【ぼくのりりっくのぼうよみ
ライヴレポート】
『僕はもう......』
2018年10月30日
at 恵比寿LIQUIDROOM
2018年10月30日 at 恵比寿LIQUIDROOM
鍵盤、DJ兼マニピュレーターに生ギターを加えた編成で、ジャジーかつ重めな「Venus」で幕を開けた序盤。“聴く”モードにフロアーを誘導する、内側で燃えるような強度で展開。が、今回の“辞職”に関して、誠実にぼくのりりっくのぼうよみという存在との生身の彼の乖離があまりにも大きくなったことから、自らぼくりりを消滅させる他なくなった経緯を話した。それ以降は吹っ切れたように、フロアーを扇動し、アレンジを更新した初期ナンバーや、ゴシックとパトワが混在するようなヴォーカル&ラップで畳み掛ける「black santa pt.2」で、音楽的な反射神経の高さを体感させる。
中盤では、ニコニコ動画の歌い手からスタートし、歌詞を綴り始め、アーティストデビューに至る出自を振り返り、みやかわくんへの提供曲のカバー「aNYmORE」をグッとモダンなR&Bに消化して歌い、続けてダブステップ調のビートに乗り、スムースなフロウを聴かせた「Butterfly came to an end」へ。この楽曲が収録されていたアルバム『Fruits Decaying』の頃には、すでに“望んでいた自分を手に入れた瞬間に、自分自身が変色していく”ような哀しみが、それまで以上に色濃くなっていたのではないかと気付く。
今の日本に生きるディストピア感を10代の冴えた筆致で描いた初期ナンバー「sub/objective」にかすかに青い部分を感じ、誰から学んだわけでもそうしたカルチャーに属しているわけでもないのに凄まじいテクニックで言葉を連射する「liar」。そう、彼のユニークさはいかなるヒップホップシーンとも無縁で、あくまでも彼の自室で育まれたものだ。その潔癖なまでの密室性は今後も作品として色褪せることはないだろう。精神的な圧から解放されるように、本編ラストでは不思議な開放感すら漂う「輪廻転生」を歌い切る。ヘヴィなリリックが続いたが、言葉と声を操る彼の表情は清々しいものだった。アンコールは自らに向けた弔辞のような「僕はもういない」、そして10月19日の福岡公演で初めて披露した新曲「人間辞職」をファイル公演の東京でも披露し、ラストツアーの幕は閉じた。
撮影:平田ヒロモト/取材:石角友香
アーティスト
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