ブルーグラスバンドでありながら
ポップさも持ち合わせた
カントリー・ガゼットの
『パーティーの裏切り者』

『Traitor In Our Midst』(’72)/Country Gazette

R&Bやブルースをベースに独自のロックサウンドを作り上げたローリング・ストーンズが、60年代の終わりから70年代初頭にかけてカントリーロックやスワンプロックに接近するのは、キース・リチャーズがグラム・パーソンズ(バーズ〜フライング・ブリトー・ブラザーズ)との親交を通してカントリー音楽の手ほどきを受けていたことが大きい。いわば、キースの指導的存在となったのがグラムだったわけだが、それを具体化したのが『レット・イット・ブリード』(’69)にフィドルで参加したバイロン・バーラインだった。『レット・イット・ブリード』に収録された「ホンキー・トンク・ウィメン」のカントリー・バージョン「カントリー・ホンク」は、バイロンの名を一躍高めた名演となった。そのバイロンが在籍していたブルーグラスグループがカントリー・ガゼットである。アコースティック編成であるにもかかわらず、ガゼットのサウンドはウエストコーストロックを思わせるポップな魅力に溢れており、ニューグラス・リバイバルと並んでブルーグラス音楽の新たな可能性を提示したと言えるだろう。今回は彼らのデビュー作で文句なしの傑作『パーティーの裏切り者(原題:Traitor In Our Midst)』(’72)を取り上げる。

南部と東部のブルーグラス

ブルーグラス音楽は19世紀後半からアパラチア山脈付近でイギリス移民の伝承音楽がアメリカに定着・発展したマウンテンミュージックをもとにして、マンドリン奏者のビル・モンローがブルース、ジャグバンド、ウエスタンスウィングなどの要素を盛り込んで作り上げた都市のポピュラー(商業)音楽である。ブルーグラスで使用する楽器は、基本的には電気を使わないアコースティックなものばかりで、ギター、フィドル、フラット・マンドリン、バンジョー、ベースで、ドブロが加わることも少なくない。

モンローはアメリカ南部のケンタッキー出身であり、誕生した頃のブルーグラスは泥臭いサウンドが持ち味であった。やがて、東部を中心にフォーク・リバイバルの波が起こると、ブルーグラスもブルースと同様に脚光を浴びることになる。60年代には、グリーンブライアー・ボーイズやチャールズ・リバー・バレー・ボーイズ(ブルーグラススタイルでビートルズのカバーアルバムをリリース)など東部にもブルーグラスのグループが登場するのだが、ビル・モンローが作り上げた南部の泥臭いブルーグラスとは違って、フォークの要素を含んだ洗練された演奏を身上とする先進的なグループが多かった。

アーティスト