圧倒的なギタープレイでロック少年を
虜にしたテン・イヤーズ・アフターの
壮絶なライヴ盤『アンデッド』
これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!
『ウッドストック』の時代
ロードショーの時点でこの映画を観たのか、後で観たのかはすっかり忘れているのだが、このドキュメンタリー映画で今でもはっきりと印象に残っているのが、爆音で演奏されたジミヘンのアメリカ国歌変奏とテン・イヤーズ・アフターの「アイム・ゴーイング・ホーム」であった。このふたつの演奏は、13歳の僕が見ても本当にすごかった(いや、13歳だからこそすごいと思ったのだ)。この映画のおかげで、僕はロックに、特にハードロックにのめり込んでいったのである。
しかし、それまで存在すら知らなかったテン・イヤーズ・アフターの演奏には楽しめたどころではなく、“ぶっ飛んだ”という言葉がしっくりくるだろう。こんなにすごいグループがいるなんて、こんなにギターが速く弾けるなんて、今まで聴いていたロックは何だったのだ!?と困惑するほど驚いたのだ。彼らが『ウッドストック』で演奏した「アイム・ゴーイング・ホーム」は10分以上にも及び、途中ロッククラシックの「ブルー・スエード・シューズ」を交えながらのパフォーマンスは圧倒的で、完全な陶酔感を体験したのだった。
ハードロックが生まれる前夜の
テン・イヤーズ・アフター
『ウッドストック』のサウンドトラック
しかし、並み居る大物ロッカーを差し置いて、10分にも及ぶテン・イヤーズ・アフターの「アイム・ゴーイング・ホーム」はしっかり収録されていただけに、当時、彼らがいかに注目されていたのかが分かる。はっきり言って、テン・イヤーズ・アフターがイギリス以外で注目されたのは『ウッドストック』のおかげであり、彼らの演奏にぶっ飛んだロックファンは「アイム・ゴーイング・ホーム」が収録された彼らのアルバムを探し求めるのである。
本作『アンデッド』について
1曲目から圧倒的なドライブ感でリスナーを引き込んでしまうその力量からして、68年の時点でブリティッシュ界最高のロックグループのひとつであったことは間違いない。アルヴィンの速弾きだけでなく、リック・リー(ベース)とレオ・ライオンズ(ドラム)のリズムセクションやチック・チャーチルのジャジィなキーボードも文句なしのプレイを聴かせる。ライヴならではの臨場感と緊張感に富んだパフォーマンスは楽しく、全編にわたってまさしくロック史に残る名演が収められていると言えるだろう。
『ウッドストック』では見せなかったテクニカルなプレイが多いのには驚かされる。ブルースロックというよりは、ジャズコンボのような組み立てで、彼らがいろいろな音楽に精通していることがよく分かる。本作では特にジャズに影響されたパフォーマンスが多い。何より『ウッドストック』で熱狂をもって迎えられた「アイム・ゴーイング・ホーム」のテンションがアルバム1枚分持続するのだから、ほんとすごいグループだ。全5曲、これぞロック!と言えるエッセンスが凝縮されたライヴアルバムの傑作である。
テン・イヤーズ・アフターのその後
このアルバムからシングルカットされた「アイド・ラブ・トゥ・チェンジ・ザ・ワールド」(名曲)がヒットし、アルバムも全米チャート17位まで上昇したが、テン・イヤーズ・アフター本来の持ち味はグイグイ押しまくるアドリブ感であって、それが失われてからは徐々に失速し75年に解散。何度かの再結成を経て現在もグループは継続しているようだが、2013年にアルヴィン・リーが手術中の事故で亡くなり、永遠に本家テン・イヤーズ・アフターの再生は望めなくなった。彼らのピークは、ウッドストックでの「アイム・ゴーイング・ホーム」や本作『アンデッド』にあると僕は思う。
TEXT:河崎直人
アーティスト
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