【BUMP OF CHICKEN】聴く人誰もの心
に響いてやまない新作2作
L→R 増川弘明(Gu)、升 秀夫(Dr)、藤原基央(Vo&Gu)、直井由文(Ba)
“生き続けることの意味”を切実さを持って歌いかける「HAPPY」と、私小説的な世界観に普遍性が織り込まれた「魔法の料理~君から君へ~」。このシングル2作品について、ソングライターである藤原基央(Vo&Gu)が語ってくれた。
取材:竹内美保
僕が心震える出来事があったから
僕は歌にしました
まず「HAPPY」のお話をうかがいたいのですが、非常に切実に響いてくる、痛烈に刺さってくる歌ですけれども、この作品を書くきっかけは何だったのでしょう?
登場する少年と少女は、僕の友達なんですけれど。“少年”“少女”と表現していますが、僕と同世代の友達で。そのふたりに対しての僕なりの思いを書いたんです。だから、友人に贈った曲…“贈った”なんて言い方はちょっとおこがましい気もしますけど。で、どうしてそういう曲を書いたかっていうと、それはふたりのプライベートなことがきっかけなので、それをお話することはできないんです。
はい。ただ、藤原さんの中で“この歌を贈りたい。伝えたい”という思いが強くあったことは確かなんですね。
そうです。居ても立ってもいられないっていう感じはありました、僕の中では。
これまでの藤原さんの作品にも“生と死”をテーマにした歌はありましたけれど、大切であるがゆえに難しいこのテーマを歌うことは、日常の普通の物事を歌う以上により心配りが必要という意識もありますか?
うーん、どうでしょうね。逆に、いろんなことを“生と死”から切り離して考えるのは…こと歌詞に関しては、歌いたいことがあってそこを掘り下げていくと、そういうところにやっぱり行き着くので。だから、それが自然な現象というか、勝手にそうなっちゃいますよね。もちろん軽々しく扱っていいものだとは思わないけれど、そもそも僕自身も曲を書く時はあまり軽々しくは書けないから、昔から。だから、そういう結果の産物だと僕は思います。でも、そんなに高い敷居をまたいだとは思ってないんです。
生まれてきた瞬間から宿命ではありますからね、“生と死”と対峙していくのは。
うん。でも、そこに僕はロマンチックさとか、ドラマチックさを感じるわけでもないし。逆に、シニカルに考えるわけでもないけど。昔から曲作りをしてきたから、単純にひとつの情報として、ひとつの現象として、そういうことがどうしても無視できないようになっていったというか。だから、当然そういうことだって歌わなければいけないし。この歌も“僕が心震える出来事があったから、僕は歌にしました”っていう。でも、それは作家としては何よりも強い動機になりますよね。
“僕と一緒に歌おう”という、この言葉は救われる感覚がありました。藤原さんは“一緒に”とか“みんなで”といった表現はまずしてこなかっただけに、特に。
そうですね。この“一緒に”は、自分の中でも結構ハードルが高くて。“一緒にコンビニに行こうよ”とは言えても、こういう“一緒に”は簡単に使っちゃいけない。“一緒に”なので。で、そういう役割を持った、そういう意味合いを持った“一緒に”っていうのは、人生の中でもそんなに多くは言えたことはないし。だから、言うことをとても躊躇してしまう“一緒に”なんですけれど。そこはもう、そういうふうに歌う必要があったんですよね。
そして“Happy Birthday”のコーラスですが、この言葉はワンワードとして普通に捉えれば“お誕生日おめでとう”になりますが、この歌からは“生まれてきたこと、そのことへの祝福”にも感じましたし、“生き続けていることが確認できる言葉”にも思えて。藤原さん自身は、この“Happy Birthday”にどういう思いを込めたのでしょうか?
“Happy Birthday”って誕生日に言う言葉なんですけれど、あまり“お誕生日おめでとう”という気持ちでは歌っていません。その言葉自体は、いつ言ってもいい言葉なんじゃないかなというか、そういう意識自体はいつ持っていてもいいんじゃないかなと思います。曲と関係なく、その言葉自体に対して言うのなら。曲と関係したところで言うと、そこでどう思ってくれるのかなっていうのが、ある意味僕も楽しみで。そこは、聴いてくれる人は十人十色でしょうし。実は、この“Happy Birthday”のコーラスワークには、ちょっと仕掛けもしてありますから。
サウンド面についても、お聞きしたいのですがイントロからハッとさせられるような音作りで、ブギー的なギターのリズムを中心に“前進”するイメージを受けたんですけれども。
そのイメージは言葉の印象もあると思うんですけれど。音だけで言えば“イエーイ!”っていう感じのノリです(笑)。ジャンルで言えばサザンロックの部分もあるし、グラムロックの部分もあるし。一番最初は今おっしゃったギタープレイから始まったと思うんですが、これは僕の手クセみたいなもので。僕のデモテープの段階ではシンプルな感じだったんですけれど、プロデューサーも加わってメンバー全員でいろいろ試していくうちに、新しいアイデアがどんどん入っていって今のかたちになりました。
サウンドの全体像はアレンジメントの段階で広がっていったということですか?
そうです。でも、大幅に違うのはひとつだけですね。みんなでオーケストラヒッツを作って入れたんですけれど、それによってデモテープ段階でのアレンジが持っていた温度感にストイックさとダンサブルな要素が加わりました。
『みんなのうた』で放送されることは
本当に想定外だった
NHK『みんなのうた』で放送されている「魔法の料理~君から君へ~」は、まさに“みんなのうた”ですね。
それを…『みんなのうた』に決まった話を言われた時にね、“これはどこをどう切っても俺だけの歌だよ”って思って。“俺だけのうた”って仮タイトルを付けようと思えば付けられますよって。それが“『みんなのうた』で流れるなんて大丈夫か?”と思いました(苦笑)。光栄なことでうれしいんですけれど。
“それぞれの、みんなのうた”にも成り得るといいますか。この歌は今の自分と子供時代の自分との対話のような感じだと思うんですけれど。誰もがそれぞれの子供時代の経験があるなと思うと、“みんなのうた”で放送されるのも当然の気もします。
そうですか? でもホント、この歌が“みんなのうた”になるというのは想定外だったので。僕の中では“20代最後のアルバムを作ろうぜ”ってプロデューサーに言われていて、その言葉が頭にありながら、日々悶々としながら、29歳残りあとわずか…去年の4月、30歳の誕生日数日前に滑り込みセーフで書けたような曲だったんです。しかも、プロデューサーの“おまえの20代最後の曲たちを集めたアルバムを作ろうぜ”の“おまえの”に強調の点々が付いているような感じだったから、“オレの”っていうのが頭の中でグルグル回ったまま過ごしてきた中で。で、“20代”って言われたら、否が応にも過去を振り返ることになってきて。そして、いろんなことを振り返り始めたらこうなっていたという…そういう曲です。だから、もうこんなことになるとは。
でも、“俺だけのうた”であっても、聴き手として感じるものはすごくあります。子供が“君の願いはちゃんと叶うよ”って歌いかけられたら、“そうなったらうれしいな”って希望を持てる。逆に“君の願いはちゃんと叶うよ”って言える大人になれていたらうれしいなって大人は思える。そんなことをこの歌を聴きながら感じました。
あぁ、なるほど。ただ、僕自身としては今言われたこととかを思うこともおこがましいんです。ホント、聴いてもらうことすらも考えてなかったから、この曲に関しては。
そして、それぞれのシングルのカップリング曲ですが。
『pinkie』はね、プロデューサーから“『HAPPY』のカップリングとして桜をテーマに曲を書いてくれ”というリクエストがあったんです。でも、“桜の歌”って、つまりは“卒業式の歌を書いてくれ”っていうことだったと思うんですけれど、僕の中では“桜”というものの観念的な曲しか書けなくて。でも、これも“おまえの書いた桜の歌”というリクエストに対しての、“俺の書いた桜の曲です”ということになるんですよね。ただ、僕は“クリスマスソングと桜の曲だけは、一生書かないだろうな”と思っていたんですけれど…この短い期間で両方体験してしまいました(笑)
“観念的”ということを今、言われましたけれど、それはすごく思います。正直、この歌詞の解釈は悪戦苦闘しました。自分なりに感じたところでの何となくの解釈というのもなかなか見えてこないので。
それはそうですよね。絵の具の色が混ざって色が変わって…7~8色ぐらいの水彩絵の具が水と一緒にグチャグチャって混ざって“何色の部分なんだろう?”っていう、その色が変わっていく境目みたいな歌詞だと思うので。でも、もしその中で興味を持っていただけたなら、いろいろと思い巡らしてほしいなと思います。
「キャラバン」は鈍色っぽい重さでズーンと沈むようなサウンドで。「魔法の料理~君から君へ~」のカップリングにこの曲というのはかなり強力なバランスですよね。
そうかもしれないです。これはフレーズが呼んだサウンドだと思います。でも、和音が見えなきゃいけないので、歪めばいいってものでもなくて。太さはありますけど。
歌はもう、人の心の内が暴かれているような。
歌詞ですか? これはね、スタジオに入って曲作りしていたら、こういうふうになっていっちゃったんです(苦笑)。僕はものすごく清々しい気持ちで、朝、ドアを開けて、スタジオに来たはずだったんですけれど。
清々しい気持ちなのに、書けたのは重い曲という。
重いってあまり思ってないんですよ、僕自身は。振り切ってさえいれば、感情の中にそんなに棲み分けはないなというか。あ、ひとつ思い出した! デモを録る時、普通はまずアコギを弾くところから始まるんですけれど、僕がアコギをしっかり弾けるコンディションではなくて。それでこの曲はエンジニアさんのコンピューターの中のアンプ・シュミレーターを使って、エレキをガーッと弾いてガーッと歌って。で、四つ打ちでキックを打って、デモを完成させたんです。そうしたらレコーディングの時にみんなが“この感じがいいんじゃないか”ってなりまして。だから、歪んでいるし、四つ打ちを基調としたフレーズになっているんです。なので、そこの重さはあると思います。そのフレーズが醸す重さっていうのが。そういう偶然の副産物がみんなの中でスタンダードになっていった、この曲のスタンダードな解釈になった、ということですね。たぶん、アコギで弾いてる曲だったら“これをエレキでガシガシやるのはないでしょ”ってなっていたと思うので。
シングル2作、全4曲。それぞれタイプは違いますけれど、どの曲も同じ重みを持って響いてきました。メイン、カップリングという位置付けも関係なく。
それはメチャメチャうれしいです。カップリングがあまり聴いてもらえないことにショックを受けて、カップリング集まで出したバンドなので(笑)
この2作のリリースの先はアルバムに向かっていくという流れでしょうか?
ずっとそういう作業をしていくと思うんですけれど、まだ具体的な話は出てきていないんです。アルバムを出せるぐらいの曲数はすでにありますが、新曲もまた書いていますしね。でも、制作は楽しく続いていますので。
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