【Mr.Children】
取材:松浦靖恵
“人を喜ばせたい”という気持ちが生んだアルバム
Mr.Childrenの15thアルバム『SUPERMARKET FANTASY』は前作『HOME』から約1年半振りのオリジナルアルバムになる。デビュー15周年だった昨年は『HOME』、シングルのカップリング曲を収録したアルバム『B-SIDE』、人気ケイタイ小説を原作にした映画『恋空』の主題歌「旅立ちの唄」をリリースし、また約70万人を動員したアリーナツアーとスタジアムツアーを行なうなど、記念すべき“15周年”をミスチルの音楽を愛してくれる人たちと共に過ごすべく、年間を通して精力的に動いていた。そんな活動的な1年間を過ごしたのだから、ツアー後はもしかしたら少しはオフを取って、それこそ身も心もゆっくりと休める充電期間に入ってもおかしくなかったし、ツアー終了後や08年という新しい1年の始まりを迎えてからもしばらくの間はMr.Childrenからの“新しい情報”はなかなか伝わってこなかった。しかし、彼らはツアー終了後、すぐにスタジオに集結して、“出来上がったばかりの新曲たち”のレコーディングをスタートさせていたのだった。
その新曲たちの中のひとつ、「少年」はNHKドラマ『バッテリー』の主題歌に起用され、その時点ではまだCD化の予定がないにもかかわらず、大きな注目を浴びた。そして、「旅立ちの唄」以来、約9ヶ月ぶりのシングルとなった「GIFT」は、08年8月に行なわれた北京オリンピックのNHK放送のテーマソングになり、オリンピックの感動的シーンと共に、私たちの耳に届いた。その「GIFT」を皮切りに、「HANABI」(ドラマ『コードブルー ―ドクターヘリ緊急救命―』主題歌)、ライヴDVD『Mr.Children“HOME”TOUR 2007~in the field~』と、3ヶ月連続リリースを行ない、その間にも『ap bank fes’08』など、5本の夏フェスに出演。またシングルリリース時には何本もの音楽番組に出演するなど、08年のMr.Childrenは、デビュー15周年の07年に負けないほどエネルギッシュな動きを見せていた。
そんな彼らから届けられた約1年半ぶりのアルバム『SUPERMARKET FANTASY』は、桜井和寿いわく“とても開かれた作品”になった。
今作には「旅立ちの唄」「GIFT」「HANABI」などのヒットシングル曲、「少年」、映画『私は貝になりたい』(11月22日公開)の主題歌「花の匂い」(この曲はMr.Children初の配信限定シングル曲)、「羊、吠える」(シングル「旅立ちの唄」カップリング曲)など、実はアルバムがリリースされる前からみんなが耳なじみの曲が多く収められている。全14曲中6曲が、すでに“何らかの形で世に出ている曲”になるわけだ。Mr.Childrenほどのビッグアーティストになれば、確かにタイアップが付いたシングル曲は多くなる。その分、リリース前から耳にする機会も増えるわけだが、桜井の“とても開かれた作品”という言葉には、きっとそういうたくさんの人たちの耳や心に届いた曲がここには入ってますよ、という意味も含んでいるのかもしれない。例えば、ミスチル初の配信限定シングル曲となった「花の匂い」なども、今や音楽配信やダウンロードが音楽を入手する手段として当たり前のようになっている現在、それこそCDはあまり買わないけれど、そういう方法では購入しているという人たちにもMr.Childenの新曲を届けたい、聴いてもらいたいという想いがあって、配信限定シングルという形で「花の匂い」を発表したのだろう。前作『HOME』は温かな空気に包まれたアットホームな雰囲気を持っていたアルバムだったけれど、『SUPERMARKET FANTASY』は、みんなの側にある、みんなの日常の中にすでにある歌が何曲も収められていて、より彼らの音楽を身近に感じられるアルバムになっていた。
昨年12月からスタジオに入り、レコーディングを中心に日々を送っていた彼らではあったけれど、実はその期間にアルバム収録曲の全てをレコーディングしていたわけではなかった。昨年のツアーの合間を縫っては新しい曲を何曲もレコーディングしていて、このアルバムには収録されなかった曲も何曲もあり、実はシングルになった「GIFT」「HANABI」、そのシングルに収められていたカップリング曲「横断歩道を渡る人たち」「風と星とメビウスの輪(シングルバージョン)」などのレコーディングの方が今年に入ってから行なわれたのだそうだ。昨年のスタジアムツアー中にレコーディングした「羊、吠える」。実際に水上バスに乗ってから歌詞を書いたという「水上バス」。一番最初に歌詞を書いた時の気持ちがそのまんま描かれた「エソラ」。昨年の夏フェスで演奏していた「少年」。目まぐるしく移り変わる東京の中にも大切にしたい人がいるんだと気付かせてくれる「東京」。軽快なバンドサウンドが鳴り響く「ロックンロール」…。アルバム『SUPERMARKET FANTASY』は、パワフルでキラキラした光を放つアルバムだ。
「『HOME』ってすごく成功したアルバムだと思うし、「しるし」って曲も多くの人たちに聴いてもらえた曲だったし、ホント、いい出来事をさまざまな形やいろんな方向から感じさせてもらったアルバムだと思うんです。そうするとね、ついつい、じゃあ次はもっと実験的なものでもやるかなとか考えがちなんだけど…。でも、なんかそういうものはヤダなと思って」(桜井)
「最初の頃に桜井からの“人を喜ばせたいっていうのが(アルバムの)キーワードだ”みたいなことを聞いてたせいもあるんだろうけど、それでもメンバー全員がね、“喜ばせたい”っていう気持ちで向かっていったレコーディングだった」(中川)
たくさんの人たちにMr.Childrenは愛されている。Mr.Childrenの音楽は、多くの人たちに愛されている。だからこそ、彼らはそんなみんなの気持ちに応えたかった。4人の誠実な、感謝の気持ちを形で表す方法は、ただひとつ。Mr.Childrenの音楽を届けること、キラキラと輝いているMr.Childrenを届けることだった。新しい歌ができたから、みんなに聴いてもらいたい歌がたくさんあるから、彼らはレコーディングを続けていたのだった。
アルバムの1曲目が「終末のコンフィデンスソング」のような軽快な曲というのも、とても新鮮だろう。これもまた「“僕らはこんなことを深く考えてますよ”的な前置きはなしで、それこそ極端なこと言っちゃえば、“えっ、こんな曲1曲目にしちゃうの!? えっ、軽くない? ミスチルにしちゃあ!!”っていう1曲目って、新鮮でしょ? 僕らも新鮮ですもん」(桜井)
「なんかね、今回のアルバムってMr.Childrenの1stアルバムに近いような感じがした。あの感じに一番似てるのかもなぁって。でね、いい意味なんですけど、青い感じがする。その青さの中にあるキラキラ感とかパワフルさが出てるって感じがするんですよ」(鈴木)
アルバムタイトル“SUPERMARKET FANTASY”も、これまでのミスチル作品にはなかったタイプのタイトルだろう。実はこれ、メンバーから出た案でも、それこそプロデューサーの小林武史から出た案でもなく、アルバム『HOME』やシングル「GIFT」「HANABI」などのアートディレクターを担当した、森本千絵が提案したタイトルだった。彼女はいつもジャケットなどのプレゼンをする時に、いくつものアイディアを出し、そのアイディアのひとつひとつにタイトルを付けているのだとか。今回のジャケットに起用されたアイディアに名付けられていたのが“SUPERMARKET FANTASY”だった。
「以前からアルバムのタイトルよりもジャケットの方がまず目に飛び込んでくるものが多いと思っていたし、それこそ、いいジャケットができれば、そのジャケットに合ったタイトルを付ければいいじゃないのかなと思っていた」という桜井は今回彼女から提示されたこのジャケットやタイトルは「今回のアルバムに合うっていうだけじゃなくて、Mr.Childrenというバンドを表しているように思えたんですよ」と言っている。
誰もが日常の中で足を運ぶスーパーマーケット。そこにはいろんな品物が並び、日々さまざまなものが買われて、消費されていく。けれども消費されているということは、どんな形であれ必要とされているということだ。それは何かしらの役に立っているということだ。美味しい食事になったり、その食卓を囲む家族や恋人や友人たちとの楽しいおしゃべりを作ってくれたり、甘いお菓子に笑顔がこぼれたり…。
「『HANABI』とか『GIFT』とか、タイアップが付いてた曲って特に消費されるものなんだろうなぁとは思うけれど、そこを嘆くんじゃなくて、ちゃんとそこに飛び込んでいってでも、消費されながらも、必ず何かを残してるんだってことを信じつつ、そういうファンタジーってものを残せるような作品を作るっていうモチベーションがすごくあってできたアルバムだったから、このアルバムタイトルってホントにぴったりだと思ったんですよ」(桜井)
09年2月14日(バレンタインデイ!!)からは全国ツアー『Mr.Children Tour 2009~終末のコンフィデンスソングス~』がスタートする。Mr.Childrenが年明け早々からツアーを行なうのは初めてかもしれない。09年の始まりから、Mr.Childrenのコンフィデンスソングが鳴り響く。
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