聴き手の心のなかを燃やし続ける、チ
ェリスト・宮田大による豊かな演奏~
『DAI MIYATA CELLO RECITAL TOUR』
公演レポート
野外で火を起こして暖まるには、ちょっとしたコツがいる。
最初は乾いた樹皮や新聞紙など小さく切り分けたものに着火し、炎を絶やさないように丁寧にそれらを加えていく。
火を拡大するために、もう少し大きな枝などにそれを移す。燃やす材料の乗せ方も重要だ。そして、さらに太い枝をくべ、火力を強くする。炎が一段と大きく、全体に広がっていく。
その火を安定させるには、より大きな薪をくべる。木炭を投入することで、火力を一定に保つこともできる。
こういった手順をしっかりと踏むことで、火は大きくなり、そして安定する。
チェロ奏者の宮田大も、まったく同じように音楽を組み立てる。
中間部を経て、最初の主題が帰って来たとき、それはより能弁で、表情豊かなものに変わっていた。彼ならではの歌謡性もぐっと香り立たせ。
最初の一音から美音を振りまき、歌を歌で満たすスタイルで通す奏者もいる。打ち上げ花火のように華やかで、一瞬だけ輝く美。
しかし、宮田のように曲の組み立てがうまい奏者は、一瞬だけでは終わらせない。火は燃え続け、時間を超えて、聴き手の心のなかへじわりと広がっていく。
この日は、ピアニストの福間洸太朗との共演。意外なことに、2人の実力派による共演はこの日が初めてだという。
今回は、リムスキー=コルサコフの交響組曲「シェヘラザード」を編曲した「アラビアン・ウェーブ・ファンタジー」が初演された。山本清香が原曲のエキゾティックな旋律をそのまま生かし、全体で15分程度にまとめている。
クライマックスへの運びは、やはり丁寧だ。そして、その流れにふさわしい薪を丁重に受け渡していくような福間のピアノ。豊かな起伏が作られてゆく。
こちらも、弦楽合奏のために書かれた原曲を小林幸太郎がチェロとピアノのために編曲したもの。
飄々と、軽やかに奏でられるチェロ。透明感があり立体的に響くピアノ。原曲の元ネタであるルネサンスのリュート曲のテイストもふんだんに漂ってくる。
圧巻は、最後の第4曲パッサカリアだった。突如としてチェロは重音を響かせ、野太く歌う。その頂点で、炎が煌々と揺らめいた。
この曲は、歌謡性にあふれ、情緒も豊か。ただ、その歌に導かれるままに演奏してしまうと、目鼻のハッキリせぬ、べったりと甘い音楽になりがちだ。
宮田の組み立ては、細やかで、じつに説得力に満ちていた。主題は明確に描き分けられ、同じ旋律でも提示部と再現部での変化を鮮明に示す。
だからこそ、この曲の歌が爛々と輝く。その情感が聴き手のなかにもずっと残り続ける。
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