ボブ・ディランのロックが開花した『
BRINGING IT ALL BACK HOME』
祝ボブ・ディラン来日記念! 今回はディラン流ロックが高らかに宣言された代表作『BRINGING IT ALL BACK HOME』('65)を紹介! フォークのみならずロックを変え、J-POPへも影響を与えた名盤です。ライヴに行く人はもちろん、行かない人もこれだけは聴いておきたい。
今も革新性が失われていない傑作
“これは自分たちの好きだったフォークなのか? もしかしてロック? だとしたら、こんなの糞だぜ”と、一部、このディランの変化を裏切りなどと評する向きもあったようだ。アルバムのリリースと前後して行なわれた英国ツアーでは無理解な観客から露骨に“ユダ(裏切りもの)”と野次られたり、有名な『ニューポート・フォーク・フェスティバル』ではエレキ演奏で物議を醸したりと、あれこれ叩かれたことが今でも派手に語られる。それぞれの事件の生々しいシーンは今では映像作品(DVD)として、『ノー・ディレクション・ホーム』('06)、『ニューポート・フォーク・フェスティバル 1963~1965』('07)で観ることもできるので、ご覧になるといいだろう。
と、それだけ見ていると、大方のファンがディランのロック化を否定したかと思いきや、実際にはこのアルバムはビルボード・トップLPチャートで最高6位、全英アルバムチャートで1位、ディランのアルバムとしては初めてトップ10入り果たすという、かつてないほどに大衆に支持されたアルバムだったのだ。ディラン自身、この結果には内心“ざまあみろ”的な気分だったのではないか。
“フォークロック”と呼ばれたけれど
ラウドなサウンドに対してそう言っているのではない。やはりアルバムを統一する内容を指しての“ロック”なのであり、クール、ヒップなところ、ということになるのだろうか。彼らに言わせればアコースティック・ギターを主体に演奏していても、CSN&Yやジェイムス・テイラーの初期の作品はロックなのであり、とても私的な詞やバラッドを歌うロン・セクスミスの音楽は“フォークだよ”と言っていたのが印象に残っている。
ディラン流ロック
買った動機は深夜放送のラジオ(オールナイトニッポンか?)で亀渕昭信氏がディランのことを話していたのを聞いて興味を持ったのかもしれない。また、ビートルズのメンバーがディランのことをよく口にしていたのも購入の後押しをしたのだと思う。ジョージ・ハリスンが主催した『バングラデシュ・コンサート』にディランがゲスト出演した、なんてニュースもその頃に知り、興奮したものだった。が、当時の中学生が夢見る英国ロックなフィーリングやサウンドと『BRINGING IT ALL BACK HOME』はかなり趣が異なり、鼻声気味の奇妙な歌声も相まって、なかなかディランの良さが理解できなかった。カッコ良く思えなかったのかもしれない。買ったことを後悔はしないものの、ターンテーブルに盤が乗る回数としては、ビートルズやクリーム、イエスなどに比べれば格段に少なかった。
※多くの日本人が、やがて映画化された『バングラデシュ・コンサート』で初めて動くディランの姿を観た。現在では『バングラデシュ・コンサート[Box Set,Original Recording Remastered]/Sony Music Direct』でその場面を観ることができるだろう。出演は他にジョージ・ハリスン、リンゴ・スター、ラヴィ・シャンカール、エリック・クラプトン、レオン・ラッセル、他。
男も惚れるアウトローなその姿
ディランがいた場所へ
そして、はじめディランはグロスマン邸に投宿していたが、66年頃にはアッパー・バードクリフと呼ばれる町の高台に自分の家を購入し、69年頃までそこで暮らしている。この町でのディランは時折買い物の際に人前に姿を現すくらいで、ほとんどの時間はプライベートの敷地内で過ごしていたと聞いている。山と森に囲まれ、昔から芸術家が移り住む村としてあまり他人に干渉しない住人が多かったこと、ニューヨーク・シティ、ボストンからも車で2時間という利便性はディランが住むには打って付けだったようだ。
大がかりなリノベーションが行なわれたことも想定しながら目をこらすものの、しかし、それらしいアングルを見つけることはできなかった。しまいにはオフィスのスタッフに“ここでディランの…”と尋ねてみたのだが、“そう言われているけど、たぶんそれはグロスマンの家じゃないかな。ここで曲を作ったりはしていたみたいだけど。何しろ遠い昔のことだからね”と苦笑いを浮かべながら返事が返ってきたものだ。ジャケットの撮影場所を特定できなかったものの、それでもディランがここで曲を作っていたかもしれないという言葉に、私は大いに溜飲を下げた。ウッドストックとニューヨーク・シティ、世界各地を忙しく行き来しながら、あのロックなアルバムのうちの何曲かは、この町で生まれたのかもしれない。そう思うと、心臓が高鳴る思いがしたものだ。
著者:片山明
アーティスト
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