【蒼井翔太 ライヴレポート】
『蒼井翔太 ONLINE LIVE
at 日本武道館 うたいびと』
2021年3月6日 at 日本武道館
2021年3月6日 at 日本武道館
昨春以降のコロナ禍により、昨年開催予定だった全国ツアーの中止を余儀なくされた蒼井翔太。さらに、この日に行なわれた5年振り2度目となる日本武道館ワンマンも、本来は有観客で開催される予定だったが、昨今の状況から無観客のオンラインライヴへと変更に。しかし、そこで“歌”に焦点を絞った“うたいびと”として立つことで、そんなピンチを見事にチャンスへと変えてみせた。
“ここ日本武道館でライヴができるとお話をいただいた時は、皆様にどんな気持ちを伝えようか、どんな気持ちをぶつけようか、そのワクワクが一日一日とても大きく膨らんでいきました。そして、5年振りに武道館に立たせていただけるのであれば、今回はピアニストさんの演奏と、そして僕の声のふたつだけで精いっぱい歌って、皆様にこれまでの気持ちをぶつけたいなという想いで、今回はこのようなコンセプトになりました。ライヴができるというのはすごくありがたいことで、本当に応援してくださる皆様がいてこそだと思います。衣装も今回はストレートに思いを届けたいということで色としては真っ白な感じで作っていただきました。ここからまた白いキャンバスは、いろんな色に染まっていきますね。僕にとっても今日この一日が今後、蒼井翔太のいろんな色を乗せていく白いキャンバスとなるように、精いっぱい表現できたらなと思います”
その言葉通り、披露されたナンバーは全て、この日だけのスペシャルなピアノアレンジが施されていた。「イノセント」では原曲のヘヴィなムードを、唯一の共演者である工藤拓人のパワフルかつ緩急豊かな演奏で再現し、「spilt memories」では蒼い夜空に射し込むスポットライトの中、シルエットを浮かび上がらせる幻想的なカメラワークで配信ならではの情景を描写。和風ロックな楽曲「零」を艶やかで真っ直ぐなラヴソングへと昇華させ、「愛のささめきごと」ではフェイクの利いたオリエンタルなアカペラを駆使し、日本武道館の空間を神秘的異世界へと変容させる。そこで印象的だったのがカメラを、つまりは視聴者を見据える彼の視線の強さだ。ひたすらに伝えたい、過去にはコンプレックスであった自らの“声”で、できるだけ多くの人々の背中を押したい――そんな今回のライヴで軸となる想いが、もっとも如実に表れていたのが“僕の全てを詰め込んだ曲になります。届きますように”と前置かれた「I am」だろう。蒼井翔太自身が作詞曲を手掛けたナンバーに乗せ、これまで自身が辿ってきたリアルな体験や感情を渾身の想いで吐き出し、間奏では“僕が今から歌う旋律を覚えて一緒に歌ってください。離れていても心をひとつに”とカメラの向こうに呼びかけて、コメント欄に“lalalalalalalaaa”の嵐を呼ぶ。ラストのソウルフルなロングトーンも声量凄まじく、聴こえるはずのない拍手が確かに聴こえた気がした。
さらに“皆さんがもっと笑顔になってくれますように”と始まった「SMILE SMILE SMILE」では、ジャジーなピアノプレイに乗せ、より大人なムードを演出。紫に黄と色を変える照明の中でヴォーカルもアクションも自由度を増し、続く「SPOTLIGHT」ではタンバリンも片手に小粋に魅せるが、ライヴが進めば進むほど艶を増す声には圧倒させられざるを得ない。MCでは“リハーサルでも今まで歌ってきた曲たちが、いろんな姿に変わっていく、その瞬間を目の当たりにして、ひとつの曲に対する無限の可能性を見出すことができました”とも語っていたが、それは歌声のポテンシャルあってこそ。そして、“歌とピアノだけ”というシンプルな構成が、この日、蒼井翔太というアーティストと楽曲の可能性を最大限に引き出していたことに疑いの余地はない。
最後に“いつも想いを届けてくださる皆様にどうしてもお返事をしたい。“ありがとう”を伝えたい。その想いが強くて、蒼井翔太として初めて作詞作曲をした皆様へのお返事の歌があります。それを最後に聴いていただいて、お別れしたいと思います”と贈られたのは「君のとなりで」。マイクを口元から離して可能な限り生の声を聴かせ、画面越しに精いっぱいの感謝を届ける彼の姿に、視聴者からは“涙が止まらない”“こちらこそありがとう!”の言葉が返る。さらに“広い空の下、どんな時もひとりじゃない、つながってるよっていう、そんな歌です!”と告げて「Hungry Night」が始まると、会場のライトが全灯して工藤が奏でるグランドピアノの横、楽しそうにタンバリンを鳴らす蒼井翔太が露わに。スタッフの贈る手拍子に“スタッフさん楽しそう!”と顔を綻ばせ、あふれ出す多幸感の中でフィナーレを飾った。
“また、笑顔で必ず会いましょう!”と呼びかけ、涙を堪えるように上を向いて去っていった彼の背中に漲っていたのは、確かな充実感とこの先への決意。流れてきた“しょーたんに会えるのが、もっと楽しみになった!”というコメントが、この日のステージが導き出した答えだ。会いたいと願う気持ち――きっと、それが全ての原動力になる。
撮影:上飯坂一/取材:清水素子
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