【Base Ball Bear ライヴレポート】
『Guitar!Drum!Bass!Tour
~日比谷ノンフィクションVIII~』
2019年9月15日
at 日比谷野外大音楽堂
9月15日 at 日比谷野外大音楽堂
広い舞台の真ん中にギュッと集まるメンバーを観て、思えば最初から最後まで3人だけで立つ野音のステージはこれが初かと気付かされる。しかしながら今回のライヴを観て一番に思ったのは、陳腐な言い方だが“この3人の音だけで十分だ”ということだった。小出のギターは必要以上にエフェクトを掛けず、“弦が掻き鳴らされている”というある種の生々しさと最高の聴き心地の好さを兼ね備えた、誤魔化しのない音色を届ける。関根史織(Ba&Cho)のベースは、時に跳ねるようなグルーブを生み出し、時に小出のギターにも負けないくらい耳を惹付けるメロディーを放つ。堀之内大介(Dr&Cho)のドラムは今まで以上に鋭さやパンチ力を増し、スネアやタム、シンバルを打ち込む毎に観客を高揚させていく。音数は少ないながらもそれぞれのスキルのおかげで常に気持ちの良いアンサンブルが奏でられていて、“何かが足りない”ということを一切感じさせない。だからこそ3人体制となって初めて披露された楽曲や、“この曲、ライヴで聴くの何年振り?”と考え込んでしまうようなレア曲でも違和感がなく、かつメンバー間のハイレベルなセッションを純粋に楽しむことができるのだ。特に、メインのフレーズをなぞりながらも、原曲にはない流麗なアルペジオや天に突き抜けるような音を響かせ、音源以上にその腕前の偉大さを伝えてくる小出のギターアレンジには舌を巻かずにいられなかった。
また、このライヴでは配信されたばかりのEP『Grape』の楽曲群の良さもさらに浮き彫りになる。大幅な転調があまりなく、しっとりとしていて温かみのある小出の地声が活きるヴォーカルや、シンプルなフレーズをループさせたり、サンバに近いような刻み方をすることで、これまでの彼らの楽曲にはなかったような新鮮味を感じさせるリズムワーク。耳を澄ませばバンドの曲作りの変化が随所に表れているのが分かるが、それでいて秋の野音のさわやかな空気とマッチするようにさらりと聴けてしまう耳あたりの良さもあり、結果的に素晴らしい余韻を聴き手の胸に残していく。EP『Grape』はバンドの音楽性に新たな色を加える重要な一枚だったのだと、今回のライヴで改めて気付かされた。
そして、アンコールでは突如としてビックな“リリース情報”が告げられる。なんと堀之内が、2カ月前に“息子をリリース”したというのだ。息子どころか結婚したことすら知らされていない日比谷のオーディエンスたちは一瞬大いにどよめいたが、“結婚しましたー!”と彼が言うとこの日一番の大歓声が沸き、会場は一気に祝福ムードに。客席の興奮が冷めやらぬまま“ラストは堀之内さんの結婚式で僕らが演奏した曲です”と小出が言うと、長年ファンから愛され続けている“あの名曲”を披露。歌い出しの小出のギターがなんだかいつもより明るく聴こえたり(私の勝手な思い込みかもしれないが)、約3,000人の観客がサビで一斉に飛び跳ねたりしたシーンは、ハッピーな気持ちとともに鮮烈に記憶に刻み付けられた。演奏終了後は“ありがとう、Base Ball Bearでした!”といつものように挨拶をしてステージを去った3人。さまざまな意味でバンドが新しい局面を迎えているということがはっきりと証明された一夜だった。
…最後に。Base Ball Bearの最新作であるEP『Grape』は、配信だけではなくライヴ会場限定(CD)というかたちでもリリースされている。会場限定CDには全てメンバーの直筆サイン入り色紙が付くということで、本公演のグッズ売り場には数千人規模のファンが殺到しているように見えたが、数が足りないという事態は起こらなかったようだ。つまり、それだけ彼らが相当な準備をしていたということである。小出が自身のインスタグラムでこのリリース方法に懸ける想いを語っているが、それを実現するために、彼らはいったいどれくらいの時間と手間を掛けてくれたのだろうか? ライヴはもちろん素晴らしかったが、ステージの外側でできるだけ全てのオーディエンスの希望に応えようとする姿勢にも、同等の喝采が送られるべきであろう。このような試みも含めて、Base Ball Bearのこれからがますます楽しみになった。
撮影:タカハシハンナ/取材:笠原瑛里
アーティスト
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