【マリアンヌ東雲 インタビュー】
作家とマリアンヌの個性が
異化作用を起こす
“変態ヴィンテージエレクトロ”な
ソロ初作
マリアンヌ東雲
キノコホテルの支配人ことマリアンヌ東雲が初のソロ作品を完成させた。バンドサウンドとは異なる彼女なりのエレクトロでビザール、コアでありつつモダンという、他の誰にも似ていない作品は果たしてどのようなプロセスで作られたのか。新境地の謎を解明していく。
バンドの制作も充実していたので
そのままソロを作るのもいいかと
ソロは以前から作りたかったのですか?
本当のところを言ってしまえば、ソロに取り掛かるのはキノコホテルである程度結果を出してからと決めていました。キノコホテルで常に手いっぱいで、他のことに取り組む余裕なんてまったくなかったですし、どこかいいタイミングでやれたらとは思いつつも一向に機が熟さない(笑)…そんな状態が何年も続いていたわけです。
今回は実現に至ったわけですけど、その理由とは?
来年、キノコホテルがデビュー10周年を迎えるんですね。それで今年6月にアルバム『マリアンヌの奥儀』をリリースして、そこからツアーも結構決まっていたわけなんですけど、それが終わって10周年までの間…もちろんやることはいくらでもあるんですけれども、秋以降のスケジュールを決める段階になって、“ここでどうだろうか”という話が沸き上がってきまして。『マリアンヌの奥儀』のレコーディングがすでに始まっていたからスケジュール的に不安はなくはなかったんですけども…ただ、『マリアンヌの奥儀』の制作が非常に充実していて、いろいろ日々学びもあって、モチベーションが上がっていたのもあり、この気分のままソロを作ってみるのもいいのではないかと。理想のタイミングを待っていたらいつになるか分からないですし。
『マリアンヌの奥儀』でもプロデューサーを迎えられていたので、今は制作に関して開かれている状態なのかなという印象を持ちました。
そうですね。なおかつ“あのアルバムとはまた違うものを!”という気持ちがあったので、今回は松石ゲルさんを起用しまして。それは『マリアンヌの奥儀』の共同プロデューサーだった島崎貴光さんとはあえて対照的に行こうという狙いがありました。
松石さんはキノコホテルのインディー時代のレコーディングも手伝われていたそうですね。
そうです。インディーズの頃にゲルさんのスタジオで録っていただいたり、いろいろと協力していただきました。
マリアンヌさんからのアルバム全体のビジョンは?
トータル的なコンセプトとしては、パッと思い浮かんだ“変態ヴィンテージエレクトロ”というキーワードを提示して、それに則ってゲルさんに曲を書いていただいて…っていうところから始まった感じですね。
アナログシンセのイメージはどの曲にもありますね。
そうですね。エレクトロ感というのが、昨今のEDM的なものではなくて、あえて今やる人がいなさそうな…そこはアプローチとしてはキノコホテルと似てますけど。ただ、今回は演奏のほとんどをゲルさんにやってもらっていて。あの方、ドラムもベースもギターもできるので。楽器やアンプ類は基本的に国産の古くてビザールなもの…持ち主のゲルさんですらメーカーがよく分からないようなのも含めて(笑)、全て彼のスタジオにあったものを使用しています。いい機材にこだわって最先端のものを取り入れる方が多い中で、ちょっとふざけてみてもいいのかなってところもコンセプトでしたね。
マリアンヌさんの作詞作曲も3曲あって、1曲目の「脱出」からアナログシンセが誘う感じですね。
これはもともと短いインストだったんです。今年の6月にキノコホテルの創業12周年公演を開催しまして。イベントごとに併せて自分でオープニングSEを作ることが多いんですけど、今回作ったのがこの「脱出」の元ネタとなるインストでした。それが結構気に入っていたので、歌を乗せてアレンジも少し練り直したら、なんとなくこのアルバムコンセプトに沿うような気がして。なので、キノコホテルのコアなリスナーの方は聴き覚えがあるのではないかと思います。
歌詞については現代社会とか人間関係、恋愛みたいなことからの脱出なのかなと思ったのですが。
そこはいかようにも取れます。長らくバンド活動を続けてきて今回ようやくひとり立ちした、そういったポジティブな意味での脱出というイメージもありますし。基本的に言葉の持つ意味はひとつだけではないと思うし、勝手に想像していただければいいというスタンスなので、人それぞれの「脱出」に当てはめていただければと思ってます。
タイトル曲「MOOD ADJUSTER」の音の響きがカッコ良くて。直訳すると“ムード調整機”という意味ですが、これはゲルさんが考えられたんですか?
そうです。これは詞も曲もゲルさんによるものです。同名の古いエフェクターが存在するらしく、それに着想を得て書いていった曲だそうです。なので、出てくるワードも“Tube Screeemer”とか…あえてスペルは変えてますけど、そのエフェクターのつまみの塩梅の名称だったりするんですね。なかなか女性の私が思い付かないような、メカニック男子的なアプローチがまず素晴らしいと思いまして。それでいて軽妙で軽薄で。
その歌詞の情報量がすごいという。
歌詞カードとデモの音源をいただいた時、正直言って“歌えるの!?”って思いました。想像の斜め上を行っているというか。譜割りもトリッキーな箇所があったりするもので、この曲に関してはスタジオでゲルさんからレクチャーを受けながら歌いました。“こことここはつなげて”とか一生懸命聴いて覚えながら。新鮮でしたけどね。人に教えていただきながら歌うという経験がこれまでなかったものですから。しかも、パワーワードに次ぐパワーワードで。“こういう体験こそまさに今作の醍醐味だわ”なんて感じながら頑張りました(笑)。
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