【まきちゃんぐ】


文:高木智史

さまざまな作風でありながら一体感を感じる深くて新しい作品

デビューから約1年の女性シンガーソングライター、まきちゃんぐ。彼女の1stアルバムのタイトルは“知と性、毛布とセックス”。無骨な言葉で、なんて強烈なんだろう。最初そのインパクトに怖さを感じ、作品に込められている彼女の体温を計ろうとすることができなかった。しかし、このタイトルにはなんだか、ある種の挑戦状みたいな迫力もある。

まきちゃんぐの挑発に負け、まず、聴こえてきた楽曲は「9cmのプライド」。いきなりの衝撃。“もしかして違うCDを聴いてしまった!?”と思うほど、これまでの作品とは違うイントロダクションのジャジーなサウンドが耳に飛び込んできた。そして次に、まきちゃんぐ特有の生々しい歌と歌詞。それがグルービーなサウンドに乗ることで一層生々しさを増し、1曲目にしてすでに彼女の歌に呑まれていた。さらに衝撃は続く「レプリカ」で繰り返す。これまた新たな手法である打ち込みを取り入れたサウンドから始まり、サビではバンドサウンドが爆発する。それは“レプリカ=複製”というタイトルが物語る、女性の儚く切ない恋心を表している。打ち込みのサウンドが構築する無機質な世界感はそのまま、終わった恋愛を回想している切ない様を表し、それへの怒りや次へと歩もうとする感情を荒々しいサウンドで表現している。芸術的であり、まきちゃんぐの深い音楽感を感じた。今作には、もちろんこれまでの3枚のシングルも収録されている。彼女の原点であるピアノによる女の子のストレートな心情を歌った「ハニー」、ストレートな歌にさまざまなサウンドをプラスすることによってドラマチックさを増した「煙」、女性の抱える恋の痛みや呻きだけを表現するのではなく、前を向く強い意志が込められた「鋼の心」。それらを取り込んだ、第一作目のアルバムがまさか、こんな広いレンジで繰り広げられるとは思ってもいなかった。

その他にも、明らかにファンは驚くであろう、アッパーチューン「あの丘へ行こう」、再びピアノ一本に立ち返った「メトロノーム」…。特に「あの丘へ行こう」の歌詞は陽気であっけらかんとしたものではなく、“人なんて 皆 そう 愛が足りない” だから“手を繋ごう”と人の暗い内部をじっと捉えてきた彼女だから描ける歌詞に深さを感じる。

デビューからの約1年間で、まきちゃんぐは、しっかりと自分の内面、音楽の表現方法などを考えてきたのだろう。僕にとって、この『知と性、毛布とセックス』は改めて彼女を知ることになった、まきちゃんぐの深くて新しい作品だ。

まきちゃんぐ

1987年9月19日生まれ、岡山県出身の女性シンガーソングライターまきちゃんぐ。学生時代からバンドを組むなど音楽活動を行なってきたが、05年12月よりソロでの活動を開始。06年11月、『ヤマハティーンズ・ミュージック・フェスティバル』全国大会に中国四国代表で出場。08年1月に<VAP>より1stシングル「ハニー/ちぐさ」でメジャー・デビュー。その後、映画『青い鳥』の主題歌に抜擢された「鋼の心」を含む2枚のシングルを経て、12月に1stアルバム『知と性、毛布とセックス』をリリース。

09年3月に実施した初のワンマン・ライヴ「ウェルカム トゥ ザ マキヂャングル」はチケットが完売するなど成功を収めた。09年6月に発売された4thシングル「愛の雫」は、10年に岡山県で開催される第25回国民文化祭『おかやま2010』イメージ・ソングに起用されるなど、中国地方での認知は大変高い。東京でのライヴ活動も回を追う毎ごとに観客動員数が増え続け、切ないメロディと飾りのない言葉が絶妙な歌たちを類稀な魅力ある声と歌唱力で我々に届けてくれる。

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