1984年の私と『男坂』:ロマン優光連
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おすすめコミックス:「男坂」第一巻/車田正美(ジャンプコミックス 集英社)
そういう中で、自分より少し年下の人から「『男坂』って面白いのに、なんで打ちきりになっちゃったんでしょうね?」という意見を聞いた。彼は『リンかけ』『風小次』は単行本で読んで、リアルタイムで車田作品の連載を読むのは『男坂』が初めてだったという人だ。『リンかけ』のジーザス編の最後から週刊少年ジャンプを読み出し、『リンかけ』を単行本で遡って読み、『風小次』から完全にリアルタイムで車田作品にはまっていった自分と比べると、かなりの時代差がある。これぐらいの年齢差は、大人になってからはたいしたことはないが、子供時代には完全に一世代違うと言ってもいいぐらいの差が生まれる。彼が面白いと思っていた『男坂』、当時の私はどのように捉えていたのだろうか? 気になったので思い出してみた。
『北斗の拳』『キン肉マン』『ブラック・エンジェルズ』といった他のジャンプ掲載バトル漫画と比べて設定も描写も地味だった。後半JWCという世界番長連合みたいなやつがでてきて必殺パンチみたいなのもでてくるのだけど、前半は千葉の田舎で中学生が喧嘩してるだけ。拳で決着をつけるかと思えば、人間の器の大きさと熱いハートで決着がついてしまったりする。まだ犬が喋らなかった時代の『銀牙 -流れ星 銀-』に比べても敵もバトルも地味なのだ。いや、ほんと赤カブト怖かった。『ハイスクール奇面組』『キャプテン翼』などの非バトル系漫画も合わせて考えると、自分の中での優先順位としてどうしても下の方になってしまっていた。
菊と竜児の姉弟の人生の旅路を丹念に描いた前半部が異次元ボクシング漫画に変貌をとげ、最終的に最初の主題に収束されていく奇跡のような傑作『リングにかけろ』。学ラン超能力バトル伝奇漫画『風魔の小次郎』。そういった破天荒な過去の車田作品に比べると、描写の派手さや驚愕するような設定がない分、地味だなと感じていた。地味だからといって、高嶺菊・竜児姉弟の生活や人間像を丹念に描いていった『リンかけ』初期みたいな掘り下げもない。感情移入させるための丁寧な積み重ねがなく、「みなさまおなじみの」ぐらいの感じで主人公・菊川仁義は最初から現れ、イマイチどんなやつかわからなかった。わからないのにいきなり熱い説教したりするから困った。
天才・宮下あきらが完成させつつあった「メタ番長漫画」を『激・極虎一家!』で体験していた自分にとって、ストレートに「番長」というものを出されるのが面白味に欠け地味に感じていた記憶もある。ちなみに宮下メタ番長漫画の完成形である。『魁!男塾』の連載は『男坂』の連載が終了した85年に始まる。
この時期、『ビー・バップ・ハイスクール』も既に連載が始まっており、番長的なものは既に笑われるような時代遅れな存在になっていた。『男一匹ガキ大将』で近代番長漫画を完成させた本宮ひろし先生だって番長漫画から撤退し、当時でいえば『赤龍王』『天地を喰らう』のような中国英雄譚だったり、別のスタイルの漫画で男の生きざまを描こうとしていた(あまり関係ないが、本宮先生の『硬派銀次郎』『山崎銀次郎』は番長漫画ではなく、まっすぐな硬派な愛すべき青年の不器用で魅力的な成長物語だと思ってる)。ツッパリや不良という言葉は日常で使っても、番長はギャグ以外で使うような機会はなかった。ちなみに、当時の自分が抱いていた不良のイメージの代表は『ブラック・エンジェルズ』に出てきた「老婆の乳房に焼きごてを当てる眼鏡の中学生」でした。あいつ、今でも怖い!
さきほど、『男一匹ガキ大将』の名前が出たが、『男坂』は車田正美による『男一匹ガキ大将』のオマージュである。当時、父親の所有していた『男一匹ガキ大将』を読んでいた自分は、凄く似ていると思ったし、『男一匹ガキ大将』の方が面白いと思っていた。途中で経済戦になったり、仲間の不良が石油をボロい船で運ぶ途中で襲撃されてバタバタ死ぬシーンなど、発表されてから、かなり時間のたった当時でも衝撃的だったし斬新に感じた。『男坂』の方が私の既知のものだけで構成されている感があった。
当時、私が一番気になっていたのが喧嘩鬼の存在である。山奥で喧嘩の修行をしている伝説の存在である。超自然的な存在ではなさそうだし、伝説の古武道を伝える謎の武人という感じでもない。ただ喧嘩の修行をしているだけで、よくわからない。特に神秘的でもなければ、合理的なバックボーンが語られるわけでもないので、当時の私はどう捉えるべきなのか非常に悩んだものだ。嘘です。たいていは存在を忘れていました。「108のなんとかって、カメハメでも意識してるのか?」とか思ってました。
ただ、好きか嫌いか聞かれたら、話は別だ。私は迷わず「あの時の『男坂』が好きだ」と答えるだろう。
やれ「未完」だとか、やれ「 オレはようやくのぼりはじめたばかりだからな 」とかばかり言い出すような連中が私は嫌いだ。赤城のウルフが出てきた時のワクワクした感じとか色々あるじゃないか。私は年に三回は「ミッドナイト・スペシャル」という言葉を口に出して生きてきたし、これからもそうだ。今年は10回は口に出した。欠点を感じるということと好き嫌いは全く関係のない話だ。勢いあまりすぎて上手く回ってなかったけど、わけのわからない熱さだけは伝わってきて、そこが大切だった。ほんと、それだけなんだ。
それはさておき、「白い墓」をホームって読ませるのメチャクチャかっこいいよね。ほんと最高。
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ろまんゆうこう…ロマンポルシェ。のディレイ担当。「プンクボイ」名義で、ハードコア活動も行っており、『蠅の王、ソドムの市、その他全て』(Less Than TV)が絶賛発売中。代表的な著書として、『日本人の99.9%はバカ』『間違ったサブカルで「マウンティング」してくるすべてのクズどもに』(コアマガジン刊)『音楽家残酷物語』(ひよこ書房刊)などがある。現在は、里咲りさに夢中とのこと。twitter:@punkuboizz
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