カーモンベイビー、 「ボーン・イン
・ザ・USA」
カーモンベイビー、 「ボーン・イン・ザ・USA」
しかしながらここまでの話は、外国人である日本人としての感覚によるところが大きい。
本国アメリカではこうはいかない。
今回紹介するブルース・スプリングスティーンの「ボーン・イン・ザ・USA」(1984)のようなシリアスな文脈ばかりではないにせよ、アメリカ人アーティストが曲中に"U.S.A."という言葉を盛り込んだときには、われわれ外国人はその意図を注意深く確かめる必要がある。
「ボーン・イン・ザ・USA」の、あまりにも有名なサビの部分だ。
しかし多くのアメリカ人には、ここに登場する"U.S.A."という文字に、以下の注釈を透かし見ている。
"I pledge allegiance to the Flag of the United States of America, and to the Republic for which it stands, one Nation under God, indivisible, with liberty and justice for all."
(私はアメリカ合衆国国旗と、それが象徴する、万民のための自由と正義を備えた、神の下の分割すべからざる一国家である共和国に、忠誠を誓います)
これは合衆国国民が暗唱必須として幼いころから叩き込まれる「忠誠の誓い」の全文である。
アメリカ合衆国とは50の州および連邦区から成る連邦共和国として知られるが、彼らの帰属意識はまず自分の出身州にある。
そうしたバラバラの帰属意識をまとめ上げて成立したのがアメリカ合衆国であり、その統一の意識を確認するのが、この忠誠の誓いというわけだ。
つまり"U.S.A."という言葉には、他民族からなる州(くに)よりも上位の概念を象徴する神聖な響きがあり、彼らはそれに忠誠を誓うことを義務付けられているのである。
しかしそんな忠誠を誓った国で、俺たちはどんな目にあって来たのか、と歌うのが「ボーン・イン・ザ・USA」という曲である。
生気のない街に生まれ、蹴られた犬のようにおびえて暮らし、忠誠を示すために銃を持たされベトナムへ赴く。
そしてスプリングスティーンは<行くべきところ>であるはずの、"U.S.A."が象徴する自由と正義がどこにもないことを訴える。
"U.S.A."という言葉の破壊力
ところが同じアメリカ人の中から、"U.S.A."の象徴性をめぐって明らかにスプリングスティーンの意図に反する意見があらわれる。
保守的発言で知られる人気コラムニストが、「彼(スプリングスティーン)は不平をこぼす男ではなく、閉鎖された工場と他の問題の朗唱は、いつでも"ボーン・イン・ザ・U.S.A.(アメリカで生まれた)!"という壮大で、快活な表現によって句読点を打たれたように見える」と書いたのだ。
この有名なエピソードは、アメリカ国民にとっての"U.S.A."という言葉の隠ぺい力の高さを示している。
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