【阿部真央 インタビュー】
ポップなところとは違う
一面を見せたかった
阿部真央
偶然の産物がもたらした可能性と、その相乗効果による豊かな結実。10周年イヤーを駆け抜けて、さらにアグレッシブな姿勢を音に、言葉に、声に込めたニューアルバム『まだいけます』。“自分を遊ぶ”センスにも磨きが掛かった阿部真央は無敵かつ孤高だ。
こういう攻撃的な部分って
私の中にずっとある
『弾き語りらいぶ2019』の東京公演(2019年11月8日@TSUTAYA O-EAST)でアルバムのタイトルが発表された時、すごいタイトルだなと(笑)。10周年イヤーを経て、さらに加速する勢いが、“まだいけます”という言葉に集約されていると感じました。
最初は1曲目の「dark side」と同じタイトルにしようと思っていたんです。あのライヴで発表する2日前までそう思ってたんですけど、スタッフに“いいんですね?”って念を押された時に、ちょっと二の足を踏んで。もしも自分がリスナーだった場合、“阿部真央、9枚目のアルバム『dark side』”っていうのは目で拾えないというか、スッと流れちゃいそうだなって。あと、カッコ付けすぎでインパクトが弱いかもしれないとも感じて。それで別のタイトルをいろいろ考えた中、“まだいけます”がすごくしっくりきたんですよね。“10周年以降もまだいけます”という意味にも取れるし、“いいじゃん、これで!”って(笑)。
確かにアイキャッチがすごい! 正解だったんじゃないかと。
文字のインパクトがね。偶然の産物ですけど(笑)。今回、そういうのが多くて。でも、それがいい方向に転がってるんです。
他にはどんなものが?
主に曲順で思うんですけど、ほんとは2曲目の「お前が求める私なんか全部壊してやる」で始めたかったんですよ。マスタリングの直前までそれで決めていたんですけど、「dark side」を入れる場所がなかったから思い切って最初に置いてみたんです。そしたら、まず歌詞の内容がつながって。しかも、どちらもキーがAマイナーから始まるから聴きやすい。アッパーな「お前が求める私なんか全部壊してやる」の前に嵐の前の静けさみたいな要素もできたから、“これはいいんじゃないか!?”って。あと、6曲目の「どうにもなっちゃいけない貴方とどうにかなりたい夜」の次にバラードの「今夜は眠るまで」が来ることで、聴感上すんなりと聴けるし、この2曲も歌詞の流れがいいかたちになったし。バラードってテンションが1回下がるんですけど、怠みのない落としどころになっているので、下がることなく、そのまま続けて聴けるんですよね。
偶然の産物が多いということは、今回もアルバムのコンセプトは決めずに制作に入ったんですか?
そうですね。ただ、ベスト盤(2019年1月発売の『阿部真央ベスト』)の前後にリリースした「変わりたい唄」(2018年10月発表の16thシングル)と「君の唄(キミノウタ)」(2019年5月発表の17thシングル)がすごく明るい曲だったから、ポップなところとは違う一面を見せたくなっていて。だから、“次は暗いとか、カッコ良いとかのイメージのアルバムにしよう”とひとりで決めていたんです。でも、そのイメージで曲を書いていたわけではないので、曲作りでは自然とそういうモードになっていたのかもしれません。
偶然の中での必然ですね。「dark side」が1曲目になったことで、アルバムの最初と最後が弾き語りになったし。
そう! 弾き語りツアーもやって、10周年も終わっての1枚目のアルバムが、弾き語りで始まって弾き語りで終わるのはすごくいいと思います。
しかし、相変わらず言葉が鋭いですね。というか、さらに鮮烈さが増している。
そうかなぁ。鋭いですか?
「お前が求める私なんか全部壊してやる」なんて《バーカが》って吐き捨ててるじゃないですか(笑)。
あははは! これ、書いてて楽しかった。“バカって言っちゃえ!”みたいな(笑)。この曲のBセクションって…さすがに“バカ”とは言わないものの、まるで喧嘩している私を見ているようで。こんな感じなんですよ、ずーっとしゃべってる。この曲は言葉の歯切れとかテンポで遊ぶ感じも重視してるんですけど、テンポで遊ぶための言葉を選んで書いたわけではないんですよ。言葉が浮かぶのと同時に遊んでいる感じが、すごく楽しかったです。
痛快でした。
嬉しい。私もそんな感じで書いてましたから。
でも、“なんて酷いことを言ってんだろう”とは思います(笑)。
ほんとですよね(笑)。でも、こういう攻撃的な部分って、私の中にずっとあって。この10年間は…まぁ、はみ出ちゃってたとは思うけど、一生懸命に隠そうとはしてたんですよ。でも、10周年だった2019年は表現する者として腹を括った一年だったんです。“私は表現者だから、表現者として生きていく!”と思えば思うほど、曲の中でどんどん酷いことが言える…なんかもう、後ろめたさがないんですよ。“ここまで言っちゃっていいのかな”とか。良い子でいないといけないっていう私の癖みたいなものが、どんどん外せるようになって。だから、すごく楽しく書いていました。
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