筋肉少女帯・大槻ケンヂが語る、昨今
の覚醒ぶりと“大人の男が歌うロック
”
後者は、これを書いている時点では未完成だったので聴けていないが、前者『ザ・シサ』は、曲がバラエティに富んでいるという意味でも、その幅広い楽曲たちに引っぱられて大槻ケンヂの作詞世界もこれまで以上に広がっているという意味でも、「こうあってほしい筋少」と「新しい筋少」が見事に共存しているという意味でも、本当に30周年にふさわしい、だから歌詞カードを熟読しながら1曲1曲聴いていくのがとにかく楽しい、そんな快作になっている。以下、作品と自身の近況についてのオーケンのお話です。
■最近僕、作詞脳が覚醒していて
もう、この場を借りてどんどん募集します。他のロック・バンドの歌詞も書いてみたいんですよ。最近はよく、若いバンドがリスペクトしてくれたりするんだけど、言ってくれたら俺書くかもよ。
しかも大槻ケンヂミステリ文庫の方が先なんです、歌詞を書いたのが。そっちに9曲書いたあとで11曲書いた、ほぼ連続して。オカルトに関しての歌詞が多いでしょ? オカルト的なもの、超常現象とかを詞にしたくて。それをさんざん試みたのがオケミスの『アウトサイダー・アート』で、そこからさらにまたこぼれたものが『ザ・シサ』に回ってる感じですかね。
で、僕はスタジオ・レコーディングが得意じゃないんですよ。なので、ライブ・レコーディングにしたいと。ベーシストの高橋竜、そしてバンドのオワリカラ、それぞれに数曲ずつ作ってもらって、吉祥寺のライブハウスで2日間にわたってその2バンドと出て、演奏したんです。それを録音して出しましょう、と。今、オワリカラのタカハシヒョウリくんと高橋竜ちゃんに、録った音を大きくいじってもらっていて。もうできるんじゃないかな。
オケミスでは、ポエトリー・リーディングとジャズファンク・サウンドの融合みたいなことをやりたかったんですよ。セルジュ・ゲンスブールの、あるじゃないですか、ファンキーなサウンドに載って、ただウニウニウニウニしゃべったり歌ったりするやつ。あと「ヘイ・ユー・ブルース」(左とん平)とか、かまやつひろしさんの「ゴロワーズを吸ったことがあるかい?」とか。ああいうのをやりたかったの。でも結局は歌ものも多くなったけど。
現象として目前に現れる時は、すごく小さなことに集約される
「ええーっ!?」って思ったんだけれども、そういう曲が逆にチャンスなんです。僕の詞を載せると異化効果が生まれて、化学反応でおもしろくなる場合があるので。前作の「サイコキラーズ・ラヴ」も、歌詞を抜くと本当にJ-POPなんで、これは狙い目だと思って、サイコキラー同士の愛を歌ったんですけど。だから今回も、「いやいや、まいったなこれ、どうしようかな。じゃあ何かとてつもないものをぶっこもう」と思って。
前々から、なぜ人を殺したり殺されたりしてはいけないのか?ってあるでしょ、人間の普遍のテーマとして。僕には答えがあって、それによって多くの人がスケジュール調整がつかなくなって困るからだ、と(笑)。特にミュージシャンなんかは、喪服を持ってない人、いっぱいいるから。それを詞にしようと思って、そしたら見事にハマりまして。
さらに、偶然にも、オカルトを扱う『緊急検証!』って番組が(CSファミリー劇場で放送、大槻も出演)映画化されることになって。「その主題歌になりますよ」という話で、それで「オカルト」という曲も書いたんですね。
やっぱりオカルトって、一生自分が好きでいることのひとつなんだな、っていうのがわかってきたっていうか。若い時って、自分が好きなことはみんな好きだと思ってるじゃないですか。若い頃から僕はオカルトとプロレスが好きで、世の人はみんなオカルトとプロレスが好きなんだと思っていたら、どうもそうではないらしいと(笑)。
タクシーとか床屋さんとかで、世の中の人は全員野球と相撲が好きに決まっている、というところから話し始める人、いるじゃないですか。あれが僕の場合、プロレスとオカルトなんですよね。……特にオカルトなんだなあ。僕がタクシードライバーや理髪師になったら、めんどくさいでしょうね。「当然ご存知でしょ?」っていうところから、オカルト話を始めたりするので。「お客さん、青森のイタコ、いるでしょ?」「はあ?」みたいな(笑)。
一時期、困ってたんですよ、男のロック・ミュージシャンが大人になると、歌うべき対象がないと。やっぱり歌っていちばん絵になるのは少女で、大人の女の人を歌にすると欧陽菲菲さんのような、「ラブ・イズ・オーヴァー」感が出てしまうと。お客様はやっぱり若い気持ちでいますから、いつまでも心は少女だから。それですごい困ってたんだけれども、50代になったぐらいで、なんとか見えて来たんですよね。少女ではない大人の女性と大人の男の関係を、ロックにする作詞の仕方が。
大人の男はわかってくれると思う、「マリリン・モンロー・リターンズ」の、この、女性への畏怖を。ほんとに、女が戻って来る時は、置いてきた猫を取りに来る時、そうでなければっていうのは、怖いなあ!と、自分で書きながら思いましたね。世界の美女が帰る夜、すべての男は怯える、いや、まったくそのとおり。それがモンローってものに集約されるんですよね。たいがい大人の男は、「ああ、女に悪いことしたな」と思いながら生きてるから。ああ、こういう詞が自分も書けるようになったのか、と。
それで言うと、「ネクスト・ジェネレーション」も、オジさんバンド好きの若い女の子が仲良くしてるボーカリストが、実はお母さんが昔追っかけていた、あまつさえ付き合っていた、ギョヘッ!ていう曲で。これ、ほんとにあるかもしれない……僕はないですよ? 僕はないですけど、ある人はありますよ? たぶん。
僕はほんとは、介護の問題もロックにしたかったんですよ。同世代のミュージシャンやファンの方が、介護で現場に来れなくなるっていうのは、けっこうあってね。お手紙なんかでも、「介護の合間にライブに来ています」みたいな。これは外せないテーマだと思った。でもそれをロックにしようとすると、まだダメなんだなあ。ストレートに出しすぎちゃったりして。もっとうまくできないかなあ、と思って。
やっぱり、歳相応なテーマっていうのは……それは、テーマが増えるってことだから。未開の地でしょう? フロンティアだから、これからいろいろ書いていきたいなあと。介護の歌、次のアルバムなんかでは、できるんじゃないかな。うまくやりますよ、そこは。
ま、すべての歌の詞はそうなんだけれども、僕は不特定少数の人にがっつりくるというか。なんだろう、「ロック病院メンヘラ科」っていうか(笑)。だから、どうぞ、診察に来てくれれば! 治療します!
取材・文=兵庫慎司 撮影=菊池貴裕
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