【ビッケブランカ インタビュー】
新米海賊が魔法使いに!
“wizard”という言葉に込めた
特大の野心
ビッケブランカ
テレビドラマ『獣になれない私たち』に提供したバラード「まっしろ」を含む2ndアルバム『wizard』が完成! J-POPの王道から世界基準に挑んだポップナンバーまで、楽曲の多彩さに磨きを掛けた全10曲を堂々と奏でるビッケブランカの雄姿が感じられる。
狙いとかやりたいことがよりはっきりしてきたという意味で、確信と自信が感じられるアルバムになったのではないかと思うのですが、どんな手応えがありますか?
大幅に何かを変えたという意識はないんですよ。作り方も同じだし、考え方も同じだし。考える深度が増したかなというぐらいの印象ですね。
“新米海賊”を意味するビッケブランカがとうとう魔法使いになってしまいましたが、“wizard”というタイトルはどんなところから?
アルバムが完成してやっと決まったんです。“次のアルバムはこういうものにしよう!”とビーコンを掲げた瞬間に道が狭まると僕は考えるので、テーマを決めることを良しとするよりも悪しとしていて。それを行き当たりばったりと思う人もいるかもしれないけど、僕はそれが正しいと思うから今回も前作のアルバム『FEARLESS』と同様、本当に作るべきものをって。「ウララ」という春の曲を作ってしまったし、「夏の夢」という夏の歌も作ってしまったし、冬の曲も作らないと…冬に出すんだからなおさらすっきりしないし。まず「Winter Beat」と「まっしろ」から作っていったんですけど、その2曲があるならどんなことをやっても許されそうな気がすると思って他の曲がどんどんできていったんです。お気楽ローファイロックの「Buntline Special」、EDMに寄せた「キロン」「Smash (Right This Way)」、壮大な「Great Squall」というのは、「Winter Beat」と「まっしろ」があるからこそできたという印象があります。結果、いろいろなジャンルの曲が揃いましたけど、それを最後にまとめているのが「Great Squall」で。『FEARLESS』では最後いろいろな感情を締め括るのが、雷=「THUDERBOLT」でしたけど、今回は嵐=「Great Squall」。そういう人知を超えた自然現象に自分は頼りがちなんだということに気付きましたね(笑)。
前作は「THUNDERBOLT」で締め括っているから、今回も!ということで「Great Squall」なんだと思いきや。それで、なぜアルバムのタイトルが“wizard”なんですか?(笑)
もともと“W”で始まる言葉にしたら面白いんじゃないかって。ビッケブランカの2枚目ということで“V”と“V”を並べると“W”になるんで。最初は“wisdom”って思ったんですけど、自分で知識とか知性とかって言うのもなって(笑)。それで“wizard”に。僕が作る音楽に対して“多様性”という言葉を使ってもらうことが多いんですけど、多様性ってやりたいことが定まっていないまま作って支離滅裂になった作品にも使われると思うんですよ。だけど、“なんだかはっきりしてないから、とりあえず多様性って言っておけ”ってレベルではない使われ方をしたいと思いました。『FEARLESS』もそういうつもりで作ったし、全曲のジャンルがバラバラでも全てにおいてちゃんと一級のものを作れば、本当の意味での多様性になる。今回もそういう作品になったと思うので、それを象徴する言葉として捻り出したのが“wizard”だったんです。最初は“magical”とか“pop magician”とか考えたんですけど、ありきたりだと思って。“wizard”とまで言い切ったら、もう何でもできるんじゃないかって思いました。
シングルとしてリリースした「ウララ」「夏の夢」「WALK」「まっしろ」という強い曲が揃っているので、それに負けない曲を作るのは大変だったのかなと思ったら、そうでもなかったようですね。
「Smash (Right This Way)」は本気で世界基準の曲を作ってみようというチャレンジだったんですよ。だから、歌詞も英語だし、音楽性も洋楽のど真ん中のポップスで。それプラス、カルヴィン・ハリス、アラン・ウォーカー、マシュメロといった人気アーティストと闘って、頭ひとつ抜けるにはどうしたらいいか、何だったら勝てるかを考えて、歌詞は英語なんだけど日本的に表現することを目指しました。
英語の歌詞を日本的に表現するというのは?
簡単に言えば、日本語の“わびさび”です。“I need you”“I want you”と直接的に表現するのではなく、違う言い回しにするということを英語でやってやろうと。外国の人が聴いたら“ポエティックだね!”みたいな(笑)。だから、サウンドとは逆に歌詞は売れ線じゃない。「Smash (Right This Way)」では“大きな壁はそこに隠れるためにあるんじゃない。叩き壊すためにあるんだ”と歌っているんですけど、そういう順序で表現することが日本的なんです。それを英語でやるっていうチャレンジだった。
もちろん、「ウララ」も「Winter Beat」もいい。でも、「Smash (Right This Way)」のような曲が入ることでアルバムの世界観はより深くなりますよね。
そうですね。これがないと上部だけを掬った楽しいだけのものになってしまっていたでしょうね。こういう陰の部分をしっかり描くことは重要だと思います。
ビッケブランカさんも大きな壁を感じることはあります?
いえ、ないです。僕は壁にぶち当たらないように必死こいてるから(笑)。ぶち当たるのは嫌なんですよ、本当に。何も苦を感じずに生きていきたい。それが一番幸せだと決まってるんだから。でも、その場所に居続けるためには何かしら努力が必要だとは思ってます。例えばチームの誰ひとり疑問を持たない確固たるものを作らなきゃいけないし、全てにおいて高いクオリティーを保ち続けなきゃいけないし。でも、保ち続ければ人は分かってくれると思うし、納得してくれるし。そのために日々努力している感じです。23〜24歳の頃、壁にぶち当たったことがあるんですよ。3カ月ぐらいでしたけど、地獄でした。その経験があるからこういう歌詞が自然に出てきたのかもしれないです。
取材:山口智男
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