【NONA REEVES】


取材:榑林史章

あくまでもすげーGrooveする!

2年ぶりのアルバムですが、まずはどんなところから考えて作っていったのですか?

郷太

僕は音楽でその時代を象徴するのはリズムだと常々思っていて。今回は全曲で生ドラムを使っているんですけど、もちろん打ち込みもあるんで、それと生ドラムをどう組み合わせるかというところでしたね。その点で矢野博康さんはドラマーなので、僕らをモダンで現代的なところに引っ張り上げてくれるんじゃないかと思ってお願いしたんです。もともとは早稲田の3コ上の先輩で年齢もキャリアも近いし、同じ目線で一緒に作れると思ったんですよ。

小松

ドラム録りは確かに時間をかけましたね。細かいプレイより、楽器のチョイスや音色選びみたいなところで。今回スネアは全曲違うもの…ヴィンテージも結構使ってますね。時間も機材も贅沢な使い方をしました。

奥田

矢野さんはとことんフェチでディテールの人。ドラムに限らず、細かい音まで緻密な耳で聴いてくれる。サウンドやアレンジに対して解像度が高いって言うのかな。そういう部分で昔から信頼しているので、僕ら3人に矢野さんが加われば、新しいものができるんじゃないかなと。

どの曲もシンセやギターなど、80年代のプリンスやナイルロジャースを彷彿させて面白かったです。

小松

リズムはすごく今っぽいですけど、あとは僕らが昔普通に聴いていた音楽の影響が自然に出ている感じだから。

奥田

バンドとしての手慣れ感は排除して、それ以前のもっとピュアな原点的でところを引き出していこうっていう。

郷太

サポートミュージシャンを入れずに、ほとんど僕ら3人でやっているのもポイントですね。3曲だけ昔からの仲間がベースを弾いてくれているけど、他は全部シンセベースで僕が打ち込んでいるんです。僕らが“今、どういう音楽をやるか?”を究極的に突き詰めて出た結論が、現代的なリズムと一番自分が影響を受けたもの…他ならぬ僕らの音楽の感じ方を出していくことだったんです。例えば「A-ha」はデュランデュランやファルコ、ユーリズミックスとかのヨーロピアンで暗めのバカディスコみたいな音を意識していたり。

小松

やってる最中はニヤニヤして聴いてることが多かったかな。シンセの音も“うわ~懐かしい!”みたいな。もちろんレコーディングはピリピリしてるんだけど、サウンドを聴いてる瞬間はニヤニヤしてるみたいなね(笑)。今回はアレンジががっちり決まっていて、それを叩かないといけないのがいくつかあって。「GO」なんかは指定フレーズが満載で、それを必死で練習して録りました。

奥田

「A-ha」はやっていそうなのに、やってなかったタイプの曲。質感がこのアルバムをすごくよく表しているなって思う。聴いてくれる人もニヤニヤしてほしいよね。

本当ニヤニヤしっぱなしでしたよ(笑)。あと「Hey Everybody!」の歌詞で“ありおりはべりいまそかり”がすごい頭に残るのですが。

郷太

“ここにいらっしゃる”みたいなことなんだけど、僕がHAL-CALIに書いた詞のボツネタです(苦笑)。そういう他のアーティストとの仕事でボツになったものが結構溜まっていて…僕、そういうのも大事にするタイプなんで。

「Yeah」は、ギターのイントロがプリンスの「ビートに抱かれて」みたいですよね。

郷太

プリンスとマイケル・ジャクソンの「BAD」を合体!

奥田

僕は何か暴力的でサイバーな『北斗の拳』とか『マッドマックス』の感じをイメージしました。

郷太

歌詞には、100年に一度の不況とか、世の中の不穏な空気を自分なりの言葉で入れていこうと思って。それで、今までにないハードボイルドな感じになっているんです。前はそういう社会的なメッセージは歌わないと決めていたんだけど、30歳過ぎたしもういいかなと思って、何曲かそういう歌詞があるんです。

“ベロベロ泳げばカスピ海”がハードボイルド?

小松

その歌詞じゃないですけど(笑)。

郷太

頭の“滅びる街シャボン玉みたいにパンク”って歌詞のところですよ。

「1989」もメッセージソングのうちの1曲ですよね。メロディーとサウンドに郷愁があって心にグッときます。

郷太

ニューエディションとかニューキッズ・オン・ザ・ブロックとか、80年代のジャム&ルイスやベビーフェイスの初期みたいな曲を作りたくて。ニュー・ジャックス・ウィングとブラコンの間にあるみたいな感じのバラードですね。

“1989年”は思い入れのある年なんですか?

郷太

思い出すとちょうど平成になった年で、ベルリンの壁が崩壊した年でもある。今の高校生の歴史の教科書では、この89年からが“現代”と言うらしくて。思い返すと、僕はちょうど中3で、子供から若者に成長する分かれ目になっていた頃なんです。“20世紀に生まれた俺たち”という歌詞があるんですけど、僕がマイケル・ジャクソンの『スリラー』を買ったのが9歳の時で、20世紀の最後に生まれた子たちもちょうど今9歳なんで、そこを重ね合わせていたり。最初は思い付きで付けたタイトルだったけど、あとで思うといろいろ考えることも多いなって。

アルバムのタイトル“GO”に込めた気持ちは?

郷太

最初にできたのが「A-ha」と「GO」だったんで、仮で“GO”と付けていたんです。今となっては“GO”しかあり得ないんだけど。“あくまでもすげーGrooveする!”という歌詞があって、それが今回のアルバムを言い得ているとも思ったし。世の中いいことばかりじゃないけど、3人ともいろんな形で音楽をやって来て、それでまた“出発するぞ!”みたいな気持ちも込めていますね。

NONA REEVES

天才ソングライター西寺郷太(vo)率いるNONA REEVES。青春風情のネオアコ/ギターポップ、クラシック・ロックからソウル/ファンク、ディスコ、AOR、ヒップホップに至るまで節操なく取り入れた、自由自在かつ余裕綽々な雰囲気のハッピー・サウンドで人気を博す。彼らが現在までに世に残した、「I HEARD THE SOUND」「STOP ME」「LOVE TOGETHER」「DJ!DJ!〜とどかぬ想い〜」「ENJOYEE!(YOUR LIFETIME)」「アルファベット・ボーイ」……などなど、エヴァーグリーン極まりない楽曲群。それらは、ジャクソン5やシュープリームス、ワム!のヒット・ナンバーを初めて聴いたときのような、あのワクワク・ドキドキな気分を明確に蘇らせてくれる。

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