【浜田麻里 インタビュー】
“これは私にしか
絶対にできないだろうな”
と思うようなところに到達したかった
浜田麻里
近年、その凄まじい絶唱が新たなリスナー層にもアピールしている浜田麻里。しかし、新作『Gracia』では、さらなる歌の進化が表れていることにも驚かされるだろう。日本が世界に誇る女性ロックシンガーが見据えていた未来とは?
前作から2年半振りとなるアルバム『Gracia』がようやく完成した今、どのようなお気持ちでしょう?
前回ツアーの最後のコンサートがちょうど2年前ですけども、そこからいろんな環境の変化などがありまして。それを一個一個決断しながら今の道に辿り着き、やっと本格的に気持ちもアルバムのほうに向けられたという流れがあったので、より感慨深いですし、よく頑張れたなって想いがありますね。自分が関わる比率がアルバムごとにどんどん大きくなってきているものですから、今回も過去に比べて一番大きいわけで。そんな中、何とか完成まで持ってくることができましたし、客観的に聴いてもかなりの手応えを感じてます。
ご自身が関わる比率というのはどのようにとらえればいいのでしょう? もちろん、作詞作曲はまずあると思いますが。
そうですね。まず曲の発注や構想のところからもそうですし、できてきた曲をそのままでやるということは、私の場合は100パーセントないので、作曲陣と何回もやり取りがあるんですね。そこからレコーディングに参加するミュージシャンを決定して…今回は特に初めての人も多かったものですから、決め込むまでも大変でした。まぁ、今までも参加していたメインの人たちがいるのでその安心感はありつつ、今回は絶対に新しい風が欲しかったから、その人たちに自分でコンタクトを一からしたんです。例えばドラムのマルコ・ミネマンだったら、彼のSNSを通じて“My name is Mari Hamada…”から始まって(笑)。
えっ!? 麻里さん自らがそんなやりとりをしていたとは驚きですよ。さて、近年では大型フェスティバルの場でも麻里さんの歌に衝撃を受けた人が続出していますが、キャリアを重ねるごとにますます凄みが増していく印象も抱くわけです。それは今回の『Gracia』にも言えますが、このアルバムに向けてはどんなことを考えていたのでしょう?
もともと人に左右されたり、人と比べたりも全然しないタイプの人間ですけども、自分の価値観の中で“これは私にしか絶対にできないだろうな”と思うようなところに到達したかったという…そんなところですかね。今回助けてくれたミュージシャンたちに対しても、声をかけるだけなら誰でもできると思うんです。ただ、そこでほんとに密なコラボをして、みんなに心を開いてもらいながら、いいプレイをしてもらうところまで持っていくのが大変なんですね。でも、35年間も世界のトップミュージシャンと直に接してきた自分だからこそ、そこは実現できたんじゃないかなって思いますし、女ひとりで仕事に生きてきた自分の人生と言いますか、そういう誇りみたいなところが出たものにしたいなというのはありました…自分で言うのもなんですけど。それがタイトルに結び付いていったんですけどね。生きることに対しての真摯な姿勢だとか、気持ちだとか、意思とかそういうものを『Gracia』というものにしていったというか。何と言うんですかね…高潔でありたいというか、そういう気持ちもあって、それがイコール、気品ある人格だったり、人生だったりするんじゃないかなみたいなところで。
楽曲自体はどのようなものを想定していたんですか?
ここ数年の流れで言うと、よりハードスタイルに振ったものにしようというのは当初からありましたけどそれを前面に出しつつも、やっぱり振り幅があってこそ浜田麻里だと自分は思っているので、その辺はしっかり入れ込んだものを、というトータル的バランスは考えました。
オープニングの「Black Rain」のハード&ヘヴィなサウンドにまず衝撃を受けますが、アルバム中盤はより歌やメロディーを聴かせる、落ち着いた楽曲を並べた構成ですね。
そうですね。前半はハードで押せ押せでいって、グッと内省的で、かつ、ちょっとキャッチーめの、私の90年代ぐらいな感じの路線に近いところで音楽性を広げて、また後半は硬派系でグッと締めるというか。それは当初から思ってました。それぞれの曲を一番入れ込むかたちで聴いてもらう、そういう流れで考えましたね。
歌詞の随所にも強い意思を感じます。例えば「Black Rain」には《Black rain that falls down forever》(永遠に降る黒い雨)といった記述がありますよね。
私は目の前に壁がすごく多いタイプの人生を歩んできたので、あとになって“それも良かったな”と思えるように頑張ってきたつもりではあるんですけど、全てが晴天という状況は私の人生にはないんじゃないかなって(笑)。そういうことを打破するために、自分の歌の表現があったりとか、人生の指針があったりとか、何かそんな気がするんですね。
その中にいろいろ闘いがあると思うんですが、このアルバムでも具体的にそれを想起させる記述も多い気がしますし、確たる想いがそこには感じられるんですよね。
ともすればネガティブになりがちな状況を打破していくというのは、やっぱり闘っている感じのイメージがあるんですよ。いつもそうですけど、特に節目節目でそういう気持ちによりなる時は自然とそういうものになってきてしまうというか。とはいえ、それが全てというわけではないんですね。そう思われがちですけど、ベーシックな信条や精神性というのは歌に表れていると思います。
本作に伴うツアーは10月から始まりますが、バンドのメンバーも新たな布陣になるとうかがいました。その点から考えても麻里さんにとってはデビュー35周年は集大成ではなく、その先へのひとつの通過点でしかないわけですよね。
そうですね。たまたまの結果でもありますけど、私は保守的ではないんですよね、音楽をやる人間としては。見える世界を一度壊して、もう一回構築していくというか、自分の進化のさせ方はそういうところにあるような気がするんです。だから、満足することはないんじゃないかなって。
取材:土屋京輔
「Black Rain」MV(Short Ver.)
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