【ラクルイノヨルニ インタビュー】
絶望とか、痛みとか、
そういうものが楽曲を作る上で大きい

L→R 寺中 四(Ba)、カタミチカラ(Vo&Gu)、サイキタクト(Dr)

シンガーソングライターのカタミチカラ(Vo&Gu)を中心に結成されたラクルイノヨルニが、初の音源『落涙ep』をタワーレコード店舗限定でリリースする。この作品についてメンバーに語ってもらった。

カタミさんはソロで活動していたのですよね?

カタミ

はい。でも、バンドでやりたい気持ちはずっとあって、このメンバーと出会った時に“もう一度バンドをやってみよう”という気持ちになりました。

サイキ

僕はこのバンドを組む前から彼のことは知っていて、楽曲も好きで聴いていたんですよ。

サイキさんは、カタミさんの楽曲を聴きながら目を瞑って歩いていたら電柱に激突したことがあるそうですが。

サイキ

酔っぱらって聴きながら歩いていた時のことです(笑)。それくらい浸れる音楽なんですよね。声をかけてもらって一緒にやることになったのが、すごく嬉しかったです。

寺中さんは加入前にカタミさんの音楽についてどのようなことを感じていました?

寺中

僕はサウンドプロデューサーの篠くん(篠塚将行/それでも世界が続くなら)に紹介されるまで知らなかったんですけど、聴かせてもらって惹かれました。僕はもともとURC系のコアなフォークが好きなんです。彼の曲の「知りたくない」の歌詞を読んだ時にすごく惹かれて、“ぜひ一緒にやりたいな”と思いました。

ソロで活動してた頃のカタミさんは、秦 基博さんのオープニングアクトをしたこともあるんですよね?

カタミ

はい。秦さんが横浜で活動していた時期に出演していたF.A.D yokohamaに僕もよく出ていたんです。そこのライヴハウスの人を通じて“オーディションに出てみない?”っていうことになって、オープニングアクトをさせていただきました。良い経験でしたね。でも、僕は3年くらい前に喉の調子を悪くしてしまって…正直なところ“自分の音楽活動はここで終わるな”って思ったんです。そういう状態のままもがきながらなんとか続けてきて、今のメンバーに出会えて、こうして活動できているのが嬉しいです。

この3人の編成になったのは2017年の7月ですが、それ以降、いろいろなことが動き始めていますね。タワーレコードの店舗にCDが並ぶことになったわけですし。

寺中

マイペースな3人なので、篠さんに出会っていなかったり、タワーレコードの方に声をかけていただかなければ、こうなっていなかったと思います。

僕が感じたみなさんの音楽性は、日本のフォーク的な抒情性や哀愁と、音の壁やサイケデリックな音像を構築するシューゲイザー的なサウンドが結び付いているということなんですが、どう思います?

寺中

あのシューゲイザー感はどこから来ているのか、僕も気になりますね。

カタミ

もともと和の音階は好きなので意識しながら作ることが多いんですけど、それ以外のサウンド面に関しては、あまり意識はしていないんです。“この曲のアレンジは、こうだな”とイメージしたことに基づいて作っているんですよね。でも、聴いてきた音楽の影響はあるんだと思います。例えば、それでも世界が続くならの影響は、すごく大きいです。あと、音楽に目覚めたきっかけは、ゆず。そのあとにBUMP OF CHICKENを聴くようになって、バンドをやりたいなと思うようになったんです。

歌詞で描かれていることに関しては、“生きている”ということにつきまとう不条理をすごく見つめている印象がします。

カタミ

青春時代に感じる分かりやすい絶望というよりも、生活の底のほうになんとなく横たわっているような絶望とか、痛みとか、そういうものが楽曲を作る上で大きいんです。

例えば「明日葉」は理由も分らずこの世に生まれ落ちたことの不条理が表れていて、ドキリとさせられました。

カタミ

生きられないほどでもなく、死にたいほどでもないっていう感覚は、結構多くの人が持っているんだと思います。そこを言葉にしたくてできたのが「明日葉」です。

寺中さんは先ほどカタミさんの書く歌詞のことをおっしゃっていましたけど、まさにこういう部分に惹かれたんじゃないですか?

寺中

はい。僕も昔はロックスター的な生活に憧れていたんですけど、最近、すごく普通に生きたいなと思うようになっていて。そうじゃないと普通の人に向かって音楽が届かないだろうなと。そういうことをカタミくんの歌を聴いて感じています。

サイキ

僕は自分自身をポップな人間だと思っていて、ここまでダークサイドではないんですけど(笑)。でも、そんな人間でもこういう一面はあるんじゃないですかね?

心の暗部にあることをキャッチーに表現できるのは音楽の魅力のひとつですし、ラクルイノヨルニの楽曲もキャッチーと言って間違いではないと思いますよ。

カタミ

初めてキャッチーと言われました(笑)。

J-POPシーンで一般的に言われるようなキャッチーさではないのかもしれないですけど、洋楽のヒット曲って結構ダークなことを描いているものもあるじゃないですか。そういうかたちのキャッチーっていうことですね。

カタミ

そうおっしゃっていただけると嬉しいです。多くの人に聴いていただけると嬉しいという気持ちはありますから。

サイキ

確かにキャッチーかもね。

寺中

キャッチーだと思うよ。そうじゃないと一緒にやろうと思わなかったから。

カタミ

それは初耳です。普段からそういうことを言ってほしい(笑)。聴いた人の印象は、詞に引っ張られている部分もあるのかもしれないです。僕は太宰治が好きなんですよ。あの人が描いていることに対して“現代人に通ずるような痛みをこんな言葉で表すんだ⁉”っていうのがありますし、そういうことを僕も自分なりに表現したいと思っています。

「夕焼けノスタルジア」からも、そういう作風を感じました。

カタミ

僕は過去を美化してしまうことが多くて。小学生の頃とかバカみたいに遊んで、純粋に楽しい時期だったんです。その頃に戻りたいわけでもないんですけど、ホームシック的な感覚になることがずっとつきまとっているんですよね。それをまさに描いている曲です。

「知りたくない」は生きている中で完全に無視することができない“死”を描いた曲として受け止めました。

カタミ

これは昔から歌っていて、自分とは切り離せなくなっています。作ったのは絶望していた時期ではなくて、フラットな精神状態の時でした。いろいろあった時期を経て振り返った言葉が入っている曲ですね。

今作に収録されている3曲は前向きなメッセージとかが入っているわけではないですけど、“こういう感覚ってあるよね”というのを噛み締められます。それって大事なことですよ。“自分だけじゃないんだ”って思えますし。

カタミ

それが多分、僕がまだ音楽を続けている理由ですね。楽曲を作って同じような痛みや傷を持っている人に伝えることができた時に、自分自身も救われますから。楽しかったり幸せだったりする感覚、“陽”の部分でつながれる音楽を否定する気もないんですけど、そうではないものを共有し合うことができて、“一緒にまだ生きていけるね”ってなれると僕も救われるんです。

取材:田中 大

EP『落涙ep』 2018年2月28日発売
yoidore records

  • YIDL-0001
    ¥500(税込)
    ※タワーレコード新宿店+横浜ビブレ店限定

ラクルイノヨルニ

ラクルイノヨルニ:15年9月、カタミチカラを中心にkukatachiiやkent kakitsubataでも活動するサイキタクトのふたりで結成。結成時からベーシストが不在であったが、2017年7月に寺中 四(ex.井乃頭蓄音団/ひらくドア/僕のレテパシーズ)が正式加入。18年2月28日にタワーレコード店舗限定で初の音源『落涙ep』をリリースする。

「明日葉」MV

「知りたくない」MV

アーティスト