDの中にBjörk(ビョーク)が入っていて、Björkだと知らずに聴いていました。小さい頃は良さがわからなかったんですけど、年齢を重ねていくうちに、凄く偉大な人だったんだなって気づきました。
ープレイリストに入っている楽曲は年代がバラバラですよね。「Army Of Me」は1995年で「Earth Intruders」は2007年。
頭の片隅でBjörkっていう存在は知ってたんですけど、「Army Of Me」のミュージック・ビデオをたまたま観てから「あれ、好きかも」みたいな感じになって。そこから色々掘り下げてみたら「ヤバイ、なんで聴いてなかったんだろう」っていうショックと同時に、彼女の人間離れしたセンスがすごく気になりました。
「Earth Intruders」はサウンド・プロダクションが印象的で、足音から始まるんですけど、この足音とリリックと全てがオーバーじゃないというか、足りなくもないけど多くもない、ただ色んなことが起こっているっていうのが凄いかっこいいって思って。「TALK! TALK!」ではシネマティックで想像できるような曲が作りたくて、色々なサウンドを入れているんですけど、この曲から影響を受けています。
ーenaさんのリリックは「私も頑張ってるから、頑張ろうよ」って、無理やり応援するとかじゃなくて、「私は今こんな感じだよ」って隠さずに自分の気持ちを素直に伝えているのが、すごく素敵だなと思います。
前向きな音楽は好きなんですけど、私が音楽を聴く時の90%は前向きじゃないんですよね。それで、リスナーの方の中には私みたいな人もいるんじゃないかなって思って。だから、音楽を聴くことで自分が抱えている嫌な気持ちを晴らすというか、自分を解放するためのツールになってほしいって思ってます。
ーネガティブな感情を受け止められるのは、ありのままの自分を大切にできているからだと思います。enaさんが自分らしくいるために、心がけていることってありますか?
InstagramやTwitterをあまり見ないようにしています。プロモーションをしなければいけないので、どうしても使うこともあるんですけど、なるべく自分の時間を大切にしていますね。昔から自分と向き合うのが好きじゃないんですけど、そういう時間を逆に大切にするというか、一人になる時間を大切にすることで、今よりも自分のことを理解して、自分らしさを失わないでいられる気がします。
ー焦点を自分に当てると、おのずと見えてくることがありますよね。
そうですね。自分はこの音楽の世界にいて、どんな貢献ができるのか?上手い人がたくさんいる中で、自分はどうやって貢献していけるのか?って考えると、嫌なところも見つかるんですけど、嫌なところも自分なんだなって受け止めると、それがより自分らしくしてくれると思います。

Stylist by

ena moriのルーツプレイリスト

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