シャウトするサム・クックが聴ける
熱いライヴ盤
『ハーレム・スクエア・クラブ1963』
ゴスペルとR&Bの狭間で
40年代になるとゴスペル界に世界的な名声を得るマへリア・ジャクソンが登場し、公民権運動やフォークリバイバルともつながりつつ非世俗的なゴスペル音楽が世界的に広まるのだが、その裏ではシスター・ロゼッタ・サープのように、R&Bグループやジャンプグループとも共演する世俗的なゴスペルシンガーも現れ、個性の強いアーティストによっては商業音楽に乗り出す者もいた。しかし、それはひと握りであり、多くのゴスペル歌手はキリストの福音を広めるために地味に活動していたのである。
ゴスペルからポピュラーシンガーへ
転向!
とにかく、クックは転向した。そして、転向した57年にリリースした甘いバラードの「ユー・センド・ミー」はポピュラーチャートとR&Bチャートの両方で全米1位のヒットとなり、ポピュラーシンガーとして大スターとなるのである。なめらかで透き通るような声を持ったクックは、白人黒人を問わず多くのファンを得て、スタンダード曲から自作曲まで、次々にヒットさせていく。そして、彼の自作曲は、のちに多くのカバーを生むことになる。
60年代に入ってからのサム・クックのサウンドスタイルは、オーティス・レディング、スティービー・ワンダー、アル・グリーン、カーティス・メイフィールド、ビートルズ、ローリング・ストーンズ、ロッド・スチュワートなどに大きな影響を与え、サザンソウル、モータウン、ニューソウルなどが生み出されるきっかけとなるのである。それぐらいクックのスタイルは独創的かつスタイリッシュであった。
ポピュラーシンガーから
R&B〜ソウルシンガーへ
この後にリリースした『ミスター・ソウル』(‘63)はタイトルこそソウルとなっているが、前作よりも一歩後退した感じのポップス作品であった。ただ、同時期にリリースしたシングル盤の、特にアップテンポのものに関しては「トゥイスティン・ザ・ナイト・アウェイ」に似た泥臭いノリがある。この頃、バックミュージシャンが固定しつつあり、キーボードのビリー・プレストンやレッキング・クルーのメンバーでドラムのハル・ブレインなど、ロック的なキレの良いサウンドになっていたことも、彼が目指す新しい音楽(ソウル)へと近づく大きな要素となっていたと言える。続くアルバム『ナイト・ビート』(’63)も不完全燃焼の感は否めなかった。
「ア・チェンジ・イズ・ゴナ・カム」
の誕生
本作『ハーレム・スクエア・クラブ
1963』について
彼らしくない歌い方とは何か。実はこれ、彼が垣間見せた黒人音楽家(ソウルシンガー)としての本能が出てしまったのか、いつもの端正で上品なスタイルは封印し、このライヴでは荒削りでソウルフルな歌い方になっているのだ。レコード会社としては、それまでの清純なポピュラー歌手としてのクックのイメージを損ねたくなかったがために、あえてリリースしなかったのだと思う。要するに、白人にも愛されるハンサムなバラディアーで大スターという彼のイメージを、マネジメント側としては守らねばならなかったのである。だからこそ『ハーレム・スクエア・クラブ1963』のお蔵入りが決まってから、改めて彼の元のイメージを大切にしたサウンドで勝負した『At The Copa』の収録に臨んだのである。
結局、『ハーレム・スクエア・クラブ1963』がリリースされたのは20年以上後の1985年であった。躍動するクックのヴォーカルと新時代のソウル音楽到来を予感させるバックの演奏は最高の出来栄えであり、これが20年前に出ていたらソウルの進化は違ったものになっていたことだろう。それぐらい本作は刺激的で新しいサウンドに仕上がっている。おそらく、こちらの本能的にシャウトするクックのライヴを観たり聴いたりしたオーティス・レディングやマービン・ゲイらが、クックのスタイルを参考にしたことで、スタックスやモータウンの「ソウル」に新たな息吹を与えたのだと思う。
収録曲は9曲。オーティス・レディングの代表曲でもある「トライ・ア・リトル・テンダネス」をはじめ、「チェーン・ギャング」「キューピッド」、ロックのカバーも多い「ブリング・イット・オン・ホーム・トゥ・ミー」(名演!)、そして「トゥイスティン・ザ・ナイト・アウェイ」(『アット・ザ・コパ』と聴き比べするのも一興だ)など、クックの名作のオンパレードだ。サックスにはキング・カーティス(いつものようにしっかり下品で◎)、ギターにコーネル・デュプリー(まだ若いからか、残念ながら彼らしいプレイは聴けない)も参加している。
僕はクックの最高の作品はこのライヴ盤に尽きると思う。ポピュラーシンガーとしてのサム・クックしか知らないなら、本作をぜひ聴いてみてほしい。きっと新たな発見があると思うよ♪
TEXT:河崎直人
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