『ごめんね青春!』低視聴率が気にな
る今こそ振り返る、“クドカン×ジャ
ニーズ”名作ドラマ

池袋ウエストゲートパーク DVD-BOX

TBS系ドラマ『ごめんね青春!』の低視聴率が話題になっている。宮藤官九郎脚本、錦戸亮主演という話題作だが、クドカン×ジャニーズのドラマは過去にも視聴率が低い作品はあった。そして名作も多かった。今回はこれまでに宮藤官九郎が脚本を書き、ジャニーズが主演したドラマを一気に振り返ってみよう。

TBS系日曜9時から放送されている『ごめんね青春!』の低視聴率が話題になっている。初回こそ2ケタの10.1%だったが、2話以降は1ケタに沈み、5話まで7.7%、6.7%、6.7%、7.4%と推移している(ビデオリサーチ社調べ・関東地区)。
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NHKの朝ドラ『あまちゃん』で全国的にも知名度を上げた宮藤官九郎の脚本で、ジャニーズの錦戸亮の主演。だから余計に話題になるのだが、クドカン×ジャニーズのドラマは過去にも視聴率が低い作品はあった。そして何より、名作も多かった。
ということで、今回はこれまでに宮藤官九郎が脚本を書き、ジャニーズが主演したドラマを一気に振り返ってみよう。
『I.W.G.P』から始まったクドカン×ジャニーズ
宮藤官九郎を脚本家として本格的にテレビの世界に引き入れたのは、TBSの磯山晶という女性プロデューサーだ。1999年に放送された深夜ドラマ『コワイ童話』で磯山晶がプロデュースした『親ゆび姫』という作品があり、そこで宮藤官九郎が初めて単独で脚本を書いている。
磯山晶は、過去のインタビューで、イケメンがイケメンの役を演じてもあまり興味をそそられないと語っている。ジャニーズのようなイケメンがクドカンの破天荒な世界に入るからこそ、ジャニーズの新たな一面が見られると考えているようだ。
結果的に、クドカン×ジャニーズのドラマは、すべて磯山晶がプロデュースして、TBS系で放送されている。
最初にこのコンビ、というか、磯山晶を含めたトリオが揃ったのは、2000年4~6月期に放送された『池袋ウエストゲートパーク(I.W.G.P)』だった。主演はTOKIOの長瀬智也。まだNEWSが結成される前の山下智久も出ていた。
長瀬智也は『I.W.G.P』以前にも多くのドラマに出演していて、すでに月9でも主演を務めていた(中谷美紀菅野美穂も出演していた『Days』)。なので、これが出世作というわけではないが、かなりインパクトのある役ではあった。
とにかくこの作品は衝撃的で、なにか新しいものが始まったという感覚があった。ただ、『I.W.G.P』は、チーフDを務めた堤幸彦の作品という印象が強いのも事実。堤幸彦はこの前年に同じTBS系で『ケイゾク』の第1シリーズを撮っていて、すでにドラマ界に新風を吹き込んでいた。
『ケイゾク』も小ネタやパロディは多かったし、この作品自体が原作モノということもあって、宮藤官九郎のアイディアがどこまでなのか、放送当時はよく分からなかった人も多かったと思う。それでも、ハードボイルドや笑いの奥から滲み出る宮藤官九郎のリアリティーのあるセリフは、当時から際立った印象だった。
『I.W.G.P』の平均視聴率は14.9%で、3年後にはスペシャルも放送された。
クドカンの実力を遺憾なく発揮したのは…
『木更津キャッツアイ』はのちに映画化
宮藤官九郎の実力を遺憾なく発揮したのが、2002年1~3月期に放送された『木更津キャッツアイ』だ。主演はV6の岡田准一。キャッアイのメンバーとして、嵐の櫻井翔も出演していた。
岡田准一は田村正和が主演した日曜劇場の『オヤジぃ。』などにも出演していたので、すでにドラマファンにも知られていたが、櫻井翔はこの作品で嵐ファン以外の人にも顔を覚えられたんじゃないだろうか。当時、嵐はまだ結成2年目で、深夜に「真夜中の嵐」という番組をやっていた頃だった。
『木更津キャッツアイ』は、野球の試合のように表と裏に分けたストーリーの見せ方、登場人物たちのキャラクター、実在する木更津という町の見せ方など、そのすべてが面白かった。そして、その面白さの中に、地方都市に住む若者たちの青春がせつなく描かれていた。
平均視聴率は10.1%と低かったが、いい作品はあとから評価されるもので、のちに発売されたDVDが大ヒット。それを機に、2003年には映画『木更津キャッツアイ 日本シリーズ』が、2006年には映画『木更津キャッツアイ ワールドシリーズ』が制作された。

そして、2003年10~12月期に放送されたのが『マンハッタンラブストーリー』。主演はTOKIOの松岡昌宏で、無口な喫茶店の店長を演じていた。ほぼ全編に渡ってセリフはナレーションだったが、渋い純喫茶のマスターになりたいと思いつつ、常連客たちの複雑な恋愛の渦に巻き込まれていく姿は、まさに新たな一面を見た思いだった。
この作品は、登場人物の名前の頭文字がA、B、C、D……となっていて、A→B→C→Dという片思いが連鎖していく形でストーリーが進行した。もちろん、クドカンの脚本なので、後半からいろいろ仕掛けがあって、飽きさせない展開になっていた。
ドタバタのコントのように見えて、じつはグッと来るラブストーリーになっているというのもクドカンの真骨頂。ところが、平均視聴率は7.2%とびっくりするくらい低く、宮藤官九郎の作品を面白いと感じる人はこんなにも少なかったのかと、クドカンファンが痛感した作品でもあった。
ギャラクシー賞、向田邦子賞などの受賞作も
ギャラクシー賞、向田邦子賞などの受賞作も
2005年1月に2時間のスペシャルドラマとして放送され、4~6月期に連ドラとして放送されたのが、落語を題材にした『タイガー&ドラゴン』。タイガー=虎児(高座名は小虎)をTOKIO の長瀬智也、ドラゴン=竜二(高座名は小竜)をV6の岡田准一が演じた。
ヤクザでもあった虎児のキャラクターにはあまり新鮮味が感じられなかったけど、落語の演目に沿ったストーリーに、ジャニーズの2人が入っていくというのはなかなか斬新だった。
このドラマは、各話で取り上げる古典落語の噺をベースにしつつ、現代の家族や友情、師弟関係を描くという企画が最高だった。しかも、ストーリーの組み立ての完成度も高かったと思う。平均視聴率は12.8%とやはりパッとしなかったが、ギャラクシー賞のテレビ部門で大賞を受賞するという評価は得られた。

今回の『ごめんね青春!』で主人公を演じている関ジャニ∞の錦戸亮が、初めてクドカンの作品に出たのは、2008年10~12月期に放送された『流星の絆』。東野圭吾の小説が原作で、両親を殺された三兄妹の長男を嵐の二宮和也が、次男を当時はまだNEWSにも在籍していた錦戸亮が演じた。
兄妹で詐欺を繰り返しながら、両親を殺した犯人に対して復讐を計画する姿、そして血の繋がらない妹への微妙な感情など、やはりジャニーズがやるからこそ面白いというキャスティングだった。
このドラマは原作におもいっきりクドカンのテイストを入れた作りになっていて、笑いとシリアスの振れ幅がひときわ強い作品だった。とくに途中で挿入されるミニドラマのアイディアは秀逸で、三兄妹が行う詐欺行為を重たくならないように描く効果もあった。最終回の視聴率は22%を超え、平均視聴率も16.6%だった。
『I.W.G.P』『タイガー&ドラゴン』に続き、長瀬智也が3度目の主演を務めたクドカン作品が、2010年7~9月期に放送された『うぬぼれ刑事』。長瀬智也はうぬぼれが強い刑事役で、うぬぼれが強い俳優役として生田斗真も出演していた。
黙っていればイケメンなのに、しゃべり出すとうぬぼれが強すぎて女性が引くという設定は、まさにジャニーズがやることで成立する笑いの取り方だった。
このドラマは、恋愛体質の刑事が毎回ひとりの女性に惚れて、その女性がじつは犯人というお約束で物語が進行した。最後は主人公が犯人の女性に結婚か逮捕かを迫ってフラれるのだが、主人公が女性を口説く過程がそのまま捜査になってしまうあたりが面白かった。
一見、バカバカしい刑事ドラマのようだが、罪を憎んで人を憎まず的な教えも含めた、極上のラブストーリーだった。宮藤官九郎はこの作品で向田邦子賞を受賞。でも、やっぱり平均視聴率は8.2%と低かった。
今回の『ごめんね青春!』は
大人でも楽しめる青春学園コメディ
そして、『うぬぼれ刑事』から4年ぶりに放送されているクドカン×ジャニーズ作品が、今期の『ごめんね青春!』だ。高校を舞台にした学園コメディで、主人公の国語教師・平助が錦戸亮。生徒役でジャニーズWESTの重岡大毅も出演している。
仏教系の男子校(東高)とカトリック系の女子校(三女)の合併・共学化がストーリーの軸になっているこのドラマは、主人公の平助やヒロイン役の英語教師・りさ(満島ひかり)も同じ男子校・女子校出身というところが大きなポイントになっている。
つまり、現代の高校生だけでなく、かつて高校生だった大人たちの青春に対する後悔やせつない感情も同時に描いているということだ。放送開始前は『ごめんね青春!』というタイトルにややパンチの弱さを感じていたけど、見続けていると、とくに大人たちにじわじわ来るタイトルになっている。
錦戸亮が演じる平助は、高校生だった14年前、親友と好きだった三女の生徒に裏切られた経験があり、自分が放ったロケット花火で三女の礼拝堂を燃やしてしまったと思っている男。教師になった今もそのことを引きずっている情けないところもあるが、自分の青春にきっちりと落とし前をつけなくてはならないと思っている意思もある。
錦戸亮のキャスティングは宮藤官九郎の希望だったらしいが、その情けない部分や、自分の過去を踏まえて生徒たちにやさしく諭す話し方など、かなり役に合っていると思う。
他の出演者では、満島ひかりもいいのだが、平助が好きだった三女の生徒であり、りさ(満島ひかり)の姉でもある祐子を演じている波留がいい。平助の告白を受けながらも、平助の親友であるサトシ(永山絢斗)と付き合おうとした祐子の行動と、波留が醸し出す雰囲気のギャップが、とくに元・男子高生には何とも言えない魅力として写っているはずだ。
『あまちゃん』はNHKの朝ドラなので、当然、三陸という明確な舞台があったのだが、クドカン×ジャニーズドラマでも、『I.W.G.P』の池袋、『木更津キャッツアイ』の木更津などは舞台となる街がハッキリとしていて、宮藤官九郎はその街を魅力的に描いてきた。その切り口で言うと、今回の『ごめんね青春!』は静岡県の三島が舞台だ。5話までの間にも、伊豆箱根鉄道駿豆線、伊豆・三津シーパラダイス、みしまコロッケ、みしまるくんなど、実在の施設やアイテムを登場させて、リアル感を出している。
このリアル感に関しては、3話であまりにもリアル過ぎる学校名を出してしまって、公式に番組サイドが謝罪するという出来事もあった。TBSでは平日の昼間に1話から再放送をしていたのだが、当然のことながらその部分はバッサリと切られていた。まあ、こういう危ないセリフは、これまでのクドカン作品にもチラホラあったりはするんだけど……。
とにかく、低空飛行の視聴率だけでなく、そんなマイナスな話題でも各所で取り上げられてしまっている『ごめんね青春!』。それでもやはり、クドカン×ジャニーズのドラマには、他では見られない魅力がある。先入観を取り除いて、もう一度素直な気持ちでこの作品を見てみてはいかが?