【小野正利 インタビュー】
名曲と対峙することで
新たな自分が見えた
GALNERYUSでJメタルシーンのトップシンガーに登り詰めた小野正利が、本作ではヴォーカリストとしてのさらなる可能性にチャレンジ! 世界のレジェンドと歌姫との名曲に真っ向から挑む。
“VS”というタイトルには、どのような意味が込められているのですか?
ひとつはカバーアルバムということで、ヴォーカリストとしてこれらの原曲とどう対峙するか、大袈裟に言えば闘って勝ってやる!というところ。デビュー25周年ということで言えば、これからもヴォーカリストとしてチャレンジしていくぞ!という意気込みを込めての“VS”なんです。
女性シンガーの楽曲を“ディーヴァ・ディスク”、男性シンガーによる楽曲を“レジェンド・ディスク”という2枚に振り分けた構成は面白いアイデアだと思いました。その選曲にはどのような基準があったのでしょうか?
最初に唯一決めていたのが、男性曲は僕がデビューした1992年より以前の曲から、女性曲は90年代から現在に至るまでの中から選ぼうということ。なので、男性曲は歌ったことはなくても知っている曲ばかりだし、中には歌ったことがあるものもありました。女性曲のほうはこれまで歌ったことがある曲は1曲もなかったですね。ディレクターから提示されたさまざまな曲…あと、ファンクラブの方からのリクエスト曲、それに自分が挙げた曲を候補に、会社のスタジオにある通信カラオケで歌ってみて“これはいけそう”“これはちょっとイメージが違う”という感じで絞り込んでいって。僕の意識としては男女の差というのはあまりなかったけど、難易度で言うとディーヴァのほうが高かったかな。レジェンドのほうが気持ち良く歌えて、出来上がりを自分でもイメージしやすかった。
今回は曲によって複数のアレンジャーの方と作業をされたそうですね。
大きく分けて4チームあったんです。僕が自分らしいと思っている感じと、ディレクションしている人の感覚とは違っていたりするので、そのあたりは柔軟に対応しました。僕は100パーセント任せちゃうタイプなので、自分の考えはありつつも言われた通りにやってみました。25年歌ってきて、良く言えば自分ならではの歌い方が定まっているんですけど、悪く言うと硬直化しちゃっていて。その意味では、今回は自分の新たな面を知る局面が多かったですね。
小野さんの声域では女性のキーが合うのは想像できましたが、マライアの「HERO」がドはまりで驚きましたよ。
この曲では違う意味で僕もどハマりだったんですけどね(笑)。難易度としてはこの曲が一番だったかな。あのテンポだと英語の発音が赤裸々に出ちゃうので、発音チェックを受けながら歌っていくのはなかなかしんどい。それはセリーヌ・ディオンの「マイ・ハート・ウィル・ゴー・オン」も同じで、ずっと避けてきた曲なんです。昔からしょっちゅう“オリジナルキーで歌えるんじゃないの?”って言われてきたんですけど、それでも手を出さないでおこうとしてきたので。
サラ・ブライトマンの「ア・クエスチョン・オブ・オナー」は冒頭のオペラ的歌唱が印象的でした。
僕のはなんちゃってオペラですけどね(笑)。頭と最後のオペラ風な部分以外は、歌としての難易度がそれほど高いわけではないんですが、なんちゃってオペラ風とはいえ、イタリア語の発音のチェックの方も呼んだりして、ドキドキしながら歌いました。で、そのうちにだんだんその気になってきて、しまいには新しい扉を開いちゃいましたね(笑)。
続いて男性曲。ボン・ジョヴィの「リヴィン・オン・ア・プレイヤー」はピアノアレンジが意外でした。
この辺の曲は大学生の頃によくコピーしてましたね。“あれ?こんなに高かったっけ!?”と思いました。年を重ねるごとに高く感じるようになったのかなって。
ジャーニーも小野さんの声質にとても合っていました。
デビューした頃によく“ジャーニー歌ってたでしょ?”と言われたんですよね。曲はよく知っていたけど、学生の頃には1回も歌ったことがなくて。デビュー以降に番組か何かの企画で歌ったのが初めてかな。ジャーニーの曲ってハイトーン系の人が気持ち良く歌える感じのレンジとメロディーなんですよね。ポップな感じが素敵です。
ヴァン・ヘイレンの「ドリームス」は、原曲ではサミー・ヘイガーがヴォーカルで。
実はこの曲はキーがとんでもなく高いんですよ。だから、必死に歌いましたよ。質感的にはあまり高く聴こえないかもしれないけど。
特に出来に満足している曲を挙げると?
エルトン・ジョンの「ユア・ソング」は泣きべそかきながら録っただけあって、意外とよく録れたかなと。《It's a little bit funny~》という歌い出しの部分が温かみがあっていいじゃんと思ったので、あそこだけ繰り返し聴いてください(笑)。
「ユア・ソング」は小野さんだったらキーを上げてもいいかなと思えるほど低く感じますよね。
若い頃だったら“キーを上げて歌う”と言っていたかもしれないけど、“今でも高い声出ますよ”という主張は不要だと思ったので、原曲のイメージを損なわないようにしようと。オリジナルキーでも歌えるから変に上げる必要もないかなって。
ボーナストラック3曲はいずれもセルフカバーで、代表曲「You're the only...」の再録も含まれていますが。
なるべく1991年当時のイメージを崩さないように歌うようにしています。聴き手としては、大好きだったシンガーが代表曲を変にベテランふうにアレンジして歌っているのを見るとがっかりするんですよね。それだけは避けたいので、なるべくオリジナルのメロディーに忠実に歌うように心がけています。100万枚を越えるヒットということは、思い入れがある人がそれだけいるということなので、その想いを裏切りたくないんです。代表曲があるのはありがたいことですし、それが50歳になっても歌えている。この曲で本当に良かったです。
取材:金澤隆志
アルバム『VS』トレーラー
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