【ユアネス ライヴレポート】
『Shift Tour 2019』
2019年1月13日 at 渋谷WWW

2019年1月13日 at 渋谷WWW Photo by Daisuke Miyashita

 過ぎてゆく日常と、それに伴うじんわりした痛みや後悔、そしてそこからまた前を向くための静かな決意。そういうふうに書くと青臭いのだが、ユアネスのライヴはその音源以上に、映像的な作品世界を丁寧に紡ぐ、物語性の高いものだった。

 今回は昨年11月にリリースした1st EP『Shift』に伴う全国ツアー。地元・福岡に続く東京WWWでのワンマンは完売し超満員の大盛況。初見のファンも含むフロアーは静かな期待の眼差しをステージに送る。

 複雑な変拍子を含む「少年少女をやめてから」のようなポストロック的なアンサンブルも、ピアノバラードを基本にしつつ、最低限のギター、ベース、ドラムゆえに一音の重要性を深く印象に残す「夜中に」のような曲もあれば、1stミニアルバム『Ctrl+Z』収録のアッパーな「pop」もある。シンプルに言えば曲調のバリエーションは幅広い。しかし、テンポやジャンル感が違えど、残る印象はユアネスとフロアーにいるファンひとりひとりが向き合って生まれる、まるでひとりで楽曲を慈しむように聴いている感覚なのだ。これはひとつには、テクニカルな演奏をしつつ、あくまでもそれは歌のためのアレンジであり、実際、耳に厳しいような音響はまったくない。メロディアスで複雑な田中雄大のベースラインや、手数の多い小野貴寛のドラミングも情景の背景だったり、歌詞の心情を彩るような音量で、絶妙にバランスが図られているのだ。しかも黒川侑司のヴォーカルの表現力は、声量の豊かさだけではない。地声からファルセットへのスムーズな移行や、話すような声、巧さが嫌味にならないギリギリのポイントで、ライヴでも明瞭に歌詞を聴き取ることができる歌唱なのだ。

 そもそも、歌うことは好きだがユアネスを結成してからバンドの楽しさを知ったという黒川、ソングライターでギタリストという立ち位置ゆえにミュージシャンとしてのエゴが出そうな古閑翔平のふたりが、ともに自身のエゴよりユアネスの楽曲に献身的であること。そして人としての誠実さが、結果として歌唱やアレンジに滲み出ていることが、ジャンルを超えて彼らの音楽が様々なタイプのリスナーに浸透し始めた証左だと、今回のライヴで実感した。

 アンコールなしの約1時間半。それはひとえに黒川の、不器用ながら現在の心境を話すMCの長さによる。特に事前に歌詞を公開していた新曲「私の最後の日」に関しては、黒川も古閑も饒舌だった。ギターバンドでありながら、ピアノのオケのみで歌うこと、しかし今後、バンドでどんなアレンジが加えられていくのかは、彼らが人として変化するように、この曲もまた変化するだろうということ。誰もが出会いや別れを経験し、消化し切れない思いを抱く。そこに寄り添う楽曲なのだが、完成度の高い映画がそうであるように、そこにベタベタした共感はない。

 生音主体のギターバンドでありつつジャンルは限定せず、予備知識がなくても歌と演奏に没入できるバンド。この日、ツアーの追加公演として北海道のライヴが発表されるなど、全国各地でライヴが熱望されている現在。ツアーを完遂した後、彼らはどんな変化を見せるのか? 早くも気になっている。

撮影:Daisuke Miyashita、Yoshiaki Miura/取材:石角友香



セットリスト

  1. 現在ツアー中のため、セットリストの公表を控えさせていただきます。

ユアネス

ユアネス:福岡で結成された4人組ロックバンド。琴線に触れるヴォーカルと美しいメロディーを軸に変拍子を織り交ぜるオルタナティブなバンドサウンドを構築。詞世界を含めひとつの物語を織りなすような楽曲が特徴的。重厚な音の中でもしっかり歌を聴かせることのできるライヴパフォーマンスは、エモーショナルで稀有な存在感を放っている。2024年2月に2ndミニアルバム『VII』を発表し、3月には東京・Zepp DiverCity(TOKYO)にてワンマン公演を開催。

アーティスト