【androp インタビュー】
音楽とは人間である——
一瞬の想いと
変わらぬ普遍を収めた最新章
L→R 前田恭介(Ba)、内澤崇仁(Vo&Gu)、佐藤拓也(Gu&Key)、伊藤彬彦(Dr)
3年振りとなるフルアルバム『cocoon』がリリースされた。Aimerとコラボした前代未聞の超大作を含め、チャレンジ満載の日々から“生と死”を色とりどりに紡ぎ出した作品のメッセージは、5年振りのホールツアーで観る者の心深くまで染み込んでいくはずだ。
アルバム名の“cocoon”とは“繭”という意味ですよね。
内澤
はい。蚕(かいこ)って自分の体の中から絹糸を出して、繭というものを作り上げるじゃないですか。そこから羽ばたいていくイメ―ジと自分たちのやっていることが重なったんです。今までの経験や得てきたものを糧にして、自分たちが一音一音大切に紡いでいったものが曲となり、その繭を破ってリスナーの元へと羽ばたいていく。ほんと、“音楽って人間なんだな”というのを痛感しながら作っていった曲たちばかりだったので、その言葉が相応しいように感じたんです。
佐藤
特に2017年はインディーズを1回経験してからメジャーレーベルと再タッグを組んだり、他アーティストとのコラボシングルを出したり、自分たち主催の対バンイベント、野外のワンマンにBillboard公演と、チャレンジがたくさんあったんです。その経験値をそのまま音にできたから、例えばバンジョーにウッドベース、フィドルまで加えた「Kitakaze san」みたいな曲も自然にやれて。ジャンルにこだわらず、いろんなタイプの楽曲を揃えられましたね。
前田
新曲に関しては録ってあったものを集めるんじゃなく、年末年始にかけて一気に録ったので、まさに今の僕たちが誤差なくパッケージされている感じ。
伊藤
演奏的にも基礎的な技術が向上して、細かいディティールまで詰められるようになった結果、より歌が届く作品になったんじゃないかなと思います。
それで想いと情景を繊細に綴ったバラード「Hanabi」のスタジオライヴ映像を先行公開したと?
内澤
そうですね。特に「Hanabi」は、今の自分たちが1歩踏み込んで作れた曲だったので、聴いてもらいたい想いが強かったんです。“歌”に寄り添うことのできるプレイの仕方だったり、楽曲の構成や音色全てで“シンプルな強さ”が表現できている。それって結構難しいことで、しっかり詰め切って表現できたのは2017年のいろんな挑戦のおかげですね。
伊藤
そういう意味で究極のシンプルと言えるのが「Sleepwalker」で。僕、ドラムを叩いてないんですよ。歌を引き立たせようという、言わば究極の“引き”の美学(笑)。
前田
逆に僕はちょっと出しゃばって“弾き”の美学というか(笑)。内澤くんの弾き語りにユーフォニウムという上物に近い要素のある楽器を吹かせてもらえて、すごく勉強になりました。ベースというボトムで楽曲を支えるパートとは違う表現の仕方で楽曲に参加できたことが、ゆくゆくベースにも反映されていく気がします。
内澤
確かに。音楽以外のものをやることによって、音楽に跳ね返ってくることってあるからね。僕も去年末に声が出なくなった時期があって、改めて伝えられることの喜びを実感できたんです。その想いから自然に生まれたのが「Arigato」で。やっぱり歌えなかったからこそ分かるもの、向き合えたところがあったんですよね。
他の曲でも“息”とか“声”とか、いわゆる喉から発するワードが目に付いたのも、もしやそのせい?
内澤
ああ。そういった部分では無意識に身体に刻み込まれたものが表れたのかもしれないですね。しかも、息とか呼吸とかの生きている者が絶対にしなければならない行為というところは昔からすごく大切に感じていて、今回のアルバムはそういった生と死みたいなものが、いろんな角度から表現されている作品になっているとも感じるんです。
内澤さんが左チャンネル、Aimerさんが右チャンネルを担当している「Memento mori」なんて、まさにそうですよね。春夏秋冬を巡る歌詞の中、それぞれまったく逆方向の感情の流れを8分以上にわたり歌い上げる楽曲で、あまりの壮大さと深遠さに聴き終えた時は放心状態でした。
内澤
人間の死生観だったり考え方の違い、その裏腹にある普遍的な部分だったりを歌詞に落とし込みたくて、右と左で違う歌詞と違う演奏を乗せたんです。それを一気に聴かされると脳が一瞬パニックを起こすんですよ。それで聴く人の中に新しい何かが生まれたらいいなぁと、Aimerさんにお願いしたら即快諾してくれて。以前に楽曲提供した時、彼女の声と表現力に衝撃を受けたので、歌ってくれたら僕が8年間温めていた以上のものができるだろうと思ったんです。
佐藤
“右チャンネルと左チャンネルでそれぞれ別の曲が成立していて、合わさった時にまたひとつのストーリーとして成立する曲をやりたい”っていう内澤くんの構想は、実はandropを始める前に聴いていたんです。当時“うわっ、この人すげぇな!”って驚いたので、それを8年経って実現できたのは感慨深かったですね。制作は本当に大変でしたけど。
前田
1回録るのに右で8分半、左で8分半、それを聴き直すのに8分半かかるから、普通の曲の4倍くらいかかるんですよ! 最後の最後まで時間目いっぱい使って出来上がったので感動もひとしおでした。
伊藤
だから、8年前に渡されてもやれる技術もなかっただろうし、ある意味ここまで歩んできたひとつの集大成でもありますね。今じゃないとできなかった曲であり、ホールツアーを控えた今だからこそやるべき曲だった。
しかし、この曲をライヴで再現するのって、かなり無謀じゃありません?
佐藤
完全再現には2バンド必要ですからね。
内澤
でも、やっぱり生で聴いてほしいので、今、試行錯誤しているところです(笑)。そもそも今回のアルバムはホールでのライヴを意識しながら選曲して、曲のBPMや質感も決めていったんです。制作段階でスタッフと演出プランまで相談していたので、より伝えられるツアーになるはずです。しかも、初日の愛知は佐藤くん、ファイナルの横浜は前田くんと伊藤くんの地元でもあるので、楽しみにしていてください。
取材:清水素子
アーティスト
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