【Caravan】


取材:高木智史

僕らはもともと空を飛ぶためのチカラを持っている

Caravanの3枚目のアルバム『Yellow Morning』がリリースされる。

彼の音楽を聴く度に思うことは“nature”。その単語には“自然”や“本質”、“生命力”などの意味があるが、そのいずれもが当てはまるように思う。木や水のようになくてはならない、なくしてはならない尊さを感じる、音と言葉。派手な飾り気などを取っ払った、音と言葉。聴き込む度に自分の一部になるような、また、作り手の経験、息づかいが伝わってくるような、音と言葉。

果たして、そこまで必要かと思うほど高層ビルが立ち並び、政界では相次ぐトップの交代劇に政治は頓挫し、混沌とする社会…。そんな世の中だからこそ、彼の“nature”な音楽が輝き、意味を持つのではないだろうか…。

…と、かなり堅っ苦しく、下手にカッコ付けて書いてきたのだが、今作はとにかく素晴らしい一枚だ!

まずは1曲目の「Well-Come」はインストで、アコギとエレクトロの音色が心地良く感じること請け合い。聴き馴染んだ音のようで、そうではない新鮮な感覚を覚え、彼のサウンドクリエイターとしての力を1曲目にして十分に感じることができる。

そして、次なる「Lonesome Soul Survivor」からだんだんと世界が広がっていく。この曲を聴いて思ったことは歌詞を感じてほしいということ。一見、ネガティブに捉えてしまいそうだが、まるでCaravan自身の生き様を描いているようでもあり、孤独な生存者が光を見出していくように物語が見え、強い力を感じた。“君はひとりじゃないよ”という歌よりもよっぽど、僕は彼の描いたこの孤独の強さに勇気を与えられた気がする。

“Train days”という旅を人生に例え歌った「Train Song」。戯けたピアノのサウンドに乗せ、社会に鬱屈しながらも、何かを誰かを求めてしまう人の愛らしさ、人生の素晴らしさを歌った「Strange Garden」。そして、ラスト「Song For You」ではリスナーへ向けて率直な歌を歌い、“サヨナラまた逢う日まで”と締めくくっている。

上目線で申し訳ないのだが、なんだかCaravan自身にも愛らしさを覚え、興味が沸いてくる。こんなに人間味を感じる作品は聴いたことがない。

Caravan

74年10月9日生まれ。幼少時代を南米ベネズエラの首都カラカスにて過ごし、高校時代に結成したバンドでギターとブルースハープを担当する。その後都内のライヴ・ハウスやクラブを中心に活動しつつ、様々なセッションやリミックス・ワークに参加するものの、01年バンドを休止しソロ活動へと移行。全国を旅しながらもライヴを重ね、盟友Keisonとの活動を経て、04年4月には1stアルバム『RAWLIFE MUSIC』を、同年11月には2ndアルバム『Trip in the music』をリリース。旅バンド風なグルーヴ感のあるライヴや、ひとりひとりの「個」へとまるで話しかけているかのような秀逸なリリックが業界内を中心に徐々に口コミで広がり、05年10月にはシングル『Day Dream』でメジャー・フィールドへ。翌年4月には3rdアルバム『WANDER AROUND』をリリースし、着実な足取りでステップアップを続けている。主にサーフ・ロック系の海外アーティストなどとの共演や、イベントなどにも多数出演し、時に他のアクトもたじろぐような伝説的なライヴをいくつも残してきているが、本人はいたって控えめ。スローに韻を踏むかのような独特のメロディー・センスと、洋楽を中心としたソウル、ロック、ヒップホップ、ブルースなどへの愛情から生み出される音魂。良く出来た架空のラヴ・ソングなど作らずに、自分の歩いた道を、その目に映っているものだけをありのままに描き出す姿も実に痛快で、意外に男性ファンが多いのもその辺にあるのかも知れない。「自分に向けるようにして歌えば、自分に良く似た誰かの心に刺さる」。そのことがきちんと理解出来ている、非常に数少ない天才肌のアーティストのひとりである。

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