ボブ・シーガーの『奔馬の如く』は、
アメリカンロックのお手本的な作品
これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!
なぜかと言うと、シーガーは不器用な男で、流行という存在に疎いのだ。テクノやニューウェイブの波が押し寄せた80年代初頭に、まるで70年代初頭のような王道のアメリカンロックで勝負したのである。当時は「古臭い!」と多くの日本人リスナーが無視したのだが、奇を衒わず、ど真中の豪速球で勝負したそのサウンドは今聴いても古くなっておらず、アメリカンロックの王道をいく傑作だった。
長い下積みの時代を経て
トップ20ヒットのあとまったく売れなくなり(地元デトロイトではもちろんスターであったが)、ソロに転向し5枚のアルバムをリリースするも満足のいくセールスとはならなかった。特にシーガーのバックバンドのメンバーであるジェイミー・オールデイカー、ディック・シムズ、マーシー・レヴィをエリック・クラプトンに引き抜かれてしまうという事件でシーガーは落ち込み、一時は音楽活動を止めていた時期もあった。そんな頃、シーガーはイギリスのソウルフルなヴォーカリストであるヴァン・モリソン(シーガーと似た部分が多い)を聴き衝撃を受け、新たなグループであるシルバー・バレット・バンドを結成する。
正統派アメリカンロックの
シンガーとして再スタート
この頃のシーガーの音楽は、ブルース・スプリングスティーンにも似ているしイーグルスっぽい部分もある。真似とかパクリとか言われることもあったが、彼のパワフルで煽るようなヴォーカルは誰よりもロックしていたし、それまでの下積みの経験が彼の音楽に深みを与えていた。特に、彼の書く曲は味わい深く、多くのアーティストたちにカバーされることも増え、それらの相乗効果でますます人気は高まっていったのである。
本作『奔馬の如く
(原題:Against The Wind)』について
アルバム収録曲は、ロックンロール、カントリーロック、フォークロック、ロックンソウルなど、シーガーが最も得意とするスタイルの音楽が収められており、中でもタイトルトラックの「アゲンスト・ザ・ウインド」は文句なしの名曲で、シングルカットされると全米チャート5位まで上昇した。94年に公開されたトム・ハンクス主演の映画『フォレスト・ガンプ』でも使われ、その時にもリバイバルヒットしている。曲調はスプリングスティーン風で、Eストリートバンドのロイ・ビタンっぽいピアノは、元フィフス・アヴェニュー・バンドやマナサスでも活躍したポール・ハリスが弾き、バックヴォーカルには、グレン・フライとドン・ヘンリーのイーグルス勢が参加している。本作には他にも良い曲がたくさん詰まっていて、何度聴いても飽きないのは、彼の人生が音楽に反映されているからであろう。
ボブ・シーガーのその後
この後も、リリースするアルバムはヒットし、90年代に入ると家族のために長期間の休みを取る。多くの人がこのまま引退かと思ったのだが、2004年にロックンロール・ホール・オブ・フェイムに選ばれたことで火がついたのか、2006年にアルバム『Face The Promise』で復帰、全米チャート2位になるなど、アメリカのリスナーに忘れられてはいなかった。昨年はグレン・フライに捧げた追悼アルバム『I Know You When』をリリースするなど、シーガーも72歳になってはいるものの、まだまだ精力的に活動しているようである。
TEXT:河崎直人
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