【nano.RIPE インタビュー】
そんなことは関係ない!
これがnano.RIPEだ!
L→R ササキジュン(Gu)、きみコ(Vo&Gu)
結成20周年を迎えたnano.RIPEが約2年振りとなるアルバム『ピッパラの樹の下で』をリリースする。メンバーがきみコ(Vo)とササキジュン(Gu)のふたりになって初のアルバムは、ロックバンドという原点に回帰しながら20年で培ってきたものを総動員した、nano.RIPEらしい作品に仕上がっている。そんな本作について、きみコに語ってもらった。
20周年のアルバムという部分で思うことは?
ジュンとも話しているんですけど、今まで5枚出してきたとはいえ、ふたりになって初めて出すアルバムなので、プレッシャーもあったんです。でも、いろいろなことを乗り越えてきて、身軽になったからこそできたアルバムのような気がしています。特にここ最近出てきたジュンのやりたいことを詰め込むことができたし。サポートミュージシャンやアレンジャーさんの力を借りながらも、自分たちのやりたいことを表現することができた。今までのアルバムの中でも一番nano.RIPEらしい作品ができたという気がします。出来上がった作品をこんなに自分たちで聴いたことはないっていうくらい、あたしもジュンも移動中などでたくさん聴いていて。自分たちでも本当に自信のあるアルバムです。メンバーがふたりになったことでマイナスイメージを持ってる人もいると思うけど、“そんなことは関係ない! これがnano.RIPEだ! 20年やってきたんだ!”って、自信を持って言えるものがやっとできました。今後もこの作品に支えられていくだろうなって、そう思う一枚になりました。
“ピッパラの樹の下で”というタイトルは、20年で答えを見つけて“悟り”を開いたことの表れですね。
はい。20年目にして、ついに。“ピッパラの樹”というのは菩提樹のことで、その樹の下で仏陀が悟を開いたと言われていて。アルバムのタイトルを決める時に、たまたま手塚治虫さんの漫画『ブッダ』を読んだんです。いろいろなことがリンクしていって、これはもうこういうタイトルを付けるしかないだろうと思って付けました。
どうして『ブッダ』を読もうと?
「月兎時」という曲の歌詞を書いている途中で、とある人に読んでもらったら“これは仏陀だよ”と言われたんです。で、今こそ『ブッダ』を読むべきだって。それで『ブッダ』を読んだら“あぁ、なるほどな”と腑に落ちたところがあって。「月兎時」はその上で歌詞を書き足したり修正したりしたので、『ブッダ』から引き出された部分がありますね。
その人はどうしてそういうふうに言ったんでしょう?
歌詞のどこを読んでそう思ったのかは分かりませんけど、あたしが悟りの境地だったのかもしれない(笑)。あと、「うてな」の曲名も仏教用語なんですよ。これは10年くらい前に大枠とサビを作っていた曲で、その時から“うてな”というタイトルを付けていて。“うてな”は菩薩が座っている蓮の花の台座のこと、または極楽に往生した者の座る台座のことなんです。でも、当時はまだ『ブッダ』も読んでいなかったのに、どうしてこういう言葉を書いたのかまったく分からないんですけど…。今思うと当時書いた歌詞の《きみ》は仏陀のことなのかなって。『ブッダ』の中でも、死を怖がっている人が仏陀と会って話すことで死を受け入れて“うてな”に行くというシーンがあるんです。
いろいろつながってちょっと怖いですね。
そうなんですよね。でも、すごく不思議で、昔の自分からのプレゼントみたいです。それで、歌詞を少し書き足して、輪廻というか、巡ってつながっていくものを書きました。
そういう“巡ってつながっていくもの”はバンドの20周年という部分とも通じますね。それがもっとも表れていると思うのが最後の「ステム」という曲ですよね。
歌い出しの《始めるために終わったことも 終わるために始まったことも》という歌詞も含めて、20周年の意思表明みたいなものを色濃く落とし込んでいますね。
また、ここ最近は「虚虚実実」や「アザレア」など、ソリッドでアグレッシブなロックやストリングスを導入したロックにチャレンジしていて。その部分で今作もササキジュンさんの存在感が大きいですね。
はい。言っていただいた通り、「虚虚実実」と「アザレア」でジュンはすごく成長したので、それがすごくアルバムに活かされていますね。4人がふたりになり、バンドにおける自分の占める割り合いが増えたことで自分の存在意義を改めて考えたんだと思います。新しいアー写も珍しくジュンがあたしの前にいるんですよ。いつもはあたしが前で、ジュンが後ろから付いてくるような感じだったので。
そんなアルバムのリード曲となるのが「ポラリス」ですが、リード曲がバラードというのは意外だと思いました。
後世に語り継がれているロックの名曲は圧倒的にバラードが多いと思うんです。
ザ・ビートルズの「イエスタデイ」とか?
そうですね。それにスピッツやMr.Childrenのような、いわゆる国民的なバンドもミディアムの名曲がたくさんあって。なので、ロックバンドが歌うバラードを作ろうと。歌詞は20周年を振り返って集大成しつつ、ラブソングとも受け取れて、なおかつnano.RIPEのことを歌っているとも受け取れるイメージで、旅をテーマにして書きました。「ポラリス」は北極星のことで、道しるべみたいなものを意味しているんですけど…この20年、道しるべになるようなものがあったからこそ、ここまで歩んでこられたと思っていて。
nano.RIPEにとっての道しるべはやはりお客さん?
それが一番ですね。ステージから観るお客さんの笑顔だったりとか…辛い時に思い出すのもお客さんの笑顔ですし。それをまた観たいからバンド活動を続け、それが積み重なって20年続けてこられたと思っています。20周年を迎えて振り返った時に分かったのは、ここまで続けてこられたのは、それだけ支えてくれる人がいたということ。そのことに自信を持っていいんじゃないかなって。
それが、20年やってきて見つけた答え?
ひとまずは、そういう“悟り”を開きました(笑)。
取材:榑林史章
「ポラリス」MV
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