【The MANJI】
実にスリリングで、
その場の空気感が伝わる生々しさ
L→R 高橋ロジャー和久(Dr&Vo)、ROLLY(Gu&Vo)、佐藤研二(Ba&Vo)
“THE 卍”改め、“The MANJI”が約8年振りとなるアルバム『TRIPLED』を完成させた。3人の濃すぎるほどのロック愛が注入されていることは言わずもがなだが、それでいて決してマニアックにならず、誰もが楽しめるロックアルバムに仕上がっている。
8年振りのアルバム『TRIPLED』が完成しましたが、熟成感があるというか、このバンドならではの一枚だなと。8年振りなので、楽曲はある程度ある中で制作に入ったのですか?
ROLLY
確か3月9日に1回目の曲出しをやって、そこで各人発表したんですけど…まぁ、曲のモチーフみたいなものも含めて、その場でブワーッとたくさん作ったんですよ。それをレコード会社の方も含めて、みんなで聴いて、その中から選んだという感じですね。1枚目のアルバム『卍』はブラックサバスやフラワー・トラベリン・バンドみたいな感じだったんですけど、今回はあんまり怪奇なものではなくて…あっ、その前に“THE卍”から“The MANJI”に変名したことにより、和風系から解き放たれた感じはあったかな?
佐藤
僕はそういうのはなかったかな。バンドの名前を変えたことで音楽性も変わるっていうのは。まぁ、メンバーそれぞれに意見はあると思うんですけど。
でも、『卍』は“謎の卍教団がいろんな時代のいろんな場所に現れて、おかしな事件を巻き起こす”というのがテーマにあって、ROLLYさんのイメージが先行していたのが、2ndアルバム『puzzle』でバンドに寄って、今作はバンドであり、3人の味が出たものになっている印象を受けました。
佐藤
うんうん。そういうものになったと思います。まぁ、これだけの期間があったから“熟成”と言うほどではないにしても、時間の経過分だけ、バンド内で蓄積されたものがあるんだと思う。それが過去2作と大きく違うところかな。あと、大枠として“こういうもの”というのは話し合ってて…それは3月の時ではなくて、毎年年末に札幌で『大卍納め』というワンマンライヴをやってるんですけど、前回は大雪で飛行機が飛ばなくなっちゃって、振替公演の段取りをみんなで話し合ってる時に、せっかく全員いるからアルバムの話をしようってなって。で、その時にマネージャーのほうからも“今回はこういうアルバムはどうでしょうか?”というアイデアが出たりして、どんなものにするかのみんなのコンセンサスを得たというか。そこから3カ月間、ふるいにかける作業があって3月の曲出しを迎えたので、その時にはもうどういうアルバムにしたいというのはあったんですよ。
それは具体的には?
佐藤
僕はピュアで、ハードで、ロックなものにしようと思ってましたね。あんまり凝ったものじゃなくて、もっとシンプルでストレートでもいいんじゃないかって。マネージャーとも話したことなんだけど、長い曲じゃなくて、コンパクトで短い曲がいっぱいあってもいいだろうし。それが大枠というか、方向性になっていきましたね。
確かに。今作でもやりたい放題にロックしているし、オマージュも入っていたりして濃くはあるんですけど、ポップに聴こえてくるのはコンパクトにまとまっているからなのでしょうね。「おまえにほれた」はプログレですけど、美味しいところをギュッとまとめた感じでマニアックにならず、むしろポップですし。
佐藤
そうやって聴いてもらえたら最高ですね。
そんな今回のアルバムで尖っているのが、ロジャーさん(高橋)の曲で。「フィフティーショルダー」、最高です!
ロジャー
前作で「難聴」を作ったから、五十肩になった時に“あ、これやな”って思ってました。“五十肩”を“フィフティーショルダー”って言ったらカッコ良いでしょ?(笑)
ROLLY
横文字にするとカッコ良いと思うところにも悲哀がありますよね(笑)。しかもそれをカタカナで書いてるところがMANJIっぽい(笑)。
クイーンばりにサウンドは展開してカッコ良いんですけどね(笑)。
ROLLY
この膝カックン感はMANJI独自のものだと思います。ハードな音楽をやるグループは日本にもたくさんいるけど、本格的なサウンドと“フィフティーショルダー”が同居しているってのは他にはない!
佐藤
僕はこの曲をアルバムのリード曲に推したぐらいなんで(笑)。ロジャーさんのリアルな心の声ですから、今の彼にしか歌えない…僕には四十肩も五十肩もないから、僕が歌うと嘘っぽくなるけど、ロジャーさんが歌う「フィフティーショルダー」や「難聴」にはリアリティーがあるんですよね。だから、若い子は“五十肩ってそんな感じなんだ”って思うくらいでしょうけど、我々世代の身に覚えがある人には“分かるよ!”ってなるっていうか(笑)。
ロジャー
でも、悲壮感はないでしょ?
ROLLY
悲壮感がまったくなく笑い飛ばすところと、転んでもタダでは起きないっていうのは関西人体質ですね(笑)。
ロジャー
関西人ですからね。ほんまは辛いんですよー。
もう1曲の「ユミコとタクシー」も“分かるよ!”でした(笑)。
ロジャー
実話ですよ、まったくの(笑)。これは札幌のライヴの時に何かの曲をモチーフにして1回やったんですよ。まぁ、お客さんはすごく喜んでくれたんですけど、わしはあれはあれで終わりかなと思ってたら、“あの曲良かったから自分らの曲でやろうや”って言われて“え〜”って(笑)。
その時もあんな語りで?
ロジャー
語りです。いらんことばかり言ってたからもっと長かったんですけどね。10分以上あったかな?(笑) まぁ、それをまとめて短くして…って言っても8分くらいあるんですけど。
佐藤
あんまり端折ってもストーリーが伝わらなくなるしね。こういう語りの曲っていうのはロジャーさんが関西のブルースロック界の先輩たちから脈々と受け継いできたものだし。
確かに関西ブルースにはこういう語りの曲はありますよね。上田正樹さんと有山淳司さんの「とったらあかん」とか。いい味を出してますよ。
ROLLY
聴いていると病院のシーンとか、タクシーに乗ってる時のギュウギュウ感が伝わってくるというかね。
ロジャー
そのあとのギターソロがまたええねん。ユミコのことを思って舞い上がってる、わしがおんねん。天に昇ってる感じで(笑)。
ROLLY
あそこは泣かせるポイントで。
ロジャー
ちょっと涙が出そうなる。あの曲がフェイドアウトで終わって、次の「Fly High☆Me」がしんみりと始まるから、それでまたセンチメンタルになんねんな…。
ROLLY
夕焼けっぽい感じがね。だから、まるで青春映画みたいな甘酸っぱい感じがあって、最後にユミコからもらったメールアドレスにメールしようと思ったら亭主のものだったというオチがきて、“これで良かったんだ”ってなる…いや、もう一本の映画ですよね。MANJIの曲はだいたいドラマチックだから、他にこういうバンドはいないと思いますね。
佐藤さんヴォーカルの「Let’s get FUNKY」もアルバムのフックになっていますよね。
佐藤
恐縮です。今、おっしゃっていただいたように、このバンドにはフックかもしれないけど、こういう感じの曲って僕の中ではすごく自然にロックなんですよ。ちょっと話が逸れますけど、ディープパープルの「HIGHWAY STAR」って曲があるじゃないですか。あれはずっとベースを弾いてきた僕にとってはスウィングなんです。もちろん、あれは8ビートの代表みたいな曲なんですけど。あと、レッド・ツェッペリンの「We're Gonna Groove」を聴いてファンクだって言う人はいないじゃないですか。あれも16ビートのバックビートに乗るパターンなんですよ。でも、それは理屈でしかないんですよね。一種のジャンル分けみたいな。だから、僕としてはアルバムのフックとなるような、ちょっと変わったテイストの曲を作ったんじゃなくて、タイトでスピードがあってロックなものっていうつもりで作った曲で…まぁ、ライヴのお楽しみも含めて“One Time, Two Time〜”というのは入れてますけど。洋楽ファンやブラックミュージックのファンの人にしてみれば、“今さらそんなことをやられてもな”って感じかもしれないですけど、“こういうのはどうでしょうか?”ってあえて入れて、それがライヴで育っていけば楽しいかなって。だから、僕にしてみれば、普通にロックな曲なんですよ。
この曲の間奏部分はニャリとしてしまうほど三つ巴のグルーブが心地良くて、きっとライヴで育って長くなっていくんだろうなと。
佐藤
そうそう! 延々やっていたくなるんですよ。でも、こういう音楽の良いところって、多くの景色を変えなくてもワングルーブで地平線の彼方まで行けてしまうことで。死ぬまでそれをやっていたいっていう喜びがあるんですよね。そうなる可能性を感じるということは、僕らのバンドにそれだけのグルーブがあるっていうことだから、ライヴでそこまで育っていけばいいですね。
あと、印象的だったのが「まままままんじ」で。The MANJIだからこその曲というのもあるのですが、ドラムの出音とかにもかなりこだわったのではないかと。
佐藤
もともとこの曲のヴォーカルはシャウトしてたんですよ。それはそれでカッコ良かったんだけど、もっと良くなるんじゃないかって。そのためにはどうしたらいいのかを考えて、今のテイクみたいに声を張らず、音楽の温度をグッと下げた…最初は1オクターブ上げて歌ってたんですけど、それだとメランコリックで陰影のあるメロディーのセンチメンタルな感じがなくなってしまうと思って、グッと下げて大人っぽくやってみたんですよ。そうしたらロジャーさんがスネアのねじを回し出して、それでああいうチューニングのドラムになったんです。あのスネアのパサっとした感じは、マニア的にも聴いていい感じですね。もうドラムと歌だけいいんじゃないかって。もともとのアレンジの方向性としてもギターとベースの音量を下げているんだけど、もっと小さくてもいいんじゃないかと思ってて…でも、ミックスの前にROLLYに“車で聴いているとイントロが聴こえなくて、突然始まるんだよ”って言われて上げたんです(笑)。
ROLLY
夕方の土手を歩いてると影が長〜くなって、友達と影踏みをしている風景が浮かぶんですけど、ゆる〜い感じで歌っているのが、それにすごく合ってるなって。なんだけど、イントロのフレーズとかが摩訶不思議な気持ちにさせるところが、MANJI独自のものだなと思いますね。
ちょっと屈折していることがありますからね。
ROLLY
変なんだけど、ポップなところがね。
佐藤
でも、バンドとしては自然にやってるんですよ。音符の数は奇数なんだけど、普通に聴けるじゃないですか。でも、“あれは8分の7拍子でやってるんだ”って言うと理屈っぽい音楽をやってるように思ってしまうんだけど、当の本人は奇数拍子をやってるつもりなくやってたからね。そこもMANJIっぽいのかなって。あと、この曲の歌はね、デヴィッド・ボウイっぽく歌ってほしいってリクエストして(笑)。
ROLLY
《ロックンロールスター〜》のところね。なかなか上手くダンディーに歌えたと思います(笑)。あれは音がやかましかったら、ああいうふうには聴こえないと思う。あの抑えた感じがいいよね。
佐藤
そういうのをこの曲で試せたよね。こういう手法は全然珍しいことではないんだけど、MANJIにとってはすごく新鮮なことで…放っておいたらシャウトヴォーカルで、演奏もウェー!ってやってしまうんで(笑)。
ちなみに、今回のレコーディングも基本は一発録りだったのですか?
佐藤
そうです。
2ndアルバム『puzzle』の時は1週間でトラックダウンまで済ませないといけなかったのに、アルバム未収録の曲を2曲録って、さらにスタジオライヴ盤を作ってしまったというエピソードがありましたが、今回は?
佐藤
作業期間的には今回のほうがさらにタイトでしたよ。
ROLLY
しかし、我々は恐るべきことに、今回は余った時間でアルバム購入者特典用の曲を7曲…ぐらい?
佐藤
6曲作りましたね。特に打ち合わせしてっていうわけじゃなくて、エンジニアさんが録音状態にしていたから、そのまま突然セッションを始めて(笑)。
レコーディングの余韻でテンションも上がっていたんでしょうね。
佐藤
そうですね。前回のレコーディング期間は1週間で、今回はさらにタイトだったし、曲数も前回よりも多い…でも、時間とお金の話は音楽には関係のないことだから。もちろん、時間とお金はあるに越したことはないけど、それが作品を萎縮させるものであってはいけない。その条件でもやりたいと思うのは、それでも作りたいと思ってるわけで…むしろ、そういうものが自分たちのクリエイティビティの奮発材料になるし。ヴォーカル以外はほぼダビングしない一発録りでやってるのも、ダビングしないと曲が成立しないような演奏しかできない腕前だったら話にならないわけで。そういう意味では、時間があったらもっと良いものができたっていう気持ちは全然ないし、時間内に作ったこの作品にすごく満足してます。
ROLLY
今年発売される日本のロックグループのアルバムの中で、自分が一番好きなアルバムですね。他のロックグループのどんなアルバムを聴くよりも、“お! いいなー”って思う…それは毎回思うことなんだけどね。それが毎回更新されていくんですよ。
ロジャー
何回でも聴けますね。音的にも、曲的にも。そこでやってるのが目に浮かぶしね。
ROLLY
うん。実にスリリングで、その場の空気感がある…いっぱいダビングされて、みっちり作り込まれたものとは違う生々しさがありますよね。
佐藤さんのこのアルバムに対する印象は?
佐藤
卍記号の名前でやっていた時の感触というのは、バンド名をパッと見ると“これって何だろう?”みたいな感じがあって(笑)、アルファベットでの名前ってそれと同じ意味のものなんだけど、パッと見て“これって何だろう?”とはならないと思うんですよ。これは後付けの理屈なんですけど、過去2作と今作を比べると、奇しくもその通りになってるなって。
ROLLY
アルバムのジャケットだけを見ると“何だこれは!?”ってなるけどね(笑)。
そして、本作を持って8月からツアーに。
ロジャー
暑い時や…。
ROLLY
53歳最後の夏全てをこれを捧げたような感じよね。ツアーをやるといろんな事件が起こり、逸話が生まれるんですけど、今回もいろいろ起きて面白いことになりそうですね。
ロジャー
この間のワンマンでも新曲をやりましたけど、まだやっていないアルバムの曲がたくさんあるから、それをやるのが楽しみですね。アルバムを発売して1カ月後ぐらいやからお客さんも聴き込んでるやろうし、“これ、ライヴでどうなるのかな?”って楽しみにしてくれている人もいっぱいいるやろうし。
佐藤
普段なかなか行けないところもいっぱいあるし、初めて行くところもあるし、楽しみですね。
取材:土内 昇
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